❀ 第壱部 第肆章 凍てつく心と梅雨の空 ❀

第壱話 【 雨の日の出会い 】

 季節は過ぎ春を終え、雨の滴る梅雨の季節。


 灰夢は受けた仕事の依頼を終えると、

 いつも通り、月影の店へと帰ってきた。




「やぁ、灰夢くん。おかえり〜っ!」

「あぁ、ただいま……」

「仕事は無事に終わったかい?」

「あぁ、特に問題なしだ……」

「さっすが、灰夢くんっ! お疲れ様……」


 中に入ると、蒼月と梟月がいつも通りに迎え、

 灰夢が狼面を外しながら、二人の出迎えに応える。


「……にしても、よく降るね」

「まぁ、天気は入口の地域と同じだからね」

「今は、お前らだけなのか?」

「双子ちゃんと霊凪ちゃんはお買い物だよ」


「よく思うんだが、風鈴姉妹ふうりんしまいは、あのまま外に出て大丈夫なのか?」

「あんな子供の耳や尻尾なんて、装飾品にしか見えないって……」

「……そう、なのか」

「大丈夫、大丈夫っ!」



( まぁ、確かに。見た目は子供のコスプレか )



「リリィと言ノ葉は?」

「リリィちゃんは、今朝から仕事だよ」

「あいつは、いつも忙しいな……」

「リリィちゃんは護衛任務が基本だし、長期の事もあるからね」

「……まぁ、それもそうか」

「言ノ葉ちゃんは、今さっき帰ってきたよ。友達連れて……」


 それを聞いて、灰夢がしかめっ面を向ける。


「……友達? こんな所に呼んでるのか?」

「うん、学校が同じらしくて、を持った子らしいよ」

「そうか、珍しいこともあるもんだな」

「まぁ、言ノ葉ちゃん優しいからね。見たら放っておけないタイプでしょ」

「まぁ、確かに。正義感が強いタイプだからな」





 灰夢は狼面を見つめながら、その少女のことを考えていた。


 多くはないが、忌能力を隠して生きている忌能力者はいる。

 そのうちの一人が学校にいても、何もおかしい事じゃない。


 灰夢の不死身は、生まれた瞬間から身についていた。

 だが、年齢が進まなくなったのは、青年になってからである。


 そのように、人によっては、成長と共に変化する場合や、

 あとから発現する場合の例も、忌能力の中には存在している。


 遺伝、先祖返り、変異など、原因は人によって異なるが、

 中高生。特に成長期という時期は、それが現れる例が多い。


 そう言う人間を、たまたま言ノ葉が見つけたのだろう。

 そう心で、一人、考えながら、灰夢は再び狼面を付けた。





「なら、部屋以外は、お面を付けておくか」

「あまり顔が知られたくないなら、その方がいいかもね」

「俺は少し、部屋で休んでるぞ……」

「うん、お疲れ様……」


 そう告げると、灰夢は自分の部屋へと向かった。



 ☆☆☆



 灰夢がいつも通り何も気にせず、自分の部屋の扉を開ける。

 その時だった──


「──ひゃっ!?」

「……あ?」


 自分の部屋の中に、知らない少女が立っていた。

 下着姿に、ワイシャツを脱ぎ掛けた見知らぬ少女が。


 灰夢は考えた、死術を使わずにリミッターを開けそうな勢いで──


 部屋は和室、この建物の小部屋で和室は、灰夢と霊凪の部屋だけである。

 そして、六畳間の部屋にゲームとテレビだけが置かれた殺風景な部屋。


【 間違いなくここは俺の部屋である 】ということを再認識した。


 では、何故知らない少女がいる?

 そもそもこの子は、どこの誰だ?


 そして何故、俺の部屋で着替えをしている?

 考えれば考えるほど、灰夢の中で謎は深まる。


 そして、まず今自分がすべき行動は何か──

 扉を閉めるべきか? それとも謝罪をするべきか?



 ──そもそも俺が悪いのか?



 見てしまったものを『 見てません 』と言うのは一番良くない。

 それは、いくら無神経な灰夢でも、さすがに分かっていた。


 なら、一番正しい回答はなんなのか。

 それを、なけなしの頭で必死に考える。



 ──そして、一つの答えに行き着いた。



 以前、蒼月がリリィに抱きつこうとして、ぶっ飛ばされた時の一言。

 もしかしたら、あれが、女性に対しての礼儀なのかもしれないと──


 だから、灰夢は扉を閉めながら、その一言を少女に告げた。


「ご、ご馳走様でした……」

「キャァァァァァァァァァァァァッ!!!!」





 灰夢が悲鳴を遮るように、そっと扉を閉めた途端、

 突然の急激な冷気と共に、灰夢の腕と扉が凍りついた。

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