第三話「赤髪の少女」Part1
「……」
暗い…そして静か…
少女はコクピットの中にいた。
中は照明が点いておらず真っ暗になっており、目の前のモニターには何も表示されていない。
まるで、自分が世界から切り離され、闇に飲まれて何処か消えしまいそうな感覚になるが、今座っているシートの感触と、手で握っている操縦桿の感触が今ちゃんとここに居ると思うことができる。
「………」
少女は体を少し引くと、足を抱えて
…だが別に、闇に飲まれて消えてしまってもいいと思う。
コクピットの中にずっと閉じこもっててもいいと思う。
ここは安全だ。
誰からも非難されることはない…
『―――あー、あー、マイクテスト中、マイクテスト中…大丈夫聞こえてる?』
スピーカーから聞こえてきた声に、少女は体勢を戻しながら答えた。
「聞こえてる」
……でも、それでは駄目だ。
『りょーかい。んじゃシステムに異常はないね』
そう言うと、スピーカーから『フフフ~ン♪』と楽しそうな声が聞こえてきた。
『どうだい?改修ホヤホヤの機体の感想は?』
「まだ動かしてないから分からない」
『アハハっ、そりゃそうだよね』
すると、目の前のモニターにサブウインドウが表示された。
『今回、アーちゃんに挑戦してもらうのは、レベル10の中のレベル9の難易度だね』
サブウインドウを見ていると、舞台となる地形、相手の機体の情報が映し出されていく。
『そんで、相手となる機体は高機動近接戦闘型。実戦にも投入されている実力機体だ。数は7機』
「…これを一人で相手するの?」
『まぁ、アーちゃんの機体は遠距離狙撃型で相性は最悪だからねー、そう思うのは分かる…だがしかし!』
サブウインドウに表示されている情報が切り替わると、自機の機体図が映し出された。各部位が拡大表示され、様々なデータが表示される。
『各部パーツの増設、近代化改修によって、全体的な性能は前よりも約14%上がっているはずだよ!しかもそれだけではない!』
だんだんとスピーカーから聞こえてくる声が、大きく、息が荒くなってきている。
『その機体には試験的にだけど、新たにステルスコーティングが
「…だからこの難易度なの?」
『そう!ステルスでの多対一が、どれだけ通用するのか試してみたいんだよね!あと、主兵装はアゼベルラ社の新型を取り寄せたから、使い心地も試してみて!』
「分かった。……」
そう言いながら、少女はサブウインドウに表示されているデータに目を通していたのだが…見ていて、ある懸念を抱いていた。
『んじゃ、準備は良いかな?』
「良いけど…一つ聞かせて」
『なぁに?』
「…ちゃんと予算内に収まったの?」
・ ・ ・ ・ ・
そう聞いた瞬間、急に場が静まり返った。
『………へ?』
まるで、聞かれたくない事を聞かれてしまったかのような今の間。
『どど、どうしてそんなこと聞くんだい?』
声が震え、明らかに動揺している。
「…このステルスコーティング、 使われてる機体はごく一部だし、それも最新型。そんな簡単に手にできる代物ではないはず」
『ちゃ、ちゃちゃちゃんと予算内に収めてあるよっ!』
「………」
だが、何も喋らない少女に突き通せないと思ったのか、『ハァ…』と重くため息を吐くと、やけくそ気味に開き直って『そうだよ、そうだよ!
