天才女子高生棋士の弟子になった僕は今日も攻められています。
広田こお
第1話 将棋の神様と話した
僕は三段リーグを抜けられずにいた。青春は将棋に捧げた。彼女も作らず、童貞のまま成人式を迎える僕。これでプロの将棋指しになれなかったら惨めなんてもんではない。
将棋会館の近くには神社があり、僕は絵馬を奉納した。
どうか池神慶輝をプロ棋士にお願いします。将棋の神様へ。
と絵馬には書かれていた。
今日も神社で手を合わせる。
すると後ろから師匠の可愛らしい声がした。
「おーい、ケーキくん、私の詰め将棋は解いてくれたかね?」
振り返るとそこには連盟が誇る将棋の天才女子高校生棋士の西園遙佳棋聖がいた。小柄なこの女の子が僕の年下の師匠である。
「解けませんでした。」
というと彼女は口をふくらまして。
「奨励会三段の君が十三手詰めぐらい楽勝だろ?な、解けたんだろ?」
といって僕の脇腹を小突く。
実を言うと当然僕はその詰め将棋は解けていた。
解いた瞬間非常に気まずい気持ちにさせられたが。
現れた詰めあがり図はハート型に駒が並んでいる。
師匠はからかっているのだ。
二十歳になっても彼女ができない僕を。
「ね?私将棋の神に愛されているよね?ケーキくんは、将棋の神様には愛されてなくても、将棋の女神が尊い愛を捧げているよ?ふふふ、照れるなよ。この!」
師匠の二つ名は将棋界に舞い降りた女神であった。
「遙佳さん。僕はプロ棋士になるために浮ついた話は全部断っているんです!」
本当を言うと悔しい。プロ棋士になったら、彼女に告白しようと思っているのだ。
でも、遙佳さんは僕の事情なんかおかまないなしにアタックをかけてくる。今は今は、
将棋の女神より将棋の神様が大事なんだ。
すると
「青年よ。殊勝なり。我棋神なり。汝我に純潔を捧げるか?」
頭の中に声が響く。
「もし純潔を捧ぐなら、我、汝に力を与えん!」
僕はそのとき将棋の神様に祈った。プロ棋士になれるなら、なんでもやると。
「承知した。汝に力を与えん!」
「ケーキくん、何黙っているのかね?ん?ん?」
相変わらずからかい続ける遙佳さん。
遙佳をみると顔とオーバーラップするように八十億という数字が見える。
な、なんだ。
「この少女の棋力だ。」
と頭の中で声が響く。
「汝に授けた力なり」
家に帰って鏡をみると自分の顔とオーバーラップするように数字が見える。
そこには一億の数字が見える。
「くそう。八十分の一かよ?」
僕は軽く絶望した。
あきらめようかなプロ棋士になるの。と頭の中でぼやく。
「ピンポン」とインターホンがなる。
「愛弟子よ?いるだろ?差し入れ持ってきたぞ?」
扉を開けると師匠がいた。
女っ気がない僕にも分かるぐらい師匠はオシャレをしていた。サラサラとしたショートヘアがクルクルとパーマがかけられている。
「師匠。師匠は八十で僕は一なんです。意味分からないと思いますが。僕は軽く絶望しています。」
師匠は口を押さえると不思議そうな顔で。
「ああ、将棋の棋力ね?」
と事もなげに言い切った。
「え?」
「棋神が舞い降りたのね。何を誓ったの?」
「純潔を」
「はぁ?童貞に価値なんかねぇよ?」
と遙佳は小突く。
「ね?キスしようか?」
「師匠。今は将棋が僕の恋人なのです」
「馬鹿!心で一番大事に思っているものを賭けないと棋神は力を与えないの。まぁ、年頃の男の子だったら、わからんでもないけど」
「はぁ」
「全く!この女好き!男はこれだから。遙佳が一番大事に思っていたのは棋力だよ。棋力を犠牲にして棋力を上げるというのは矛盾するから、私は何の代償もなく力を得ることができたんだけど。」
マジか。それズルくねーか?
「そうとわかったら、是が非でもケーキくんの童貞を私が奪ってあげないとね?それで棋神の力をケーキくんは失い。私の将棋の覇道を妨げる者もいなくなると。」
といって師匠は僕に抱きついてきた。シャンプーの淡い香りがする。理性が持つのか?
師匠は脇腹を優しく、くすぐってくる。
「ふ、ふざけないでください。僕は名人になって遙佳さんに認められたいんだ!」
「それ意味なくね?最強は私でいいし?」
と男のプライドを歯牙にもかけず、遙佳は笑う。
「私は弱いケーキくんが大好きだよ?」
「僕はあなたのそういうところが嫌いです!」
「まぁまぁ、棋神に捧げるものが棋力以外な時点で君の負けでしょ?私は将棋に勝つためだったら処女でも捨てれるもん!」
「僕は将棋に勝つためなら童貞護ります」
「まぁいいか。今回は見逃してやろう……。不肖の弟子よ。けどね?もうケーキくんは私のモノだからね!」
そういうと、彼女は差し入れの弁当を置いて僕のマンションから帰って行った。
夢をみている。
師匠とシテいる夢だ。
「将棋の神様に純潔を捧げるんでしょ?私将棋の女神だから、合っているよね?」
と師匠はクスリと笑う。
「約束通り、遙佳がケーキくんを強くしてあげるね?」
そういえば師匠は僕を弟子に採るとき、必ず君は強くなるよ?と根拠もなく言った。
朝起きる。夢の内容はまるで現実のように忘れられない。
今日は三段リーグのクライマックス。勝てばプロになれる大事な日。
朝いつものように神社に行く。
「よ?来たね?」
と当たり前のように師匠がそこにはいた。
「昨日は眠れた?」
夢のことを思い出し、ちょっと焦る。
「ええ、寝れました」
「ひとつ言っておくけど、私は本当に将棋の女神だから。人間のケーキくんにかなう相手ではないよ?それでも私に認められたいのなら、今日は勝ちなさい」
といって彼女は僕に扇子をくれた。
「これを対局中使いな」
師匠も気づかってくれている。
「ありがとうございます。必ず勝ってきます」
「その扇子を私だと思って念じるとイイコトあるはずだよ」
師匠の愛が感じられるな。そのぉ……師弟愛以上の。ごめん師匠。遙佳さん。僕もあなたを好きです。でもあなたに将棋指しとして認められたいんだ。
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