Episode.2 エピローグ
『今年の
ワァァア……………!!
大歓声の中、夏夜の祭典は幕を閉じた。
フィナーレのステージ上には、
……背後から二人分の痛いくらいに鋭い視線を感じながら。
「だぁーおわった、もう一歩も歩けねぇ」
無事にステージを終えて変える支度をする四人。
「帰るまでがステージだぞ、純」
「そーだけどさー……」
「でもマコちゃん、今日は一段とキレッキレだったよねー」
「はい!ダンスのキレも素晴らしかったですし、声の伸びもいつもより良かったように感じます」
「そりゃ俺はセゾンが誇るトップダンサーアイドルだからな!へへ」
さて帰ろうか。と会場をあとにしようとしたとき、「ちょっとどいて!」と乱暴に人の波を押しのけてこちらに近付いてくる二人の男の姿が見えた。それに純は「げ」と露骨に嫌な顔をする。
「ちょっと!!さっきのステージ何さ!!何なの!?スタッフに裏で手でも回したわけ!?」
「おかしい、俺達のステージよりお前らのほうが盛り上がるなんて!!」
彼らは
「裏工作するかよ、お前らじゃあるまいし」
「はぁー!?僕達が裏工作するわけ無いだろ、バカにしてんのかチビ!!」
今にも掴みかかりそうな琴葉に呆れた様子の純。「わぁ、化けの皮ベロベロに剥れてるー」にぱにぱと笑う叶に、琴葉は「あぁ゛!?」と威嚇をする。その反応に更に面白げに笑う叶を、「せ、先輩!煽らないで…!!」と柊聖が必死に止めていた。
「単なる俺達の実力だ」
「認めない認めない!! 僕が、僕達がチビに負けたなんて!!
「やっぱりあのとき琴葉が音外さなけりゃ!!」
「はぁー!? 七星だってつまずいてコケかけたじゃん!! カッコつけて変なアドリブ入れるなよ!!」
余程悔しくて、負けたり理由を誰かに押し付けたいようで、ついにユニット内で口論を始めた。
やれやれ、といった様子で陽と叶は顔を見合わせた。柊聖も純の様子を心配げに見ている。
醜い争いを見ながら純は口を開いた。
「勝ち負けってそんなに必要なことかよ」
「は?」
全員の目線が純に集まる。
「お前らは何のために
「はぁ?チビの癖に生意気……」
「あぁ生意気言ってやる。……ちゃんと見て、聞いて、考えろよ。アイドルって何なのか」
真剣な目で二人を見て静かに言えば、純は荷物を持って足早に去っていった。
その背中を「先輩!」と柊聖が追いかける。
「な、なんだよあいつ……」
「ぐぅの音も出ないー?ま、そういうことだよねー」
「あぁ、ゆっくり茶でも啜って考えてみるといい。学校で嫌というほど習ったからな」
陽も叶もニコッと笑えば、先に行った純と柊聖に追従していった。
残された二人は、呆然とした顔で去っていった4人を見ていた。
「……っはーーーーー……」
帰りの電車。座って虚空を眺めてため息を漏らす純からは完全に脱力の色が見え、今にも魂が飛んでいきそうな状態だ。
「はは、今日は全体的に随分強気だったな、純」
「今回はなんて言ったかちゃんと覚えてるー?」
「覚えてるっつーの……」
「あはは……」
面白がる陽と叶。純は軽くあしらいながらもぼーっとまた虚空を見つめていた。
「でもやっぱさーキラキラしてたよね!!」「だよねだよね!」と会話する女子の声が聞こえてきた。
カバンにはシーフェス限定の缶バッジやユニットロゴのキーホルダーがついているのを見るに、おそらくシーフェス帰りのファンなのだろう。
特にそうしてるつもりもないのだが、四人は息を潜めてその会話に聞き耳を立てる。
「うち、今日のステージでファンになっちゃったもん!!SAison◇BrighT!!」
「それー!!全力で歌って踊ってて、見てるだけで楽しくなった!!」
「ねね、誰推し?」
「箱推し!! その中でも陽くん!そっちは?」
「うちはねー、純君かなー!!ちっちゃくてパワフルなのがすっごいツボ!!」
「柊聖君もいいよね!!なんかいいにおいしそう……」
「においは笑うんだけど。それなら叶君だってあのキューティクルどうなってるのってくらい美形だし、声きれいだったし……」
ちょうど自分たちの話をしていた。顔を見合わせると、なんだか嬉しくて、こそばゆくて、つい微笑んでしまう。
こうやってアイドルは愛されて、いろんな人に笑顔を届けるんだ。それを今やっと実感したような気がした。
こうして彼らは、ひと夏を駆け抜けた。
いろんなこともあったが、それもまた笑い話にできる一つの記憶として、彼らの歴史に刻まれるのだろう。
夏の夜空には、満天の星が輝いていた。
Episode.2 END
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