『で、でもだいじょぉうぶ!予算は毎年どこも余るんだし、最悪、ほかんとこの予備費をこっちに回してもらえば…』
聞こえてくる声は、段々と力細くなっていく。
「はぁ…」
『あ、あの…誰にも話さないでね…?』
「………」
『何で黙るのっ!?』
スピーカーから、『予算減る〜っ!』『殺される〜ッ!』と悲痛な叫びが聞こえてくる。
………
「良いよ…内緒にしとけば良いんでしょ?」
『―――!まじ女神様ッ!!』
『パンッ』と手のひらを叩く音がスピーカー越しに聞こえてきた。
『そう言ってくれれば、リスクを冒して手に入れた甲斐があるってもんだよっ!それじゃ、強化された機体の性能、存分に試してみて!』
「…うん」
少女がそう答えると、『戦闘シミュレーション開始』というシステム音声が聞こえ、真っ黒に染まっていたモニターが広い草原を映し出した。
「ふー…」
少女は操縦桿を握り直すと、心を落ち着かせ、気持ちのスイッチを切り替える。そして、もう一度シミュレーション内容を確認した。
…今回はレベル10の中のレベル9の難易度、敵機は高機動近接戦闘型…数は7機、相性は最悪…
どこかに出現しているだろう7機の敵機は、持ち前の機動力で相手に接近、ヒットアンドアウェイを得意とするのに対し、こちらは長距離狙撃型、つまり狙撃は得意だが近接戦闘は不得意なのだ。
近づかれたら終わり。
腰部ホルスターにマウントされているP45HGで撃ったとしても、相手の機動力を捉えきることはできない…
だが、少女の表情は自信に満ちていた。
接近されたら不利?だったらその前に全部撃ち落とせばいい。
それに、この機体にはステルスコーティングが施されている。そう簡単には見つからないはずだ。
少女は操縦桿を動かし、周りをよく見渡せる崖の上に機体を移動させた。
見えた…!正面に7機…!
前方の上空に目標はいた。
少女は機体を近くの岩まで移動させると、手に携えている
相手はこちらの存在に気付いていない。
敵機に照準を合わせる。
いくよ、アルマティ。
少女は前方上空にいる敵機に向けて、トリガーを引き絞った。
轟音と共に銃身から放たれた弾丸は、一直線に胸部のコクピット付近に撃ち込まれ、7機のうち1機を破壊せしめた。
『――敵機撃墜――』
敵機撃墜を知らせるシステム音声が聞こえる。
『ひゃーっ!さっすが!』
残り6機…!
少女はすぐ機体を動かすと、森林の中へ走らせる。
「ステルス機体なのに、銃声でかい…」
『そこちょーっと難点だね〜…』
そう話しながら、木々の間から見えた敵機に弾丸を撃ち込む。
『――敵機撃墜――』
残り5機…
すると、飛来した弾の方向と銃声で居場所がバレたのか、3機がこっちに向かってきた。
だが、そのうちの1機を近づかれる前に撃ち落とす。
『――敵機撃墜――』
残り4機…
すぐその場から離れ、木陰に身を潜めると、遅れてやってきた敵機体が着陸する。
上に2機、下に2機…本来ならレーダーに引っかかり、袋のネズミの状態だが、ステルスコーティングの効果が高いのか、距離が近くても気付かれずに辺りを探し回っている。
『効いてる効いてるぅー!全然こっちの位置バレてないね!』
「一気に仕掛ける」
レールガンを構え、敵機に狙いをつける。
だがトリガーを引いた瞬間、急に敵機が不規則に動きだし、狙いがずれて左腕を撃ち抜いた。
「速い…!」
それだけでは終わらない。次の瞬間、危険を知らせる電子音が響き渡った。
「上…!?」
地面を蹴り、すぐその場から離れると、直前までいた場所に
「クッ…!」
飛び散った破片が、機体に
あと少し引くのが遅かったらやられていた。
「位置がバレた…?」
『これは…』
だが考えている暇はない。今の攻撃で、下にいる2機に目視でバレた。
2機は散開し、左右から挟み撃ちにしようとする。
少女は機体を動かし、何とか敵機の銃火を
…逃げきれない。いや、逃げればかえって不利になる。だが、だからと言って正面からやりあうのは愚の骨頂。だからここは、ステルスを最大限に発揮させる必要がある。
電子音が鳴り、後ろを振り返ると、一機が実体剣を構えて急接近してきた。
すぐさま腰背部から高周波ブレードを引き抜き、相手の斬撃を受け止める。
「…っ!」
このままではまずい。
