第13話 スピッター射撃術
小梅の左腕にマウントされたスピッターに差し込まれた連合労民バグモタ乗り専用の
≪ボンッ!≫
煙を吐いて飛んでくるクラック弾の弾道が、今度ははっきり見えた。見えたはいいが避ける間もなく小梅の脇にしたたかダメージを被った。衝撃に揺れる視界でウメコは、切れ間の中のその弾道が跡を引いてまだ残っているのを見た。
『右脇下被弾、外装ニ損傷、右腕駆動系統ハ・・・異常ナシ』
「チキショー!!」しかしウメコが毒づいて睨んだバイザー内トラビに映るバッタ型は、紛れゆく弾道の煙の向こうで動きを止めた。こちらの意図を読んで深追いはせずと決めたか、さらに狙いを定めて確実に仕留めにくるつもりか、不気味ではあったものの、ウメコはもうどうでもよかった。小梅を虫霧の中へ駈け込ませなくても、スピッターの充分な射程距離まで来ていたのだ。
向こうが止まっているなら好都合だ。
相手に撃たれるより早く、ウメコはスピッターのバグラブを、シュートモードで10m先の虫霧に向けて射出した。
シューーーーッ!!と音が聞こえる間もなく、それをかき消すほどの虫の群れが、たちまち唸りをあげてスピッターからのバグラブの射出を逆上って一直線に向かってくる!ウメコはそれを目で確認するまでもなく、操縦桿の感触からの当て勘で掴むと、小梅に取りつく隙も与えないほど素早くスピッターをバッタ型の方へ向け、射出力を最大にした。するとバグラブで釣られた虫の大群は、強力バグラブもろとも、バッタ型に熱狂するように喰らいついていった。
その間にバッタ型がボンボンと縦続けに放ってきたクラック弾を、小梅は踏ん張った姿勢で受け、被弾の衝撃に持ちこたえていた。
ウメコはスピッターをバッタ型の肩へ向けて集中的に噴き付け、それから胴体をジグザグに下って足の膝関節周りを充分狙って射出した。バグラブの強力な誘虫フェロモンに憑りつかれた虫どもは、もうスピッターの誘導もいらずに、バッタ型に備えられた防虫効果などまるで無視して、虫霧の中から行列をつくってやって来た。とりついた雑甲虫はバッタ型の関節やボディのあちこちでバグラブの効果に悶絶し、次々に破裂していった。動きを封じられたバッタ型は、ミシミシと鈍い音を発しながら、棒立ちのまま仰向けに倒れていった。
「ざまあみやがれ!一丁あがり!」ウメコはバイザーを上げ、手を叩いた。「どうだい小梅、今日の成果は!」
『月間優秀労、間違イナシ!ゴ褒美ハ高クラック虫!』
今日の成果といったら、「高クラック虫の捕虫」、逃がしたとはいえ「
「神妙にしなさいよ!」ウメコは外部スピーカーで声を張り上げた。「フン、もう動けないか。逃げ出したら直にバグラブ噴きつけてやるからね!バグラーをなめんなよ!」
ホッとしてスピーカーのスイッチを切ったとき、再び無登録バグモタの発見を告げるアラートがけたたましく鳴った!レーダーには赤い点滅が二つ、あらてのクラックウォーカー二機がまたも唐突に小梅に接近していた。ウメコは声を奪われたかのような息を漏らした。「クソっ!」
『圧倒的ニ不利デス。れんじゃーハ間ニアイマセン。逃ゲルガ勝チダヨ、ウメコサン』
小梅はウメコの頭を冷ますつもりらしい。たったいま非合法バグモタを倒し、ウメコは高揚していた。小梅に声を掛けられなければ、戦う覚悟を決めるところだった。まだバグラブは一缶使い切っていないし、第2ソケットの分も丸々残っている。やってやれないことはなさそうだった。けどさすがに二機を相手に立ち回るのは、いくらなんでも無謀というものだ。非合法バグモタがクラック銃を同時に放ってきたら、さしものウメコもひとたまりもない。ましてこんな切れ間だ。ウメコはやっぱり撤退を決めた。
「仕方ない、さっさと退避だ!」
地面に崩折れたバッタ型バグモタからは、揮発し始めたバグラブの効果も薄れ、酔いから醒めたように、
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