SMF 特殊任務軍活動録

@Sabuo-yamabuki

第1話 You Spin Me Round M.E.1997

転生したら戦闘機パイロットになった件

 暗い船室で、異世界モノと呼ばれる小説の事を考えていた。


異世界モノという小説について、僕は詳しく知らない。

 トラックに轢かれて転生とか、クラス転移とか、悪役令嬢とか、復讐だとか。

 そういった単語と共に、なんとなく知っていた

 とにかく僕の認識は『異世界モノっていうのは、主人公が剣と魔法の世界でハーレム作る奴』というものだった。

 なんとなく、そう思いながら、異世界での生活に憧れていた。

 もしも異世界にいったらチート能力つかって活躍しまくってハーレム作るんだ、と。

 だってハーレム最高じゃん。

 

 そう思っていたら僕は異世界に転生した。

 

 僕が転生した原因は、転生理由としてはあまりメジャーではないと思う。

 僕は戦争で死んだ。

 より正確に言えば、爆撃で死んだ。

 どこかの紛争地帯で少年兵をやっていたとかそういう訳ではない。

 僕は平凡な高校二年生だった。

 で、帰り道に爆撃で死んだ。

 それでめでたく転生した。

 いや、いろいろツッコミどこがある事は承知だ。だけどそれは置いておくとして。

 最初はびっくりしたけど、すぐにうれしくなった。

 これはあれだ『異世界転生』って奴だ。

 実際、この世界は、剣と魔法の世界でもある。後、ロボットとか空飛ぶ船とかいる。

 もちろん、エルフとか猫耳娘とかいったファンタジー存在もいた。

 そんな存在を見て僕は思った。

 これから僕は小説の主人公のように、凄い剣や剣術とか、すごい魔法とか、チート能力でのしあがってハーレム作るんだ、と。

 

 そういう甘い幻想はすぐに潰れた。

 剣とか全く使え無いし、魔法も使えないし、チート能力も無かった。

 もちろんハーレムとか論外中の論外。

 僕が想定していた異世界モノのセオリーは、実際には『ほとんど』無かった。

 当たり前だ、小説と現実は違う。

 小説の主人公と、自分は違う。

 そんな事にも気づかない程のバカが、この僕だ。

 

 例え僕が、異世界小説の登場人物なのだったら、僕はせいぜい主人公と一緒に転移したクラスメイトぐらいだ。

 

 そして主人公を貶めて、後に復讐され、いやそこまで性格悪くはない。

 ともかくちょっと考えれば思い付く事だった。

 体力も無い平凡な男子高校生だった僕が、女の子と話した事すらない僕がそんな異世界にいったぐらいで簡単に変わる訳が無い、と。

 いや、それよりも思い付くべきだったのは『転生した先が平和な世界だとは限らない』事だ。


『シナガワ! 起きろ! 起きろっつってんだよ!! アタイの電話シカトしやがって!!』

 

 僕は、体を起こして、扉の方を見る。

 罵声が扉の向こうで聞こえる。言ってる言葉はヤンキーっぽいが声は女の子だ。

 …まあ転生前より女の子との距離が縮まるってのは異世界モノのセオリー通りだろう。


 


ミラリア歴1979年4月27日3時21分

ミラリア連合帝国ツベルド王国北西部 第四次防衛線Nブロック

ミラリア連合帝国海軍第五艦隊・空中戦闘母艦『加賀かが』 

航空要員専用船室1211号室

第512戦闘航空攻撃隊所属、品川敦しながわあつし一等兵曹

 

 


 僕が船室の扉を開けると、怒りの表情の女の子が現れる。

 緑色の髪、太い眉、青色の瞳。そして、明らかに人間のものでは無く、獣のそれに似た耳を持つ。『獣人』だ。

 実にファンタジー存在な彼女だが、服装と手に持っているものは全然ファンタジーじゃない。

 緑色の飛行服。

 戦闘機に乗り、戦闘機動時の高いGを軽減するための服。

 そして手には二つの黒いバイザーを持ち、酸素マスクが付いた白いヘルメット。

 二つとも、高度な電子技術を用いて作られたバイザー部分に情報を投影するHMDS頭部装着ディスプレイシステムを装備している。

 ファンタジーはファンタジーでも、サイエンスファンタジー(SF)だ。

 僕は慎重に彼女の名を呼ぶ。

 「あのぉ、ダッチャ。何かないきなり。今日は僕非番の筈なんだけど」


 「あぁ!? 非常事態なのに非番も五番もあるか! 出撃だ出撃!! さっさと着替えろさっさと」


 「出撃?」


 哨戒任務のローテーションは明後日の筈だが。

 

