第拾壱話【 破壊兵器 】

 満月みちづきは一人、要塞の上で妖魔が飛び交う空を眺めていた。





「皆も持ち場に行ったし、そろそろ派手に花火を打ち上げるとするか」

「イマノウチニ、ヤッチマe……」


 飛行型の妖魔が満月に襲いかかるも、一瞬で灰となる。

 そして、満月は要塞を降りると、手を大きく空に掲げた。


「──さぁ、ゲームスタートだッ!!」



























       【  ❖ 終焉ヲ告げる煙・破壊開始 スモーク・オブ・ジ・エンド バースト・オン❖  】



























 ──その掛け声と共に、一斉に要塞の砲台が動き出す。


「ウワァ、ウゴキダシタァ!!」

「ギャアアアアァァァアア!!!」

「ミサイル、ヨケラレナイッ!」


 要塞のあらゆる砲撃が、周囲の妖魔たちを一掃していく。


「まぁ、空は問題なさそうだな」


 特にやることもなさそうに、満月が上空を見て呟くと、

 地上から、無数の妖魔が満月の元に向かって走ってきた。


「アシモト、スキダラケッ!!」

「イッキニ、タタミカケルッ!!」



 ──その瞬間、見張りをしていたクマのぬいぐるみ達ベアーズが動き出す。



『殺れ、【 縫熊戦闘軍・地上部隊 グラウンド・ベアトリクス】、敵を一匹たりとも近づけるなッ!!』


『『『 ──キュッ!!! 』』』



 襲い来る妖魔たちを眼帯を付けたクマたちが銃撃する。

 その後方から別のクマたちが、大砲を打ち込んでいく。


 空からはミサイルや電磁砲、ガトリングが雨のように降り注ぐ。

 大量の敵兵に対して、満月が揺るがない防御力で応戦していく。



 ──だが、数匹の素早い妖魔が、その猛攻をも掻い潜り、

 ベアーズを掻き分けて、要塞の中へと飛び込んできた。



「……ほぅ? 貴様ら、よくここまで来れたな」

「あんなオモチャじゃ、俺らのことは殺れねぇよっ!」

「喋れるのか、なるほど……。ただの下級の妖魔じゃないというわけか」


 それを迎撃しようと、数匹のぬいぐるみが向かってくる。


「──キュッ!」

「ここはいい、お前らは引き続き周囲を片付けろ」

「──キュッ!」


 満月に敬礼をして、ベアーズたちが持ち場に戻っていく。


「ぬいぐるみを従えてるだけの主人に負けるほど、俺らは弱くねぇぞ?」

「死にたくなければ、黙って妖狐の力を明け渡せ……」


「それだけ吠える自信があるなら、力ずくで奪ってみたらどうだ?」


 満月が嬉しそうに笑みを浮かべ、自分の体の武装を展開する。


「俺ら相手に、お前一人で勝てるとでも思ってんのか?」

「貴様らこそ、戦う相手は選ぶべきだったな」


「ぬいぐるみしか仲間がいねぇボッチが、いい気になるなよ」

「ワタシたちの連携は、妖魔の中でも随一……」

「降参するなら今のうちだ、とっとと妖狐をこちらに渡せ」


「……降参だと?」


 妖魔の言葉を聞いた満月が、不敵な笑みを浮かべて微笑む。


「……なんだ?」

「……何がおかしい」


「何を馬鹿なことを言ってるんだ。ここからが面白い実験じゃないか」


 そう言いながら、満月は両腕をチェーンソーのように作り替えた。


「アハハッ! お前、自分の体もオモチャじゃねぇかっ!」

「そんな金属の重い体で、ワタシたちのスピードに付いて来れるのかしら?」


 妖魔たちが壁を駆け回り、満月の視界を翻弄していく。


「人の要塞をカサカサと……。まるで、ゴキ〇リだな」

「どうだ、お前の目じゃ見えもしねぇだろっ!」

「お前じゃ、俺らに攻撃することも出来やしねぇんだよっ!!」

「たっぷり甚振いたぶってあげるから、覚悟しなさい?」


「ならばオレも、たまには全速力で体を動かすとしよう」


 そう言いながら、満月がブーストの音を轟かせ、

 体全身から火を吹き、ゆっくりと浮遊し始める。


「なっ、浮いた……だとっ!?」

「あんな防具を着てるんだ。どの道、俺らには追い付けやしねぇっ!」

「殺られる前に殺る。所詮は機械、ワタシたちには勝てないわ」


 そういって、妖魔が襲い掛かった瞬間、満月が笑みを浮かべた。



























      『 鬼ごっこの始まりだ、小賢しいゴ〇ブリ共── 』



























         【  ❖ 機神撃・轟爆超加速 デトネーション・アクセラレート❖  】



























 その瞬間、満月の姿が目の前から消え、轟音を撒き散らし、

 ロボットとは思えぬ程の目にも止まらぬ速度で動き出した。


「──なんだ、消えたッ!?」

「何が起こってr、グハァ──」

「うわあぁぁ、こんなの聞いてねぇz……」


 嘲笑っていた妖魔たちが、次々とバラバラにされていく。


「どうした、オモチャ相手に逃げ惑うだけかッ!!」

「動きが、見えねぇ……」

「なんで、あんな重そうな防具を着てるのに……」

「これは防具じゃない、オレの体そのものだッ!!」


 満月は止まることなく、全身から炎を吹き出し続ける。


 稲妻を周囲にバチバチと放ち、光速に近い速度で移動し、

 轟くほど爆音のエンジン音を響かせ、風圧が吹き荒れる。


