第拾弐話【 守護神と破壊神 】

 梟月は、霊凪、言ノ葉、鈴音、風花と共に、

 妖魔の集まる店の目の前まで戻ってきていた。





「さて……。わたしたちは、店の周りを片付けるとしようか」

「そうね。たまには、大掃除をしなくちゃ……」


 店に群がる大量の妖魔を前に、梟月と霊凪が言葉を交わす。


「霊凪……。この子たちを、任せてもいいかな?」

「えぇ、大丈夫よ。任せてちょうだい」


 梟月は鈴音と風花を霊凪の肩にそっと預けると、袖を捲り、

 ガントレットを展開しながら、店の妖魔たちを見つめていた。


「行ってらっしゃい、あなた……」

「ありがとう。言ノ葉たちは、霊凪から離れてはいけないよ」

「はいっ! お父さん、頑張ってなのだぁ~!」

「梟の、おじさん……。気をつけて、ください……」

「無理しないでね、梟月さん……」

「あぁ、ありがとう。わたしたちの帰るべき場所を取り返してくるよ」


 家族に笑ってみせてから、梟月が妖魔の群れへと向かっていく。


「ヨウコ、ミツケタ……」

「オレタチ、ツイテル……」

「イタダク、ヨウコ、ボク、ツヨクナル……」

「残った人間も、皆殺しだ……」


 妖魔たちが、風花と鈴音を見てヨダレを垂らす。


「あの子たちが欲しければ、わたしを倒してからにしなさい」

「人間如きが、俺たち相手に何が出来るッ!!」


 真ん中に立つ筋肉質な妖魔が、梟月を威嚇し始めた。


「任されてしまった以上、わたしも負ける訳にはいかないんだ」

「くだらない、何も出来ない下等種族が──ッ!!!」

「…………」


 妖魔が勢いよく殴り掛かり、梟月の顔面に自分の拳を叩き込む。

 ……が、片手で受け止める梟月は、その場から1ミリも動かない。


「な、なんだ……。こいつは……」

「まさか下等種族を相手に、これで終わりじゃないだろう?」

「この、人間如きが──ッ!!」


 妖魔が怒り狂うように、何度も蹴りと拳を梟月に叩き込む。

 だが、何発を叩きこもうと、梟月は1ミリたりとも動かない。


「こいつ、ピクリともしねぇ……。なんなんだ、お前……」

「わたしの名は不動 梟月。だッ!!」


 そういって、梟月が一撃だけ妖魔の懐にに拳を叩き込むと、

 凄まじい衝撃波と共に、店を貫通して妖魔が飛んでいった。


「カゾク、マモルモノ……。ジブンノイエ、コワシタ……」

「ニンゲン、ジャナイ……?」

「ドコニ、アンナチカラガ……」


「店はいくらでも直せばいい。わたしが守るのは、だ」


 圧倒的な力を見せつけながら、梟月が妖魔を威嚇する。

 そんな殺気を放つ梟月に、周りの妖魔たちが焦り出す。


「コイツ、ツヨイ……」

「くそっ、どうすれば……」


「どうした、人間は皆殺しにするんじゃなかったのか?」


「くっ──。相手は一人、数でかかれば一瞬だッ!! 殺れッ!!!」

「──カミ、コロスッ!!!」

「──ニンゲン、テキッ!!!」


 指揮を執る妖魔の一言で、妖魔たちが一斉に梟月に襲い掛かる。



























       「 面白い、一人ぐらいは耐えてみせたまえ 」



























        【  ❖ 衝撃反転・天心衝波しょうげきはんてん・てんしんしょうは ❖  】



























「「「 ──グワァァァッ!!? 」」」


 梟月が足を踏み込むと、梟月の体から強力な斥力が放たれ、

 一斉に襲ってきていた周囲の妖魔たちを一瞬で薙ぎ払った。


「なんだ、今……。何が、起きた……」

「ミンナ、フキトンダ……」

「アイツ、ニンゲン?」


 周りで見ていた妖魔たちが、梟月の力に恐怖を覚え出す。


「なんだ、誰一人残らず飛んでいってしまったのか。全く、情けないな」


 周囲に倒れこんだ妖魔を見て、梟月がボソッと呟く。



 ☆☆☆



 その隙に、一匹の妖魔が霊凪たちの後ろに回り込み、

 静かに狩りの構えを取ると、勢いよく襲い掛かった。


( 今のうちに、こっちを食っちまえば──ッ!! )



























