第12話品川皐月(しながわさつき)

桜が心配だった


桜は数ヶ月前、長期予定で海外に行ったお姉さんと離れ離れになってしまってから、確実に不安定になってる


これまでお姉さんにべったりだったけど、学校ではそんな内面を微塵も感じさせず、クラスメイトともそれなりに踏み込み過ぎず、踏み込ませ過ぎずの距離感だったし

誰も気づかないだろう


あたしは気づいてる


入学した1年の時から友達になって、あたしとしては桜を親友だと思ってる。

余程人には話さないお姉さんの話もしてくれたし、何度か誘ってくれて3人で遊んだこともあった


それは、桜があたしに心を開いてくれていて、深い所まで踏み込んでる友人として思ってくれてる証ではないかと思ってる


お姉さんの向こうでの話もしないし、一緒に出かけても前のようにお姉さんと一緒に居た時のような格好をしなくなったし、それだけでも充分に違和感を感じた


だから、あたしで出来る事があればなにかしたかった


でも桜は大丈夫だよ。ごめんね心配かけて


としか答えない


逆に気を使わせてしまっている。


桜一人暮らしなんだし、余計に心配だけど


あまりにあたしの心配を押し付けるのも、それはそれで違う気がした





誰か桜を気にかけて、桜も気兼ねなく深く踏み込める人が居たらなぁと思った


ほかの女子の友達はそもそもお姉さんの事から知らないし



男子はあてにならない


親切な友人枠より、断然付き合いとか下心とかそんな奴ばかりだから


変なのは近づけさせたくない


寂しさから万が一過ちを犯して、桜が傷ついてしまったらと思うと、考えるだけで怖くなる


軽薄な男子は、桜の清楚な容姿と柔らかい物腰をどう勘違いするのかグイグイ来るやつが結構いる



あたしはせめてさくらの盾になるのが精一杯



そんな心配の中で、突然の十条君と一緒に登校事件


クラスの男子は結構絶望的な顔してたし、事件でいい


平日の夜、夜中に新宿を桜が彷徨いてたなんて部分だけで

不安が現実になったような気がして青ざめかけたけれど


十条君は、他の男子とは違う。

それは大いに安心した。


それはさくら本人が分かってるからそんな急に仲良くなったのだろう


初めて見た

男子と全く関わってないわけではなかったけれど、クラスメイトでさえそんなに桜と親しい、桜が親しくしようとしてる男子は居なかったから


聞く分には桜から十条君に関わろうとしてるように思える


彼が桜をどう思ってるか分からないが、出来れば桜の力になってあげて欲しい


今朝登校した桜が、お姉さんといた時のような格好で居たのは


間違いなく前向きになろうとしているからこそだし


十条君のお陰だろう





あたしは短い時間だけど、るのあでの2人の空気感を見て思った


仲良し以上に、なにか分からないけれど少し似た者同士のような感じ


少し突然すぎるし違和感はあったけど


桜が1歩踏み出した


それだけで、根掘り葉掘り聞かずともいい。


そんな気がした


からかいはするけど


十条君は、今まで知る限りでは、クラスメイトとあまり関わろうとせず無表情キャラで、接点もないし大人しいとか少し冷めてる男子ってイメージだったけど

今日初めてまともに接して3人になると、ちゃんとした印象を受ける男の子で、あたしは少し安心した

学校の無表情キャラと違って愛嬌もあるし、柔らかい物腰だし良かった


不安定な桜が急接近したってことはなにかしら彼にもあるのかもしれないだろうけど、そこはあまり詮索し過ぎず、桜の笑顔を願いたい


少し寂しい気もするけど




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