案の定、更に電子音が鳴り、後ろからもう一機が接近してくる。
少女はスラスターを全開にして、敵機を無理やり押し出すと、もう片方の手に持っているレールガンで思い切り殴り付けた。
そして、その勢いを利用して後ろに振り返り、狙い澄まさずレールガンを撃ち込む。
弾は擦らせることすらできなかったが、敵機は体勢を立て直すためか、一度距離を離してくれた。
「今…!」
ようやく生まれたチャンスに、少女はすかさず高周波ブレードのモードを切り替え、地面に投げ刺そうとしたのだが、またしても電子音が鳴り響き、上から弾丸の雨が降り注いだ。
「また…!?」
広範囲に降り注ぐ弾丸に何発か被弾しながらも耐えきると、すぐさま別の警報が鳴り、先程の2機が接近してくる。
「チッ…」
完全に向こうのペースになっている。ここで上か下の2機を何とかしないと、勝機はない。
少女は手に持った高周波ブレードを投げ地面に突き刺すと、グリップ部分から煙幕が発生し、辺り一面が白く包まれた。
敵機はこちらを見失ってくれたのか、急停止して辺りを見回している。この僅かな隙で、充分だった。
少女は、サーマルセンサーで敵機を視認し一気に近付くと、腰背部からもう一本の高周波ブレードを引き抜き、コクピット目掛けて突き刺した。
『――敵機撃墜――』
すぐさま高周波ブレードを引き抜き、機体を反転させ後ろから迫っていた敵機に蹴りを食らわせると、そのまま脚部のミサイルポッドを敵機に向け発射する。
もろにミサイル攻撃を食らった敵機は、左腕、右脚、頭部が吹っ飛ばされていき、地面を滑っているところにレールガンを構え、撃ち抜いた。
『――敵機撃墜――』
残りは上の2機…!
だがそう思った瞬間にも、電子音と共に上から銃弾が降り注いだ。しかもピンポイントに、今レールガンを撃った場所に着弾する。
「スモークの中なのに…」
上の敵機はスモークや木が邪魔で、こちらの位置が分からないはず。なのにどうやって位置を割り出しているのだろうか…
『…なるほどそういう事か』
「どういう事?」
聞こえてきた意味深長な言葉に、少女は一旦、機体を木陰に移動させた。
『さっきと言い、上からくる攻撃はどれもレールガンを撃ったあとだった。しかもその場所にピンポイントに直撃している…多分だけど、そのステルスコーティングは
「…そう、なら…」
少女は機体を動かし、敵機が視認できる場所に移動した。
両手でレールガンを構え、狙いを定める。
「別にいつも通りで良いってことでしょ?」
『ま、そゆこと』
少女はトリガーを引き絞り、磁場の相互作用によって弾が発射された。
レールガンの轟音に気付いた敵機は回避運動を取ろうとしたが、時すでに遅し。回避しようとした直後には、機体が貫かれていた。
『――敵機撃墜。レールガン、オーバーヒート――』
システム音声と共に、各パーツが展開して排熱処理が行われる。
残り一機…!
敵機の位置を視認し、身を隠そうとした次の瞬間、突然、右肩部が小爆発を起こした。
「っ…!何…!?」
敵の攻撃を食らったわけではない。
今の爆発で右腕部の動きが鈍くなり、自由に動かせなくなってしまった。
「くっ…!」
少女はレールガンを左手に持ち替えると、場所を変えるため移動する。
そこに、一歩遅れて榴弾が撃ち込まれ、今いた場所が弾け飛んだ。
『あー…多分これー…』
移動しながら、スピーカーから何か分かったような声が聞こえてきた。
『アーちゃん、さっき何回か片腕だけで撃ってたから、それで反動に耐えきれなくなったんだね』
少女は機体を止め、上にいる敵機を見やる。
「…左だけで、あと何発耐えられる?」
『持って一発』
「充分」
『――レールガン、使用可能――』
システム音声が聞こえると、少女は動く左腕だけでレールガンを構え、トリガーを引いた。
放たれた銃弾は、片手射撃により照準がブレてしまったが、それでも敵機のスラスターを撃ち抜く。
被弾した敵機は、すぐに背部ををパージし誘爆を回避するが、爆風に煽られバランスを崩してしまった。
このチャンスを見逃さない。
少女はすぐにレールガンを投げ捨てると、高周波ブレードを抜き、スラスターを全開にして敵機目掛けて飛翔した。
左肩から激しいスパークが散るが、動かせるなら問題ない。
「決める…!」
出し惜しみなどしない。
少女は接近しながら、背部、肩部、脚部のミサイルポッドを展開し、全弾射出した。
機動力が低下した敵機に、ミサイルの群れを躱しきることなどできない。それを分かっているのか、敵機は肩部に装備しているガトリングと、手に持っているライフルで撃ち落としにかかった。
相手の弾幕と命中精度は馬鹿に出来ず、
『―――これが本命だって、思うじゃぁん?』
もし、今の声が敵に聞こえていたなら、AIではなく、人間が搭乗していたのなら、息を呑んだだろう。
爆炎が消え、黒煙が晴れた頃には、敵機の視界内に少女の機体はなかった。
敵はこっちに気付いてない。下から背後に回り込み、急接近する。
流石にスラスター音で気付いたのか、敵は後ろを振り返るがもう遅い。
「止め…!」
少女は左手に握らせた高周波ブレードを横薙ぎに振るうと、敵機の胸部を叩き斬った。
切断された断面からスパークが散る。
そして数瞬した後、敵機は爆炎に姿を変えた。
『――敵機全滅。戦闘シミュレーション終了――』
システム音声が聞こえ、モニターが真っ暗に戻った。
『凄すぎるよアーちゃーんッ!!』
『パチパチパチ』と拍手する音が聞こえてくる。
『どうだったっ?強化された機体の性能は?』
「…良い感じ。ちゃんと動きに付いてこれてる」
『ううっ…!めっちゃ感想薄いけど、ちゃんと喜んでもらえてるようで良かったよ…!』
「でも…」
すると、少女が何を言いたいのか分かっているのか、スピーカーから『まぁ、うん、そうだよね〜…』と聞こえてきた。
『ステルスコーティングの弱点は、立ち回りや戦術である程度カバーできるとしても、一番の問題点はレールガンなんだよねー…』
レールガンには、ステルス機体なのに銃声が轟音。そして、片手だけで撃つと、反動が大きすぎて腕部が耐えきれないと言った致命的な問題があった。
『でも、レールガンは元々片手で撃つこと想定されてないし、ステルス機体に持たせることも想定されていない…でも多対一のことを考えると、やっぱ扱いやすくなるようデチューンが必要になってくるのかな』
「…このままで良い」
だがスピーカーからの声に、少女はそう答えた。
『えっ、何で?』
「…弾速早いし、精度も悪くない。それに…撃ってる感じがして良い」
少女の言葉に、『そっか』と微笑む声が聞こえてきた。
『なら、片手射撃でも耐えられるように機体を調整しないとね!』
「…お願い」
………
それから少しの間、静かな時間が続いた。
『…明日からか』
「…うん」
スピーカーから声が聞こえ、少女が答える。
『…大丈夫そう?』
「………」
スピーカーからの声に、少女は答えなかった。いや答えられなかった。それを察したのか、『…ま、それは明日になってみないと分かんないよね』と言って話題を変える。
『そういえばアルマティの改修だけど…』
するとモニターにサブウインドウが表示され、再び自機の機体図が表示された。
『アーちゃんの要望通りにはしっかり答えられているはずだよ。予算内に収めろっていうのは無理だったけど…でも、これなら
「…うん」
『んじゃ、そろそろブリーフィングが始まるから通信終了するね。夕方には戻れるってレデリカに伝えといてっ』
「…分かった」
だが、通信を切ろうとしたところを「リース」と言って呼び止めた。
『ん?』
「…ありがとう」
少女の言葉に、リースと呼ばれた女性は『アーちゃんのためなら当然だよ』と言って、通信を終了した。
………
また何も聞こえない真っ暗闇に戻る。
少女はまた殻に閉じこもりそうになるが、いつまでも塞ぎ込んでいては駄目だ…
外の空気を吸いたいと思った少女は、首筋に着いている器具を外し、コクピットハッチを開けた。
「―――お疲れ、アメリア」
コクピットから降りると後ろから声が聞こえ、振り向くと一つの缶ジュースが飛んできた。
アメリアと呼ばれた少女は、それを両手でキャッチすると、不満げな顔を相手に向ける。
「あれ?ジュース好きじゃなかった?」
「好きだけど…投げる前に何か言って」
「それはごめんなさい。次から気をつけるわ」
「はぁ…」と小さく息を吐き、アメリアは相手の顔を見た。
「ここに何の用?レデリカ」
