公認デート?のお誘い

 

「では頂く♪」


 いつの間にか、私たちは殿下がお食事を始めるのを、待つようになりました。

 殿下がお口を付けられると、皆さん、お食事を始めるのですよ……


 正直、私も何となく殿方を優先するのですよね……

 女に埋め込まれた遺伝子なのでしょうか?


 私たち、メイドさんも含めて、美しさには自信があります。

 その八人に囲まれ、臆せず堂々とお食事されるなんて、さすがに皇太子殿下と思いますね。


「雪乃さん、お替りをいただけるかな?」

「どうぞ、お口に合いましたか?」

「いつも思うのだが、雪乃さんの料理は口に合う、何故だかはわからないが?」

「殿下の口が庶民的なのではありませんか?」


「そうなのか?」


「殿下にお出ししているのは、悪い言葉でいえば『汁かけ飯』、宮殿では出ませんからね」

「私もどちらかと言えば、こんな料理が好きなのです♪」

「そうか、では雪乃さんと夫婦になれば、朝昼晩と食べられるのだな」


「……上手いですね、殿下が二人の約束をお守りくだされば、私は卒業すれば必ず嫁がせていただきます、ご安心ください」

「そうか……しかし、料理につられているのは本当だ、毎週日曜の昼には、出来るだけ時間を取って、食事を無心に来るつもりだ」

「お待ちしておりますね♪」


「なかなか時間が取れないので、必ずと言えないのが残念なのだが……しかし、これだけはいえる、雪乃さんとの約束は必ず守る!」

「私も御約束は必ず守ります、だから、娼館通いに対しては、悋気などだしません」


「律義だな」

「それしか取り柄がありませんから」


「雪乃さん、婚約は先でよいのだが、公の場所で、夫人同伴の時があるのだが……その時は、お願いできるか?」

「……まぁ、世間様は、私が将来、殿下に嫁ぐと思われておりますし、構いませんが、それでは殿下が拘束されますよ」

「それはお互いであろう?」

 

 いつのまにか私、殿下と仲睦まじく、話をしています……


「愛人同伴の時もあるが、その時は三人にも同伴していただくが、構わないか?」

「それは、皆さんにお聞きしてください、私は喜ばしいのですが」


「構いませんよ、雪乃様に従います」

 これをダイアナ様がおっしゃいます。

 皆さんを見ると、頷かれています。


「もちろん、『巫女』になる方も同席していただく、よろしいか?」

 メイドさんを代表して、平野千代子様が、

「私どもは雪乃様の御心のままです」


 でも、四人のメイドさん、嬉しそうな顔をされておられますね。


「雪乃さん、今度、私が所属する華族院高等部のラグビー部と、帝都義塾高等学校の練習試合があるのだが、連戦連敗の体たらく、雪乃さんが応援に来てくれると嬉しいのだが……」

「練習試合ですか……その……あまり、いい思い出がなくて……」

「確かにそうだが……お願いできないか?」

 殿下、そんなに見つめないでくださいな……


「試合はどこで?」

「帝都義塾高等学校のグランドだが、次の日曜なんだ」

「応援させていただきます、皆でいってもいいですか?」

「助かる……ついては昼食なのだが、部員の分もお願いできないか?私はこれでも主将なのだ」

 また、お弁当を作ることになりました……ラグビー部員は25名とのこと……


「私、殿下のお食事ばかり作っていますね?」

「連中に、雪乃さんを自慢したいのだ!」


 日曜の十時から試合が始まるようで、早朝からお弁当を、私たちの分を含めて35人分つくり、皇太子殿下差し回しの馬車に乗せたのですね。

 担当はなんと脇坂様……

 

「姉上、お久しぶりです、雪乃様、受け取りに参りました」

 文子様が、

「皇太子殿下の付き人をしているのですか?」

「私はこれでも、華族院中等部のラグビー部なのですが……」

「そういえばそうでしたね、後から私たちも応援に行きますと、殿下にお伝えください」


 ダイアナ様が、

「これってデートになるのですかね?」

「えっ、ラクビーの応援なのでしょう?」

「そうなのですが、帝国の皇太子ともなれば、女性と逢い引きなんかは無理でしょう、なにか理由がなくては……」


 洋子様が、

「必ずお付きの方がおられますしね、多分、殿下はプライベートで、女性を誘ったことなど無いのではありませんか?」

 文子様が、

「色々とうるさいですからね……特に華族令嬢が……女の敵は女ですから、それに高等学校の交流戦ですから、変な女は追い出されたりしかねませんし……」


「高等学校の学生って、頭はよろしいかも知れませんが、馬鹿が多いですよね、『蛮カラ』とかいって、くだ巻いているばかりね」

「殿下が柔軟なお考えのようで、良かったわ♪」


 まあ、『岩倉姫宮雪乃王女』殿下ですから、追い出されはしないでしょうけど、なんか腹が立ちますね!

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