大賢者、斯々然々で覚醒す。中年低スペックの俺でも異世界では役に立つみたいです。

満梛 陽焚

第1話 突然の訪問

 やばい、やばい事になってる、

 この世界…

 夢じゃない!!!


 日本のとある街、大体の物が近所で揃う、

そこそこの街。

 そんな街に俺の家がある。

 正確には部屋である。

 

 8階建てマンションの8312号室、風呂トイレは一緒であり、見てくれはよいが壁は薄いので、上下左右からの生活音が鳴り響くのである。


ドン、ドン、

ドーッコン、

カラッ、コロッ、コロッ、

コロッ、カラッ、コロッ、


 ほらね、本日は全方向からの騒音です。

 それでも我が家、もう、慣れたものである。


 板の間に座して居た、瞑想の為。

 ヨガまでいかぬ、俺なりのリフレッシュ方。

 こうしていると、イイ気分になる、理屈は知らないがそうなる。


 ピンポーン


 来客か?宅配か?


 カチャァ、バタァー


 「おはようございます!」


 な、なに!なんてかわいいんだ!

 これほど綺麗な女性がこの世界にいるなんて…


 「お、おはようございます」

 

 拙い挨拶を返すと、その娘は事もなげに俺に擦り寄ってきた。


 「わたし、貴方を探していたんです、ずっと」


 「そ、そうなのですか、そ、それは大変でしたね」


 久しぶりの女の匂いと感触にぼーっとなっているので、これぐらいの返事で精一杯です。


 「ここは、元々わたしが住んでいた部屋なの、それは十年前のこと、わたしが、まだ小さな頃、母と二人、この部屋で七から八ヶ月程度ですが暮らしていたんです」


 「そ、そうですか、そ、それで何故なにゆえにこんなことを…しているのですか…」


 (あ。限界だこれ)


 もうダメでした、こんな状況、誰が想像できるのか。

 目の前、いや、俺の肉体にピタリと張り付く彼女の極上の肉体。

 フェロモンは脳に突き刺さり、理性は野生に帰依すると。彼女を圧倒的な男の筋力でベットに連れて行く、もはや暴力であった。


 獣の様に鳴く彼女

 捻じ曲がったのではない

 奥深い自らを求める探究心

 捉えた悦を離せないでいる

  

 …しかして永遠はなく…


 「あの、そういえば話しの途中でしたよね」


 「そうだね、まだ聞いてなかったね、どうしたの?」


 俺は自分の自信と、力強さのある話ぶりに、少しびっくりした。


 「これを見てください」


 彼女はそう言って、古くて、くすんだ紙を両手で広げて見せてくれた。


 そこには、こう書かれていた。


 ”賢者は裸のまま目覚める

 悦びの中

 君の匂いを纏ふ

 浸る、生命という実感

 その時、光は照らすであろう

 約束の地を”


 「これは母からのメッセージです、わたしの母は、この部屋に隠したのです、とある秘密を。この世界を守る為に」


 「は、はい」


 理解に苦しんだ。


 彼女は、現代社会の闇に住まい、それが異常とも知らず正常に病んでいるのだ、早々に帰宅して頂こう…いや…きっと、これは誰かが間違って呼んだデリ嬢で、この設定はオプションであろうから、クレカ先払いである事を願おう…とか。そんなことが、俺の頭の中を巡る。


 しかし、どうやら、至極真面目な話しらしい。だって、彼女の眼は、澄んでいるんだ。


 「ほら!見てください、窓から光が!貴方を照らしています」


 おお!本当だ!

 

 これは何だか面白くなりそうだ。

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