白い医服を身にまとい、缶の蓋を開けたレデリカは、「ちょっとね」と言って、近くの武器コンテナに寄りかかった。
「改修された機体がどんなものか、見たくなって」
………
だがこの時のアメリアは、レデリカが来た本当の理由に既に気付いていた。
「…別にそらさなくてもいいよ」
そう言って、アメリアも武器コンテナに寄りかかる。
「そんな事言いに来たんじゃないんでしょ?」
アメリアの言葉に、レデリカは「…まぁ、ね…」と言った。
「ねぇ、アメリア…」
視線を横に向け、少女を見る。
「…もう1年残って、本当に平気なの?」
「………」
「リシアを探すために、
「…分かってる」
「なら、せめて別室にするとか…」
だがレデリカの言葉に、アメリアは「…それは駄目」と言った。
「…みんなは、私のせいで苦しめられてる…なのに逃げて隠れるなんて、そんな事できない…」
「
『―――緊急警報発令、ポイントE3、H2、J6エリアに高エネルギー反応。繰り返す―――』
すると突然、警報音が鳴り響き、緊急事態を示すアナウンスが流れた。
天井の照明が切り替わり、アメリア達を赤い光で照らし出す。
聞こえてきたアナウンスに、レデリカは驚きの声を上げた。
「緊急警報…!?まさかっ…!また歪み!?しかもこの近くで…!」
「T.O.D.L.F?」
「恐らく。しかも3体同時に」
そう言いながら、レデリカは懐から鳴り響いている携帯端末を手に取った。
『レデリカ、今どこにいる?』
「第2格納庫よ。そっちは?」
『第1格納庫だ。今、俺とクレイで出撃準備している。あの爺さんが動けない以上、俺たちで何とかするしかない』
「分かってるわ」
『―――いつでも行けますよ!』
通話越しに聞こえてきた声に、男は『オーケーだ』と言った。
『レデリカ、俺はE3、クレイはH2を対応するから、お前は今すぐリー…を呼び……ど…て…―――……』
だが突然、音声が乱れ、通話が切れてしまった。
「キッド、聞こえる?キッド!」
すぐさまかけ直してみるが、何故か繋がらない。
「嘘…!?」
「私のも駄目…」
アメリアも通信を試みるが、結果は同じだった。しかも、ここにある全ての通信機器が使い物にならなくなってしまっている。
「ジャミング攻撃…まさかA.G.Uも動き出してるって言うの…!?」
最悪の事態を予想し、レデリカは苦虫を嚙み潰したような渋面を作った。
………
「…どうするの?」
アメリアの問いに、レデリカは「そうね…」と言って答えた。
「リースを呼び戻せない以上、このままじゃJ6は手薄になる。だからどうにかしてジャミングを無効化しないといけないんだけど…」
レデリカは端末を操作し、画面からホログラム状のマップを形成させた。
「問題はその装置がK5とI5の二箇所にあるってこと」
「これだと、T.O.D.L.Fがいつ来てもおかしくない…」
「…そう。でも打てる手は打たないと、また犠牲者が出てしまうかもしれない」
「レデリカはどうするの?」
「このエリアに行って、装置を復旧させてくるわ」
「―――私もついてく」
すると予想だにしない言葉に、レデリカは「それは駄目よ!」と言った。
「あなたの機体はまだ使えない!生身でなんて、危険すぎるわ!」
だがレデリカの必死の訴えに、アメリアは身を乗り出して言った。
「でもそれは、レデリカも同じ…!それに二手に分かれれば、作業スピードも早くなる…!」
「それはそうだけど…!」
躊躇するレデリカに、アメリアは「お願い…!」と言った。
「私だって戦える!
今も鮮明に思い出すことができる。
「………」
レデリカはアメリアの目を見た。
…私だって、アメリアの気持ちが分かってる。だからこそ、危険な目に遭わせたくない。でも…
「………!」
「……全くっ!」
レデリカはアメリアの肩を掴むと、警報音で掻き消されないように声を張って言った。
「しっかり聞いて!今から装置を復旧させに行くけど、何が起こるか分からない!少しでも危なくなったらすぐに逃げるって約束して!」
「…うん!」
アメリアの返事に「行きましょう!」と答え、2人は、K5、I5エリアへと向かった。
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