Episode.1 エピローグ
「それじゃあ、ステージの成功を祝して……」
「カンパーイ!」
喜びの賛美と共にグラスがぶつかる音が鳴る。
ここは、プリローダ高等専門学校のとある一室。先日のステージを無事に終えた
色とりどりのお菓子やジュースを持ち寄り、和気あいあいと話をしたり、セゾンの所属するレクリエーション部に置いてあるボードゲームをやったりと楽しい時間を過ごしていた。
「いやーんにしてもありがとうございました! 俺達まで誘ってもらっちゃって!!」
「はは、君たちのおかげで柊聖も一皮剥けたみたいだからな。それのお礼も兼ねて、だ」
「先日からセゾンさん……特に陽さんと叶さんにはお世話になりっぱなしで……この御恩どう返せばいいか。ほんとにありがとうございます」
嬉しそうに主催であるセゾンのリーダー、
「お礼はー、今度近くの美味しいお店でも紹介してくれるーってことでー」
「年下に
お菓子をつまみながら冗談めかすように笑う
「でも、先輩方にはたくさんご迷惑かけてしまって……本当にすみません……」
「もういいさ。これから一皮むけた君で、しっかり励んでくれれば何も文句はない。なぁみんな」
「そーだな。これからもみんなで頑張ってこうぜ、柊聖」
申し訳無さそうに眉を下げて謝る
「それにしてもー、ここ、教室ですよねー?打ち上げのために借りちゃっていいんですかー?それに俺達学校外部の人間なのにー」
出されている純手製のクッキーを遠慮なく貪りながら、
「あぁ、そのへんは気にしなくてもいい。先生方には君たちが来ることも含めて話を通してある」
「俺達、よく学校の一室借りてこーやって遊んだりお菓子食べたりするんだよねー。学校側も"元通りにしてくれればそれでいいよ"的な感じでー。ほら、アイドルになると外で食べたりしてうっかりファンに囲まれるーとか、よくあるじゃない?満足にプライベートの会を楽しみたいときはこうやってやるんだー。卒業生の特権」
「まぁ、若干その特権を乱用してる節はあるけどな。先生も渋い顔しないで了承してくれるし、そのへんはすげえ助かってるよ」
「すげぇっす、さすが天下の高専の卒業生!!」
銀次は三人の説明を聞いてキラキラと目を輝かせる。一方で話を振った柴之は「ふーん」と興味なさげに足をブラブラと動かしていた。
「いやぁやっぱ高専は歴史あるのに校舎きれいだし、教室もめっちゃロイヤルだしすげーっすねぇ! 昔に学校見学きたときもびっくりしましたもん」
「銀君、大興奮だったもんね。智和君も来れれば良かったのに」
「そーそー。無理やり連れて来ようとしたんですけどー、今回の抵抗はいつも以上に凄くってー。今回はちょっとだめでしたー」
「いや抵抗した時点で無理やり連れてくるのやめてやれよ、そういうところ脳筋だよなシノ……」
「パワー イズ パワー、ですよーお兄さんー」
つまらなそうに口をとがらせて文句を言う柴之に、純がツッコミを入れる。それに対しての柴之は何故か得意げにピースをするものだから、純は「違う、そうじゃない」と言いたげにはぁ、と大きくため息をついた。
「ははは、まぁ打ち上げは無理に来るようなものではないからな。今回の、ということはキーボードの彼はいつもそういう感じなのか?」
「ええ、まあ。あんまり群れたがらないというか、真面目というか……。俺達のみで打ち上げとかしても『用事がある』って言ってて」
「前は視察がてらに他のアイドルのライブ見学に行くぞ!って話になったときも『俺は練習がしたいので』って中々頷いてくれないんすよ~」
晴彦が困った顔で答えながらお茶を飲めば、銀次も口をとがらせながら説明する。途中で声色を変え、表情もキリッとしたのは、おそらく真似のつもりなのだろう。
「何だそれ、練習厨にも程があるだろ……」
「まぁ、彼は掛け持ちして、俺達の方も結構無理を言って入ってもらってるところがあるので。きっともう一方の……、クラシックの練習が大変なんだろうなって。そう考えると俺達も無理やり、というわけにもいかなくて」
「はぁーん、クラシックねぇ。そっちも中々複雑な事情をお持ちで」
「えーでも、トモ君が詳しい理由もなく『忙しい』『急用がある』っていうときは大体暇ですよー?もっとグイグイと、ググイグイと連れてっちゃっていいのにー」
ぐいぐい、と言いながらコップに追加のジュースを注ぐ柴之。それを聞いて晴彦は乾いた笑い声と共に困った顔を浮かべる。
そう、柴之の『連れてくる』というのには、絵面的に少し語弊がある。
キーボードの彼が集まりに来るときは、大抵の場合柴之が無理やり引っ張ってくるのだ。柴之はドラマーなため、見た目に反して力が並よりも強い。そのぶんキーボードの彼……
つまり、『連れてくる』というより『引きずられてくる』のほうが正しかったりする。
「まぁ、トモにもトモの考えがあるんだろうし、仕方ないっすよねーとは思ってるんすけど」
「そーだねー。あの子、結構頑固だから」
仕方ない、という銀次に同意したのは叶だった。不思議そうな顔で一同は叶を見る。
「叶先輩、乾那原君と知り合いなんですか?」
「あれ、言ってなかったっけー。まぁ気にしないでよ」
「いやそこで流されると流石に気になるんだけど」
「そんなことよりさー、クッキーもうなくなっちゃったよー?」
ニコニコと笑う叶が紙皿を指差せば、いつの間にか純が作ってきたクッキーは残り滓だけとなっていた。それをみて、銀次はショックを受けた顔である人物を見た。その人は、リスのように頬を膨らませながらボリボリと貪る柴之。
「あーー!? おま、シノーー!!俺全然食ってないのにー!?」
「あれー、もうなくなっちゃったー」
「あれだけあったのにもう食ったのか!?」
「純のクッキーはうまいからなぁ」
それを見て作ってきた本人も皿を二度見した。一緒に笑う陽。心なしかその表情は困った、というより残念そうに見えた。
「ま、まだお菓子はありますから! ね!」
柊聖が持ってきたお菓子を空ける。
まだまだこの宴は、終わらなさそうだ。
Episode.1 END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます