第25話棚岡隆也とハル先輩--5-




視線が痛い気がする



すれ違う男が2度見3度見する事が今日の街のルー

ルでもあるかのようだった



「楽しみだねー、りんご飴にわたがしに」


ハル先輩は上機嫌だ


祭りの会場まで歩いて15分程だが


着慣れない浴衣に下駄もあってか


結構時間がかかった



地元の祭りといえど人で賑わってる


「雪君はぐれないよーにね」


ぐいっと引っ張られた


なんでもない顔をしてるから何も言えなかったけど、手を繋いで祭りを歩いてる


気恥ずかしさが込み上げた



途中、何人か同じ学校らしき男女が時折視界に入った


驚いた顔、あーいつものことだ


遠巻きにでも表情で分かる



まあ、地元だし見つかるよね



そして当然ハル先輩に撃沈した方々も




綿菓子を買って「大きいから半分こしよ」

との提案で、空いてるベンチに座った時それは起きた




「ハルちゃん、え、なにそれ」


いかつい男が話しかけてきた


突然、なにをそれと指すかも分からない少し頭の悪そうな人だった


不機嫌なのは2秒て伝わった



「あんだけ頼んで断って、こんなやつと、、」



ああ、なんか話が見えてきた



ハル先輩は清々しいほどに無視


綿菓子を千切って僕の口に「はい、雪君」と、無視しながら不快感のお返しをし始めた



「おい」


そいつはハル先輩に手を伸ばした


僕はとっさにそいつの手首を掴んだ


「やめてもらえますか?」


「クソガキ、お前か雪ってのは」



険悪としかいいようがない


「騒ぎになったら周りの人すぐ祭りの運営の人が来て警察呼ぶと思いますよ?」


「はい雪君」


目の前の一切合切を無視するハル先輩は、千切るわたがしを僕の口へ放り込んだ


目の前であーんってやつ



この状況で



いかつい先輩はこめかみに青筋を立てている



「今日暴れたくないんだよね、やらせるなら前より酷い目に合うけどいいかなー」


綿菓子を食べながらそいつを見ることなくハル先輩は言った、独り言のように


途端そいつは青ざめて、舌打ちをして消えていった


「先輩、今の」


「へなちょこライセンス」


ああ、ボクサーのあれか



一撃でやられて、まだ纏まりついてたのか


メンタルすごいな


だからプロなのかな



「いやー、なかなかだったね雪君」


「え?」


ハル先輩はわたがしの付いた指を取り出したウエットティッシュで拭きながら笑顔で頷いた


「俺のハルに手出すのやめてもらえます?」


声色を真似してるのか、似てないけど


「セリフ変わってますよ」


むず痒い気分になった、いや、言ってないのに



「男らしかったよー雪君」


にかっと笑うハル先輩



なぜか、男らしかった


が、強く響いた


気恥しかを誤魔化すように、丁度花火が上がる時間だし、土手の方へ行きましょうとハル先輩を促した



そういえば、家からも見えるから殆ど来たことなんてなかったな


ハル先輩が居なかったら今年も来てなかったろう


綺麗だねーすごいねーとはしゃぐハル先輩


来年も、ハル先輩と来れるのかな


不意に先輩を見ててよぎった



花火が終わり、帰ろうとする大勢の人の中自然と今度は何も言われずに手を引かれた



「あ、こっち近道」


舗装が悪く、明かりがあまりないけれど地元民だけが知ってる抜け道を通り会場を後にしようとする



砂利ついた足元に気をつけながら進んだ



出口が見える頃


忘れようにもついさっき見た顔がそこにあった


いかつい先輩


と、質が悪そうな2人組み


連れか



当然無視を決め込むつもりだが


今度は3人いるからか、いかつい先輩は口元を緩ませ出口を阻むように立ち、向き合うはめになった



ついでの2人も



「今なら少しは誰も来ないしわかんねーよなー」


連れにそう言ういかつい先輩は敵意を顕にした


繋いでるハル先輩の手を後ろに引きハル先輩を下がらせた


