養父母の涙


「お父様、お母様、お久しぶりです……」

「一月ぶりか……親王の件……面目ない……」

「なにをおっしゃるのですか……私こそ、親王殿下を……」

 

 何故か涙がこぼれました。

 あんな男の為ではありませんよ、お父様の心労が痛々しいほどわかるのです……


「お父様、私は大丈夫です、だからお心をしっかりとお持ちください」

「ありがとう……」


「それで、慰問の話だったな……とにかく許可する……」


 お父様のお顔を見て、私は皇太子殿下とのことをしゃべることにしました。


「親王殿下の件で、皇太子殿下が私を訪ねてこられました」

「皇太子殿下の御下問に、私は真摯にお答えしました」

「殿下の御下問とは、『私は出来うれば雪乃を妻にしたい、が、私は女好きだ、雪乃はそんな私をどう見るのだ』ということでした」


「私は数々の希望を述べましたが、殿下は『娼館通いを目こぼししてくれるのなら』との条件で、承諾していただきました」

「そして、心が落ち着くまで、そして私が卒業するまでに、私が殿下を愛せるように、口説いてほしいとも言いました」

「殿下は『卒業までに、雪乃の心を私になびかせて見せよう』とまで、云っていただきました」


「この時、正直に申しますと、私は自己嫌悪に陥っていました……」

「殿方に捨てられると……すぐに……別の殿方に媚びを売る、嫌な女が私……」


「そんな嫌な女ですが、皇太子殿下の正直なお言葉には……心が揺れました……」

「もし、お父様、お母様が、こんな嫌な私でも、お認め下さるなら……卒業まで殿下がお待ちくださるなら……本当の娘になりたいと、願っております……」

「私は嫌な女です……だから親王殿下の事でお心を痛めるのなら、仕方のない事ですが、私の事なら、こんな嫌な女の為に、そんな辛そうなお顔は必要ありません……」


「そうか……」


 突然、抱きしめてくれたのはお母様……

 なにも云わずに、私の頭を撫でてくださりました。


「ありがとう……」


 ふと、見ると、目じりに少し涙が……お父様も、なんとなく目が潤んでおられるような……


「さて、陛下……私たちは良き娘に出会えたようです……ねえ、雪乃、無理することはないのよ、皇太子は母親がいうのも気が引けるけど、女が好きでね……」

「お母様、殿下は正直におっしゃいました、女好きで娼館通いはやめられぬが、おおっぴらに通うことは控える……それは正直なお言葉でしょう」


「私が思うに、殿下はあとくされのない女で、遊ばれているのでしょう……これは殿方の病気のようなもの、この病気以外は、殿下は英雄と呼べる方と思えます」

「英雄は色を好みます、しかし、殿下は、娼館通いを私の前で自慢する方ではない、正直なお話をして、そう判断しました」


「だから無理をしているわけではありません、私は心の奥底では、殿下に好意を抱いております」

「でも、後生ですから、殿下には言わないでください、やはり女としては、殿下に口説かれたいのです」


「そうね、十三歳といえど雪乃も女なのよね、殿方に口説かれなければね……」

「分かったわ、雪乃の気持ちをきいて、少しは心が晴れるわ……私、雪乃に申し訳なくて……情けなくて……会わす顔がなかったのよ……」


「皇太子は存分に待たせればいいわ、たしかにあの子は、帝国を任せることが出来る器ではあります、そして雪乃が側にいてくれるなら、陛下、帝国は万全となりますね」

「そうだな……息子には言わぬが、嫁いでくれるのか?」

「殿下に嫌われたら、お約束はできませんが、少なくとも私は約束は守ります」


「皇后同様、今の雪乃の言葉を聞いて、心が落ち着いた、感謝する……」


「ねえ、衛戍(えいじゅ)病院への慰問、歌を披露するの?私も聞きに行ってもいい?」

「それは……」

「いいじゃないの?帝国兵士の病院でしょう?私が慰問に行ってもなんら問題はないわけだし、たまたまね、日時が一緒なだけでしょう?」


「余も……」

「陛下は無理でしょう?大事になりますよ」

「……そうだな……」


「お父様、そんなに残念なお顔はしないでください、そうだ!こんど『帝室王女御用邸』の中庭に、例のパーティーに使ったガーデン家具をおけるようにしました、だから一度、おもてなしなどいたしたいと思います、来ていただけますか?」

「よいのか?」

「今度は皇太子殿下もご一緒に、私としても、より親しくしたいわけですから……」


「いろいろ気を使わせて悪いな、では楽しみにしている」 

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