ペア

風の上の兎

第1話

「嘘、だろ…」

自分にピアノコンサートの招待状が届くなんて何事かと思った。しかし、主役の人物の名前を見て唖然とした。そう、そこに笑顔で映っていたのは、あの彼だった。



昔から僕には色を見る目があった。

皆色は見えるだろう。僕が言っているのはそういうことじゃない。

例えば有名な絵画があったとしよう。その絵画は普通の人はただの絵の具を混ぜたぐちゃぐちゃの絵にしか見えないかもしれない。しかし僕は違った。あぁこの絵を描いた人はもしかしたらこんな日々を送っていたのかもしれないなぁ、だいたい年齢はこれくらいだろうな、など色から想像を働かせることが出来たのだ。僕には師匠がいた。ものすごくおじいさんだった。

僕は言った。

「シショーは何年絵を見たの?」

「分からないなぁ。俺は何歳なのかもわかんねぇな。」

「へー自分の歳ってわかんなくなるの?僕6歳だよ。」

「はは、そうかそうか、そうだなぁ。」

師匠はきっと僕よりも、僕の何倍も時間をかけてたくさんの絵を見てきたんだと思う。

師匠は自分は絵は描けないと言った。

僕は絵は得意だった。好きな車をたくさん描いた。

師匠は僕に言った。

「いつかはこの世界にあるものを描くだけでなく、自分で絵を創りなさい。」と。

その頃から、僕には親友と呼べる友達がいた。

彼は絵にはからっきし興味がなかった。

その代わり彼は僕に音楽について語り続けた。

僕は彼が音楽が大好きなんだなぁと思った。

それから小学校、中学校はずっと彼と一緒にいた。

暇な時間があれば僕はスケッチブックに絵を描き、彼は楽譜を見ながら鼻歌を歌った。

僕達は特別仲が良かった訳でもない。

趣味が合った訳でもない。

どうしてずっと一緒だったんだろう。

高校生になって僕が出した答えは、集中力だ。

僕達の集中力は同じくらいだった。

同じ時間帯に「疲れたね」と言っておやつを食べ始めたりもした。

逆にそれまでは2人とも互いに邪魔されずに描き続けた、歌い続けた。

中学を卒業して彼はいなくなった。

海外に飛び立った。

どこかは知らない遠くの国で音楽を奏でるのだそうだ。

その時に空港で彼の発した言葉が忘れられない。


「いつかまた会おう。2人ともアーティストとして。その時には俺は君の絵画をあらわした曲を作り、君は俺の音楽をあらわした絵を描く。いいね?」


その言葉を聞いた僕は彼の言葉が冗談なんかでは無く、笑いで済ませられるものでは無いと気づいた。

彼の目は本気そのものだった。

その時僕は初めて実感しただろう。

「僕は生まれてから今まで、ずっと彼に影響されて生きてきたんだな。」と。

それからしばらくして、彼の情報が海を渡って日本まで届いてきた。

やはり彼は天才だったのだと僕は思った。

それに比べて僕は、大学の美術サークルのリーダーで事務におわれている。切実に情けないと思った。

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ペア 風の上の兎 @cheeseMOCHI

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