 「何かあったの?」

  

 「何かあったからこうしてテメーを呼んでるんじゃねぇか!」


 「分かったから、ちょっと待ってて」

 

 扉を閉め、急いで部屋着を脱いで飛行服に着替える。

 着替えるのには一分もかからない。飛行服を点検する。ベルトはどうか、耐G機構は問題ないか。それらを確認し、フライトグローブをはめて、部屋を出る。

 

 「ダッチャ。行こう」

  

 「おうよ」

 

艦内通路を小走りで移動しながら、ダッチャからヘルメットを受け取る。

 

 「で、何があったんだ?」


 「西部方面で怪異の大侵攻。推定呪核数1万を確認したんだとさ。で、スクランブルだ。すぐに西部にいけって」


 「西部で、一万体の怪異? 回廊を守ってる第四艦隊は?」


 「状況不明」

 

 「なんだって?」


 階層移動用の階段を上がっていく途中。中東系の男性パイロットと、アフリカ系の女性パイロットと出くわした。

 男性の方は僕の上司のアリー少尉、女性の方はその相方のヴァンス准尉だ。

 「アリー大尉、ヴァンス准尉」


 「品川クン、携帯つながらないからどうしたかと思ったヨ」


 アリー少尉は独特な日本語で話しかけてきた。


 「すいません、電源切ってたんです」


 「このバカ、待機任務中はずっと電源つけてろって言われてんだろ」


 ダッチャの指摘はもっともだ、そかし。


 「どこぞの獣人が愚痴をこぼしに電話を掛けてくるんだよ、それが長くて長くて、つい切ってしまったんだよ。」


 「アタイの事か! あァ!?」


 「二人ともいつもの調子ね、よかった」


 ヴァンス准尉が笑ったが、すぐに真剣な顔で言った。


 「先に出たジャック准尉とメイユイ曹長が通信途絶。やられたかも」


 「品川クン、ダッチャクン。ワタシ達と編隊を組むヨ。今日は何だかヤバイ」


 「「了解」」


 アリー大尉に敬礼して答えながら、戦闘機パイロット歴十年のアリー大尉が、ヤバイと言う言葉を使った事に僕は驚く。

 どんなにきつい時でも、この人はそんな言葉を使わなかった。

 どうも、とんでもない事が起きているらしい。

下層飛行甲板(ロワ・デッキ)に上がると、十機近い戦闘機が待機していた。

その内の二機がエンジンを起動し、カタパルトに接続して発艦位置についている。

僕とダッチャはそのうちの一機に駆け寄る。

 FA-13CD。ミラリア海軍の最新鋭魔力戦闘機の複座型だ。愛称は『プテラ』

 全長22メートル。角ばった形状。複座型端を切り取ったひし形のような翼、水平尾翼と垂直尾翼が一対ずつ。

 二発の大出力魔力エンジン。翼に四発の短距離空対空ミサイルと、八発の中距離空対空ミサイル。二基の増槽を備えている。

甲板上の風は強い西風。現在の『加賀』の高度は約1000メートル。

ちょっと難しい発艦になりそうだと思ったその時、僕は異変に気付く。


 「なんだ、あれ?」

 

艦首西の方、地平線から空まで、全てが赤く染まっている。

絵具で塗りつぶされたように、赤い。真夜中だというのにしっかりと、はっきりと見える。

歪な、嫌な、不吉な気配がする赤だ。見ているだけで寒気が立つ。

何か、『不吉な事』が起きている。

『怪異』の仕業だ。

 

「オイ、何してんだ」


 「ああ、うん」


 ダッチャの言葉に答え、僕は乗降用のラダーを登ってコックピットに収まる。

 前が僕、後ろがダッチャだ。

 ヘルメットを被り、酸素マスクを接続する。


 「キャノピー(風防)、閉めるよ」


 「いいぞ」


 コントロールパネルを操作し、キャノピーを閉める。


 『分かってんだろうが、チンタラ手順守るなよ、すぐ発進だ』


 「落ち着いてくれ、最低限のチェックはしないと」

 

 無線を通じて聞こえるダッチャの声は明らかに焦っていた。いや、焦っているのはダッチャだけでは無い。

通信が混乱している。甲板要員のやり取り、管制室の指示、更に上空に待機しているであろうAWACS(空中警戒管制機)の管制、どれも平静な声では無い。

 他の味方はどうしているかと左、左舷方向を見て、僕は思わずその光景に見とれた。



 巨大な人型ロボットが、飛んでいる。

 巨大な銃と、剣を携え、緑色の炎を背中から出しながら。まっすぐ、西の方に飛んで行った。

 

