【エピソード0】鳴神寄付者!!!!!(なりかみドナー!!!!!) ~天使が俺に、魔人が俺に、そして俺は俺になる~

ゆずり

第1話 はじまり

 そう遠くない未来……。そう、別次元というものが発見されて数百年。人間の生活は他の次元の生命体と共存するようになった。当初は、上位の生命体に駆逐される時代もあったが、第37次元の精神生命体“ラプチャ”が出現し、全ての生命体を統一してからは共存の道を歩んでいる。全ての生命体は複数のラプチャに繋がれ、精神に“スティマ”(烙印)が刻まれる。  

 ――そして、ある時、高名な誰かが気が付いてしまった。このをスティマを介せば、どの生命体でも精神を交換できることに……。


【寄付者(ドナー)】

 ラプチャという絶対的公平中立な存在が刻んだスティマに、2つの生命体が誓約を交わせば、時間を決め、互いの精神を交換できるというものだ。交換した生命体は“寄付者”(ドナー)と呼ばれ、別次元のドナーとなれば、その次元の環境に適応するし言葉も話せる。ただ、寄付者は何をやってもいいわけではない、ラプチェが定めた全次元共通の誓約がある。

 一つ、意図的に寄付者の存在を消失させるようなことはしないこと。

 一つ、自己防衛以外は、他の生命体を心身ともに傷つけないこと。

 一つ、各次元に対し、不利益を生じる行為は行わないこと。

……まだまだあるが、重要なのはこの三つである。誓約が破られた場合、どうなるのかはラプチェのみ知る。ただその恐ろしさから、今までどの生命体も誓約を破ったことはないらしい……多分。


 俺は、鳴神 来人(なりかみ らいと)。別次元の生命体が、この世界で暮らせるよう、寄付者の仕事をしている。寄付者の仕事は、世界機関“転身庁”(てんしんちょう)が行う。俺は日本関東支部の所属だ。今、待機室で寄付者の仕事を待っている。


『鳴神寄付者(なりかみドナー)!!!!! 準備完了……至急、第6転送室にお越しください』


 転身庁のAIが俺を呼んだ。


「よし」


 俺は首を鳴らしながら、転送室に入る。

 転送室は、いつくものモニターや機械が設置され、中央に何本のチューブが入ったカプセルが2つある。1つのカプセルは俺が、もう1つのカプセルは俺の身体を使う客が入っている。操作するのは、寄付者のサポーターの姫島 綾香(ひめじま あやか)だ。 綾香は、俺が寄付者になってからの付き合いだ。


「鳴神さん、準備はいい?」

「あぁ…」


 黒髪ロングの眼鏡美人は、いつものとおり淡々と俺に話しかける。

 いつものことなので俺も淡々と答えた。


「今日の客は?」

「第77次元“ゼクス”の将軍みたい。“ルルガ”という名前らしいわ。3日後、交易会議に出席するらしい」


 俺は、眠っているルルガの入っているカプセルを見た。人間に似ているが、黄色い長髪と、身長は2m、赤い瞳、額には角がある……魔人のような生命体だ。こんな体で交易会議? 頭がいいのか分からない。


「……護衛としてらしいわ」

「あぁ……納得」


 綾香が俺の考えを読んだのか、補足してくれた。


「……鳴神 来人。ルルガとの精神交換に合意する」


 俺は、そう言うと、カプセルに入る。俺の腕のスティマが輝いた。精神交換の契約の証だ。

 AIは、カプセルに透明な液体を流す。

 俺はその催眠液を飲み込みながら、深い眠りについていった。

 目覚めた時には、きっと、あの屈強な身体になっているだろう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る