超短編小説集「青」
@kisaragi_uiha
第1話「イチゴオレ」
ふと立ち寄ったコンビニで懐かしい物を見た。
高校時代、学校前にあったコンビニのチェーン店でしか置いていない商品。
水っぽくて、安っぽい味のイチゴ•オレ。
味と同じように値段も安かった。
あまりの懐かしさにそのイチゴ•オレを購入した。
5年前、このイチゴ•オレを美味しそうに飲む先輩がいた。そんなことをふと思い出した。
長い間行動を共にしたはずの先輩を薄情にも忘れていた。
あまりに憧れに色々な話をした。けれどもやっぱり俺は薄情なようでその話すらも忘れていた。ただ覚えているのは先輩が安いイチゴ•オレを頻繁に飲んでいたことだった。
コンビニから車に戻り買ったイチゴ•オレを早速開ける。
パキパキという小気味の良い音が車内に響く。中から漂うただただ甘いだけの香りが車内に充満する。
口に運び一口飲む。
なんとも言えない水っぽくさが口に広がり、後を追うようにうっすらとイチゴがやってくる。
一度だけ先輩に勧められて飲んだ時の味が蘇る。ああコレだ、この味だ。
そしてもう一つ記憶が蘇る。
夕暮れに染まる教室で向かい合わせに座った先輩と部の日誌をつけていた時のことだ。
俺は美味そうにイチゴ•オレを飲む先輩を見てふと思ったことを口にした。
「そのイチゴ•オレ美味しいですか?」
かなり生意気な後輩だったと思う。なにせ先輩の味覚にケチをつけていたのだから。
けれども先輩はそんなこともいに介さず
「この安っぽい味がいいのよ」
と言っていた。
それを聞いた時に俺はその言葉を理解出来なかった。
今なら理解できるかもしれないと思いもう一度口に含む。
けれども先輩の言葉の意味は理解ができなかった。
当時、生意気にも先輩の真似をしながら先輩よりも高いイチゴ•オレを片手に呟いた言葉をもう一度呟いた。
「マズイっすよ」
今になっても先輩の言葉の意味は分からないままだったが、美味しそうに飲んでいる時の表情が何を想っていたのかは想像がついた。
先輩と一緒に飲むイチゴ•オレの味が俺にとっての特別な味だったように、あの安っぽいイチゴ•オレの味は先輩にとっての特別な味で、美味しそうな表情は誰かのことを考えながら飲んでいる表情だった気がする。
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