しょうゆラーメン

短編

 袋麺が安かった。だから買った。


 あおいは片手に袋麺を持ったまま立ち尽くした。


「これ、スープが入ってないタイプだ」


(まあ、調味料使って作ればいいか)


 己の確認不足にうちひしがれるも、次の瞬間には打開策が閃いていた。

 冷蔵庫から取り出した袋麺を茹でながら、どんぶりに次々と調味料を加えていく。袋麺を持っていた左手は、スマホに代わり、簡単なスープの作り方を表示していた。

 一人暮らしのアパートには「自炊を続けよう」と思い買ったものの、大して減っていない調味料が複数収納されている。


(毎日ラーメン食ってれば、調味料使いきれるんじゃね?)


 などと健康管理もなにもないことを思っていた。


 茹であげた麺をざるに移し、さらにどんぶりへ移し入れる。気持ちばかりの冷凍野菜とワカメも混在していた。

 一人用の座卓に運び、なんとなくテレビをつける。見たい番組があるわけではないが、静かな部屋で食事をするのは寂しかった。


 ズズーだかズゾォだか判別しにくい音をたてながら麺を啜る。麺を食べている感があって好きな音だ。風情があるじゃないか。

 人によっては不快音であるらしい。風鈴の音もそんなような話を聞いた。嗜好は人それぞれである。普段は「静かに食べる」を心がけているので、今は許してほしい。


 食べ終わり、空になったどんぶりと箸、水をいれていたコップを流し台へ持っていく。勝手な印象であるが、シンクと言うとオシャレな感じがする。


「……」


 いや、そんなこともないか。


 食器を洗い終わり、歯磨きをして寝床に着いた。


「……」


(明日もラーメン食べよう)




 なんの変哲もない、一人暮らしの日常である。

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しょうゆラーメン @gomokugohan

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