「なにかっこつけてんの?」


言うや否や視界がブレる


ジャブが見えなかった


倒れはしなかったがよろめいて後ろに引いた


「先輩、戻って!早く!」


動きにくい浴衣に足場は悪く、3人相手


いくらハル先輩でも分が悪い


そして、へなちょこといってもそれはハル先輩かららしてあって、一般人からしたら紛れもないプロ


勝てるわけない、先輩に逃げてもらわないと


幸い、ほんの少しだけ警戒させて逃がせる要素はあった


下段蹴り


いかつい先輩は驚きを浮かべ1歩下がった


ダメージは問題じゃない


こいつもやってるって思い込んでくれ


たなりゅーと時々先輩の道場で習った

【僕は】にわか程度だけど


ハル先輩の強さと空手が精神的にそいつには効いてるはず


やっているってだけで、警戒し少しは稼げる


が、そうもいかなかった


後ろに居るふたりはハル先輩に直接やられていない


勢いよく2人がかりで殴られた


でも少しでも堪えて先輩が会場に戻るまで稼がないと


その2人は典型的に漫画の敵キャラみたいに大ぶりで殴りかかってきていた


殴られながらも、1人は顎を撃ち抜いて落としたん


一矢むくいたし、あとは仕方ない


いかつい先輩もハル先輩が見えなくなって僕に向かってきている


ぼこぼこかなぁ



「え、何してはりますの?」


突然後ろから声がした、聞きなれた声


第三者に驚いたそいつは一瞬固まった


そして後ろにいたそいつ、たなりゅーは素早く詰め寄り上段蹴りをはなった


たなりゅーの身長、足の長さは余裕で大抵のやつの頭部まで届く


くらったそいつはその場でぐしゃりと崩れ落ちた


「やってて良かった公文式」


たなりゅーは意味のわからないぼけをぼやいた


「雪君、流石にプロでもまだ新人、二対一ならいけるんちゃいますかね」


たなりゅーは資格こそとってないものの


道場でハル先輩や黒帯の人と組手をやっている

フルコンで黒帯同等のレベル



「それでも、あの顔は余裕なんだと思う」


いかつい先輩は倒れた2人を気にせず拳を鳴らした



覚悟決めるかぉ


頼むぞたなりゅー


そう思い、隙をつくろうとたなりゅーより先にいかつい先輩に向かおうとした瞬間



横を、空中を飛んだ


私服のハル先輩が飛び膝をいかつい先輩にくらわした


勢いよくよろけるいかつい先輩に上段回し蹴り


一瞬だった



「一応軽い着替え持ってきたから良かったよ。たなりゅーごめんね、マネージャーちゃんに履き物借りたよ。うげっ、汚れちゃった。」


ハル先輩はVの字を作って笑顔を見せた



完全にオチてる3人を引っぱたいて起こして


「ほんとに、最終通告な。次は身内連れて追い込みかけるぞ」


と、恐ろしい声で脅した



そいつらは震えながら逃げていった




「たなりゅー、さんきゅー雪君手伝ってくれて」


「てゆうか、なんでたなりゅーここにいんの?」


「いやだって近道ですやん。それに聞いたら来るでしょ普通に。」



「ごめん、ありがとう」



本当に助かった、大怪我せずに済んで


「雪君大丈夫?!」


ハル先輩が飛びついてきた


「いいの1発貰っただけです、大丈夫です」


「頬、腫れてるよ!蹴られた跡もあるし」


「これで済んだだけまだマシです、たなりゅー居なかったら大怪我でしたから」


「ごめんね、あたしのせいで」



初めて見るハル先輩の深い落胆


「悪いのはあいつらです、先輩は悪くない」




何が起きたか分からなかった



ハル先輩は僕を抱きしめて泣いていた




気が動転してどうしたらいいか分からず固まっていた僕



たなりゅーは複雑なのか面白いのか嬉しいのか


口角を少しあげて僕を見ていた



夏休み後半


初めてハル先輩の見たことない一面を見た



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