 周囲を俊敏に動き回っていた無数の妖魔たちよりも、

 格段に早く移動し、一瞬で敵を次々と切り刻んでいく。


 そして、ほんの数十秒という僅かな時間が経った頃には、

 満月はリーダー格の妖魔だけを残し、他を全滅させていた。


「に、逃げなきゃ……」

「どこへ行くんだ? お前は、妖狐の力が欲しいのだろう?」


 逃げようとした妖魔の前に、ゆっくりと満月が降りてくる。


「ゆ、ゆるして……。俺が、悪かったから……」

「愚かだな。他者を狩るなら、をしてこい」



 <<< 機神撃・爆焼滅却リ・アッシュ >>>



 満月が右腕を作り変え、手首や手の平から無数の焼却砲を出し、

 一匹の妖魔を相手に、右腕の全砲撃で木っ端微塵に撃ち砕いた。


「アギャッ──」

「全く……。あれだけいきがっていたのに、最後は呆気ないものだな」


 ──その瞬間、隠れていた妖魔が後ろから飛び出し、

 背を向けていた満月に向かって、口から水をかけた。


「このやろー! これでも喰らえっ!」

「……?」


 水をかけられた途端、満月の体にビリビリと電流が走る。


「へっ……。体が機械なら、これでもお前も……っ!?」

「お前、何を言ってるんだ?」


 ──次の瞬間、満月の体にかけられた水が、熱で一気に蒸発した。


「──なッ!?」

「防水対策をしてない訳がないだろ。俺はサイボーグのなんだぞ?」

「あ、あぁ……。そんな、なんで……」


 ギロッと睨んだ満月が、一瞬で自分の左腕を電磁砲に作り替える。



























       「 ……どうした、もう宴会芸は終わりか? 」



























         【  ❖ 機神撃・超電磁砲 レールガン❖  】



























 満月は最後の一体に向かって、ゼロ距離で電磁砲を放った。


「……フッ、大した実験にもならんな」


 その後、周囲をスキャンし、敵がいないのを確認すると、

 満月は声を上げて、戦闘中の全てのクマたちに指示を下す。



『【 勝利を求める全縫熊部隊 ビクトリア・ベアーズ】に告げるッ!!』


『『『 ──キュゥッ! 』』』


『一匹たりともここを通すなッ! 我が軍の誇りを掲げて見せろッ!!』


『『『 ──キュッ!!! 』』』



 満月の放った一言で、敵を狙うぬいぐるみたちの攻撃が加速する。

 すると、激しい激戦の中、飛行部隊から一本の通信が満月に入った。


『どうした、【 縫熊戦闘軍・飛行部隊ベアー・フォース 】。何か見えたか?』


『キュゥ、キュッキキュゥキュゥゥキュッ!!』

『……ん? ゴーレムだと?』


 満月が言われた方角に目を向けると、二足歩行の岩の巨人が、

 森の木を踏み潰しながら、こちらに歩いてくるのが視界に映る。



( 召喚術士のような奴が、敵の方にいるってことか )



『分かった。あれはこちらで対応する。引き続き、警戒に当たれ』

『──キュッ!』


 通信を終えた満月が、巨大な要塞の武装を次々と作り変え、

 要塞の中央部分に、巨大なクマの顔の砲台を作り上げていく。


「兵器の名に相応しい一撃ってやつを、お前らに拝ませてやるとしよう」


 満月が手をかざして、取り付けられた巨大なクマの口が開き、

 巨大な電磁砲を四本出して、膨大なエネルギーを溜め始める。



























        『 受けてみよ、我が咆哮の一撃をッ!! 』



























       【  ❖ 機神撃・超巨大電磁熊重砲ベアレックス・レールガン ❖  】



























 満月が手を振り下ろすと、エネルギーが一点に圧縮され、

 特大のレーザーを放ち、ゴーレムの真ん中を撃ち抜いた。


 すると、その数秒後に、とてつもない爆発音と衝撃波が響き渡り、

 一瞬フリーズしていた巨大なゴーレムの体が、バラバラ砕け散る。


「……少し、無駄遣いだったかもな」


 あまりの光景に、周りの妖魔たちもゴーレムを見て固まっていた。


「ヤバイ、アイツ……」

「シニタク、ナイッ!!」

「ニゲロ、ニゲロッ!!」


 ゴーレムが砕け散る様子を見た妖魔たちが、一斉に逃げ始め、

 それを見た満月が冷静に周囲を確認し、砲台の攻撃を止める。


「……まぁ、こんなところか」


 そう小さく呟き、満月が再びベアーズの指揮を執っていく。


『各陣の部隊を背負いし者よ。現在の戦況を報告せよ』

『キュゥ、キュッキキュッ!!』

『キュッキキュ、キュゥッ!!』

『そうか、よくやったな。引き続き、周囲の警戒に当たれ』



『『『 ──キュッ!!! 』』』



「ふぅ〜。もう少ししたら、オレも店の方に戻るか」



























     満月は機体を元の姿に戻して、その場に座り、


          蒼く澄み渡る空を見上げ、ボソッと一言呟いた。



























「……はぁ、早く部屋に帰りたいな」

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