『 まだ梟月さんが戦っているんです。ズルはいけませんよ、妖魔さん? 』



























 その瞬間、再び背後に浮かび上がった不動明王が、

 背後から襲う妖魔をギロッと睨み、掴みにかかった。



( ……あれ? 俺が、倒れてる )



 不動明王の大きな手に捕り、半透明になった妖魔が、

 足元に転がる自分の体を見て、思わず思考が止まる。



『……あら、を抜かれたのは初めてかしら?』



 その言葉で初めて、妖魔は自分の魂が引き抜かれたことを理解した。


「あっ……え、ちょ……。なんで、そんなっ……」

「うふふ。このまま、潰してしまおうかしら……」


 そう呟くと同時に、不動明王の手が強く締め付けていく。


「ぎゃぁぁぁ、ごめんなさい。助けて、嫌だ……死にたくないっ!」

「……あら? あなた、殺られる覚悟はお持ちではないの?」

「すいませんでしたっ! ごめんなさい、調子に乗りましたっ!」

「そう……。うふふ、誤ちは誰にだってありますものね」


 霊凪が笑みを浮かべながら、そっと捕まえた妖魔を魂を器に返す。


「──はっ!」

「……目覚めましたか?」


 倒れていた妖魔が魂を得て、ハッと目を覚ますと、

 目の前に立つ、霊気を全開にした霊凪が目に映る。


「あっ、えっとぉ……」



























  『 うちの大事な娘たちに手を出すなら、次はありませんからね? 』



























「……あっ、は……はい。す……すいません、でした……」

「仲間の方々にも、それをお伝えしておくように……」

「も、もちろんです……」

「よろしい。では、私の気が変わる前に、早くお帰りなさい」

「わ、わかりましたッ!! お邪魔しましたぁぁぁ!」


 霊凪の溢れ出る圧力に、妖魔が走って逃げ帰ていった。


「凄い、圧力だけで……」

「逃げていった、です……」

「お母さん、かっこいい……」

「うふふ、ちょっとやり過ぎちゃったかしら?」


 逃げていく妖魔の姿を見ながら、霊凪が静かに微笑む。


「風花……。畳を燃やすのは、もうやめようね」

「う、うん……」


 微笑む霊凪を見た風花と鈴音は、早いところ妖狐の力を、

 コントロールできるようになろうと、心に決めるのだった。



 ☆☆☆



 その間も、梟月は店の周囲の妖魔を蹴散らしていた。


「どうした、もう終わりか?」

「こいつ、何したら動くんだ……」

「わたしに勝てないようでは、わたしの妻には一生勝てないぞ?」


 梟月の後ろから、優しい笑顔の霊凪が、じーっと梟月を見守る。

 その背後から、鬼の形相をした不動明王が、妖魔たちを見つめていた。


「──オ、オニッ!?」

「ヨウコ、ウバエナイ……」

「くそ、こんなバケモノがいるなんて聞いて……ヌハァッ!!」


 霊凪を気にしている隙に、梟月が手に光を集め、

 屋根の上にいる妖魔の一体を、光線で撃ち抜く。


「コイツ、ナニヲシタ?」

「ここに帰る者は、みな……。わたしの家族であり、大切な宝だ……」


「お父さん……」

「梟月さん……」

「梟の、おじさん……」


 そんな梟月の言葉を聞いて、霊凪が静かに笑みを浮かべる。


「それを、わたしから奪うというのなら──」



























    『 月影筆頭、グラウクスの名を背負った、


            この不動ふどう 梟月きょうげつが相手をしてやるッ!! 』



























  『 何度でも、気が済むまでかかってくるがいい。


           我ら月影が全てを持って、薙ぎ払ってくれるッ! 』



























 梟月の言葉に、風花と鈴音は目を潤ませていた。


「クッ、デナオシダ……」

「こんなやつ、妖狐なんかよりよっぽどバケモノじゃねぇか」


 周りにいた妖魔たちが、逃げるように店の周りから離れていく。


「お父さん、かっこいい……」

「当然よ。私が唯一惚れた、心から愛する王子様ですもの……」

「お母さんが魂抜く前に、お父さんがお母さんの心を奪ったんですね」

「うふふ、そうかもしれないわね」


 そういって、霊凪は笑顔で梟月の背中を見つめていた。



























 梟月の後ろ姿には、家族を守る守護神のように、


             巨大なフクロウの姿が、浮かび上がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る