19話.迷いの決断
「フィ~やれやれ……。どうやらこの術【
そう悪態を吐きつつ、術は未だ解かずにいるエンリコ。
なぜならば輪廻回生を果たすこの者を相手するには、やはり“洗脳”する事が自分が有する手駒の最善手に違いないからだ。
しかも一瞬ではあったが、洗脳下に置けそうな感触はあった。
「この術にはまだ何か……絡繰りがある様じゃ」
手で顎をさすりながらウロボロスを見つめるエンリコ。
対してウロボロスも、ほぅ、とエンリコを見ていた。
「大した再生能力だな、面白い奴だ」
「不死の主に言われとう無いわ! 早くこの術にかかれば良いものを」
「お前は俺を洗脳し、どうしたいのだ?」
それはエンリコの命運を分ける問いかけだった。
(実力では無理、ではどう油断を引かせる?……いやそうではない、もっと良い方法がある!)
「そうじゃな……お主は戦闘が好きなのじゃろう? ならばたくさん戦って貰おうか」
「ほぅ、お前はこの地を支配したいのか?」
「馬鹿な、ここには何の魅力も持っとらんわい。主にはあちらの世界で活躍して貰う」
「あちらの世界? どこだそれは。この地は閉じた空間、そもそもお前達はどこから来た? 見た感じ
エンリコの口角が鋭く吊り上がる。
「約束しよう! 主を儂らの世界へ引き連れ、そこで思う存分暴れさせてやるぞ!」
エンリコの眼は爛々と妖しげな紅い光を放っていた。
エンリコが閃いた手段、それは『同意』。
ウロボロスの邪気は自分を遥かに上回り、それでいて自分を殺すのに容赦ない。
そこに強者の奢りの陰に潜む油断を招くのは難しいと考えていた。
ではなぜ一瞬ウロボロスを洗脳下に置けそうだったのか。
エンリコが辿り着いた答えは“自ら受け入れようとしたから”であった。
それはほんの一瞬だけ、奢りが招いた結果だったかもしれない。
だがそれをまた期待するには命が足りない。
だからそう誘導する事を思いついたのだ。
◇
ウロボロスは考えていた――それも面白そうだなと。
(コイツやさっき戦ったあの女は、元々この地に住んでいた者ではない)
ウロボロスは散々この地を巡ったつもりだったが、どこかに自分の知らない異世界へ通じる秘密の抜け道があるという事だ。
(そこには強い奴がたくさんいるかもしれんな?
現にコイツ等はなかなかの強者だ。
なんなら、洗脳されてからそれを解く方法について色々試す事も出来よう。
クックック……それも一興か)
「良かろう!」
ウロボロスが返事をすると、其れの意識はぼぅと宙に浮いた感じになった。
◇
カタリーナの目前に歩み寄るウロボロス。
どうやらこの邪竜も操られたか、そうカタリーナは悟った。
傍の闇から声が聞こえてきた。
「カタリーナ様、提案がございます。私と共にヴァラキアへ参りませんか? 乗り物も手に入れました。あちらであなたのお母上“カラボス様”もお帰りを首を長くして待っておられる事でしょう」
カタリーナの全身を雷に打たれた様な衝撃が走る。
神父が発した言葉、それは母カーラの体を乗っ取ったあの化け物の名だったからだ。しかし疑問もあった。
「なぜお前は、私の母がカラボスだと言うのだ?」
「はは! そうですな。これでも私は元はブダベズドに赴任した敬虔な神父でしてな……」
エンリコが語る衝撃の事実!
それはとある人物の『告解』であった。
悪魔を封印したという。
それは悪魔の力を封じる為と、自分の妹を救う為だった。
妹の名は“カーラ”。
ところが封印術を施し元気になると、妹は国を飛び出し行方知らずになった。
幸い最近は手紙が送られており、結婚し3人の子供まで授かり幸せだという。
その娘の名は“カタリーナ”。
その告解をした人物、それはヴァラキア公国の国主<アクラ=ヴラド> だという!
「さて……ここから先は単なる儂の推測に過ぎませぬ。なんといっても一番の
エンリコの説明は、カタリーナには筋が通っている様に思えた。
――カタリーナは人間とヴァンパイア両方の血を引いているので、昼間も活動が出来ているとエンリコは推測し述べた。
……自分がヴァンパイアとの混血?! しかし先程キースを助けたあの闇の中での体の変化にはその可能性を否めないカタリーナ。
――だからカタリーナは、どういう手段か判らぬが、カラボスが人間との間にもうけた子供なのだろうとエンリコは推測し述べた。
……母の体にカラボスが封印されていた事は確か。それが関係しているのかも、そうカタリーナは感じていた。
――そして復活したカラボスは、きっとアクラへの復讐にヴァラキアへ戻る、そうエンリコは確信していた。
……カタリーナは母の出身がヴァラキアであると聞いていた。だからその話も信憑性がある様に聞こえた。
母を助け出す事、それはカタリーナにとってとても大事な事。
しかもこの神父が言うには、アクラ=ヴラドこそが、カラボスを封印し母を助ける事が出来る人物なのだ。
ならば、ここは神父の言う通り皆とは一旦ここで別れ、一緒にヴァラキアに向かった方が、お互いの為になるのではないか?
その時、カタリーナ、エンリコ、そしてウロボロスの3人は、大きな気配を感じ空を見上げた。
見ると巨大な影がゆっくりと彼らの前に舞い降りる。
堂々たる勇姿、みなぎる闘気に身を包みそれは静かに語りだした。
「我が名は、
そう問われたカタリーナは暫し考えると首を振って答えた。
「いや違う。私はカタリーナ」
「……そうか。スティープの仲間達より言伝がある。お前を必ず助けに行くと」
「そうか、ならばこう伝えるが良い」
カタリーナは、その辺に焼け残った邪竜の亡骸に向け大剣を振るい、その爪を切り落とす。そして神父に操られたウロボロスより
「スティープはもう居ない。代わりにこの爪と珠を渡すが良い。スティープが最後の力を振り絞り手にした置き土産だと。私はこの者とここを去る。もうこれ以上お前達やこの世界に迷惑をかけるつもりは無い。静かに見守るが良い」
(これでいい……)
カタリーナは自分でも自信が無かったのだ。
身に起きた大きな変化、この強大な力を制御出来るかどうか、何がきっかけで皆に危害が及ぶか判らない。これ以上迷惑はかけられない! と。
(UPのミッションも、オジキのミッションもこれで達成。
あとは私がここを去れば皆にとって万々歳だ、これで良い……)
心の中でそう自分に言い聞かせ、ウロボロスと神父の方へとゆっくり歩み出すカタリーナ。
その時である。
「スティープーーッ!! このっ大馬鹿野郎がーーっ!! お前は、とんだ勘違いをしているぜっ!!」
聞こえてきたのはキャサリンに乗って猛スピードでこちらに向かってくるキースの怒号であった。
(続く)
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