第29話 修行編 Last Day ③

「何てことを …… 」


 トトは驚きを隠せない様子だ。


「えっ!? ベゼブってセフェクのお父さんのかたきの?! トーレの法式に何か関係があったの?」


「ええ …… トーレ様が使われた法式は、唱えこそ違いますが、我々の世界の法式そのままです。しかも、我が国王であるアテン様や、一部の者しか知らないはずの最大禁忌きんきである法式 …… 」


「ああ、これはMode Eclipseモード エクリプスで間違いねぇ。多世界のエネルギーを強制的にこっちの世界へ戻させる法式で、未来を諦めたヤツのみてぇなものだ」


「って事は …… 」


「あの野郎、ほか世界を犠牲に自分の世界を始界ティアにし、生きながらえる気だ。っは! 終焉しゅうえん暮らしが余程のトラウマか? 遠回しにオレらの元の世界の終焉をも加速させるのも狙いだろうがな」


「そんな …… 壱式開錠いちしきかいじょうなんて基本中の基本で教わるんだよ?!  …… 世界中で今もどれだけの人が使用しているのか …… 」


「っは! これは早速の収穫だトト! そのバアルとかいうペテン師がベゼブで間違いねぇ!」


「ですね …… 」


「やはりな …… セフェク、お前に興味が出た。詳しく聞かせろ」


 トーレは、セフェクと出会うまでの経緯を聞く。




 ……………………


 …………


 ……




 一同は各々、その場で程度の良い所に腰を掛け、それまでの経緯を話し合った。


「なるほどな、久々能智くくのち一族に伝わる話が真実味を帯びてきたぜ。そうか、オレは間違っていなかったか …… 」


「オレはバアルを目指すぜ。ジンの理屈も理解した。濃縮されたジャム気と変わらねぇなら話が早ぇ。イチさっさと覚えるぞ!」


「そんな簡単に言われても …… 」


「トーレ、お前らは壱式開錠いちしきかいじょうが禁術なら、何で代用している」


「あぁ、ジンの二大法式以外の解明は禁止されているがな、一族ではこれを使う」


 トーレは立ち上がり、再び右腕を前に差し出す。


 —— ChiLiChiChiChiチリチチチ


零式無尽ぜろしきむじん!」


「キレイだ …… 」


 イチはチリチリと少し髪の毛が逆立つのを覚えた。


「なるほどな …… 何も知らずに良くやってるよ、お前の一族は」


第壱層Mode Firstですね」


 セフェクとトトは、真っ直ぐに円環法式を確認するように眺めている


「あぁ、これが本当のってやつさ。トーレ、体がだるくなるだろ?」


「ああ、零式無尽ぜろしきむじんは、鍛錬されてない者は発現と同時に気を失うほどな」


「はっはー! お前もお前の一族も気に入ったぞ!」


 セフェクは座りながら膝を手で叩くと、唱えを放った。


第壱層Mode First


 —— VyNnヴィンッ


 激しく風が舞い、セフェクの前にサークル上の法式が完成している。


「どうだイチ、トーレと同じだろ?」


「う …… うん(少し違うけど …… )」


「お前はまずこれを覚えろ」


「そんな、ジンはまだ発現したこともないのに」


「いや、このMode First《モード ファースト》、こっちでいう零式無尽ぜろしきむじんは、法式だけなら誰でも発現できる」


「え?!」


「お前が必死に発現しようとしていた壱式開錠いちしきかいじょうは、Mode Eclipseモード エクリプスと言って禁術だからな。他世界の自分とリンクさせなければ発動はしない。そして他世界と繋がる事は簡単じゃねぇな。お前が発現できなくても当たり前の範囲って訳だ」


「そんな …… でも …… 」


「いいから、やってみろ。法式は覚えたか?」


「う …… うん、前から自分なりに考えていた法式と大体同じだったから …… 」


「 …… (なんだと …… ! だと? こいつ、能力が使えない中で、それでも使える法式を編み出そうと、法式自体を解明しかけていたという事か? 一族でさえ、どれだけの年月を割いていると思っている!)」


 トーレは、イチがなんとなく漏らした言葉に敏感に反応した様子だ。


「やってみるよ …… 」


 —— FaWaファワッ


 イチは、右手を空へ留めると、二回見ただけの書術を描き始める。


「 …… (こいつ、やはり …… )」


 イチは目をつむり、ゆっくりとだが確実に円環法式の完成に向かっていく。そこに焦りや不安は感じさせず、静かだが力強く、落ち着いている様子だ。


 —— Ziヅィ ……

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