 さらにその後を追っていく存在がいる。

 箒にまたがり、装甲付きのローブをたなびかせながら飛んでいくそれは、常人では無い。

 魔女だ。

 

 いやそれだけではない。

 

 巨大な、機械で出来た竜が、


 空に浮かぶ戦艦が、


地球の常識では空想の存在が、ありとあらゆるファンタジー的存在が空を飛ぶ。


何機も。

何人も。

何体も。

何隻も。


ああ、そうだ。

例え、僕が魔法を使えなくとも、剣を使えなくても、チート能力が無くとも、

ハーレムを作れなくても。



ここは、異世界だ。

僕は異世界にいるんだ。



『シナガワ! ぼーっとしてんじゃねえ』


 ダッチャの言葉にはっとして、僕は発艦前のチェックを行う

 飛行中の計器トラブルは避けたいが時間が惜しい。最低限のチェックをする。

 燃料魔力よし、メインコンピュータ問題なし。

 右手にある操縦桿を動かし、主翼のフラップ、水平尾翼、垂直尾翼を動かす。

 

 「動翼動作」


 『動作を確認、異常なし』


 後席のダッチャが翼の動作を確認した。


 「武装システム」

 

 『FCS(火器管制装置)、ミサイル、機関砲、オールグリーン』


 「UAV(無人機)コントロール」


 『起動、ネットワーク接続を確認』

 

 「レーダー、センサーシステム」


 『航法レーダー、射撃管制レーダー、Mセンサー、オールグリーン』


 「対魔導妨害装置」

 『各種モードテスト、グリーン』


 「通信システム」


 『回線接続、グリーン』


 「バリアシステム」


 『起動確認、グリーン』


 「エンジン、異常なし。計器に全て問題なし、オールグリーン」


 随分手順をすっ飛ばしたが、今は時間が惜しい。

 『加賀』の管制室に通信する。


 「こちら≪ファイザー11≫管制室聞こえるか? 発進準備完了」


 『こちら管制室、≪ファイザー1≫の後に続いて発艦せよ。発艦後、指示を出す』


 「了解。ダッチャ、準備いいか?」


 「できてる」


 「よし」


 機体の後ろで大きな板の様なもの、ブラスト・ディフレクターが起き上がるのが見える。

 左手のスロットルレバーを押して、エンジンを最大出力に。オーグメンター(推力増強装置)点火。

 機体が、エンジン音の高まりと共に震える。

 僕はキャノピーの取っ手を掴み、発艦に備える。

 直後、隣にいた≪フェイザー1≫こと、アリー大尉とヴァンス准尉が乗ったFA-13CDが緑色の炎を引きながら甲板上を疾走していって、飛び立った。

 その後、カタパルト制御担当の声が聞こえた。

 

 『≪フェイザー11≫、テイクオフ』


 凄まじい圧力がかかり、体がシートに押し付けられる。

 全てが後ろに行く。

 一瞬で、視界から艦の姿が消える。

 そこは空だ。高度1000メートルの。

 発艦したのを確認し、速やかに操縦桿とスロットルレバーを手に取る。

 操縦桿を右に倒すと、機体が旋回する。

 キャノピーの外、右側前方を≪フェイザー1≫飛んでいる。その向こうに巨大な空中構造体が見えた。

 ひな壇上に配置された三つの飛行甲板。左舷側に配置された艦橋。

 全長2200メートルの、灰色の艦体。大きな丸型ノズルが二つ。小さなものが四つ。

 艦首に漢字で『加賀』

 ミラリア海軍の、空飛ぶ航空母艦。

 空中戦闘母艦『加賀』だ。

「デカい」

地球では絶対見られない物だろう、と僕は思いながら、≪フェイザー1≫と編隊を組んだ。


 


剣も魔法も使えない、チート能力も無い一般高校生だった僕だけど、ある以外な能力、というか適性が見つかって、飢え死にする事は無かった。

それは、戦闘機パイロットとしての適性だった。

戦闘機パイロット、つまり戦闘機を操縦して戦う職業だ。

『トップガン』のトム・クルーズが演じた主人公と同じ。アレだ。

 正直、訳が分からなかった。戦闘機、というか軍事知識なんて何にも知らない僕にできるのか、と。

 

 「ま、詳しい事は教えるからさ」

 

 担当の軍将校はそう言って、僕を半ば強制的に軍の飛行学校に入校させ、みっちり『しごいた』。

そうやってあれよあれよという間に、僕は戦闘機パイロットになった。

そして、戦闘機に乗って『怪異』と戦っている。


 

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