32話.旅立ち?

 家に着いた俺はルビスと会ったさっきまでの事を思い返していた。


 なぜあんな事になったんだろう、いや、どう考えても“たまたま”だ。

 厄日だった、そうに違いない!

 それにしても……。


 柔らかかったなー。


 ポケーッとしながら思い出す。

 何とも言えないあの柔らかな感触……はっ! いかんいかんっ!

 変態じゃあないかこれじゃ!

 よしっ! 腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回始めるぜ!


 筋トレで雑念を振り払おうと俺はそれに精を出した。

 漸く筋トレメニューを終え心地良い汗を流し一息つくと、止まった筈の鼻血がまた流れ出した。少し頑張り過ぎたか。


 そう言えば……。


 俺は思い出していた。

 あの時ルビスが放った平手打ち、なぜ俺はあれを避けれなかったのか?


 俺は小さい頃から東の森や南の草原で竜やバジリスク相手に追っかけ回して遊んでた。もちろん向こうは俺と遊ぶ気など無い。毒の牙や、鋭い爪、長い尻尾を容赦なく突きつけてきた。そんな攻撃を俺はサッと避けたり、カウンターでちょいと攻撃かまして遊んでいたのだ。


 なんでそんな事が出来たかって?

 なんと言えば良いか……初めは空気を感じてる、と思った。

 相手のちょっとした動きで伝わって来た空気の振動、それを感じ相手の行動を察知、次に来る攻撃を躱す。


 次第にそれは精度を増していき、相手の息遣い、体のどこに力を入れているか、相手の力量、空気じゃない相手の体から発せられる何かもやっとした物を感じとり、もっと正確な動きが読み取れる様になってきたんだ。


 お陰で俺は相手の動きをかなりセンシティブに察知する事が出来た。

 そこへ戦いの経験を経て蓄積したそいつの攻撃のくせ、パターン、リズム。

 似た様な体の構造をしているなら初めての相手でもタイプ別に攻撃範囲や弱点も推察できる様になったのさ。


 そう、今の俺の俊敏性とその洞察力を以ってすればあの子の平手打ちなど簡単に避けれた筈だ。

 ひょっとすると相手の攻撃を喰らったのはこれが初めてかもしれないな。


「ふむ……これは少し検証してみる価値があるかもな」


 俺は、試しに確かめる事にした。


 

 村の学校へ向かう途中、丁度いい相手が向こうからやってきた。

 クラスの学級委員長、性格は勝ち気で高飛車、お嬢様。

 真っ赤で立派な角が生えているし、案外攻撃力は高そうだ。

 それに……よく見ると胸もデカいな。


「よぉ! ローズアンナ、元気か? 今日も学校は変わりねぇかよ」

「む、ロギー。お主、今日は学校に来てなかったのう。サボりか?」

「いや東の森で修行だぜ。ところでルビスって新入生の女の子は来たか?」

「いや、来ておらぬぞ。なんじゃそいつは?」

「森で出会ったのさ、同じ位の年に見えたな。てっきり新入生だと思ったぜ」

「ふむ、もしそうなら楽しみじゃのう!」


 よし、アンナは完全に油断しているな……いくぜ!


 気配を殺しスゥっと近づき俺はそっと手を伸ばした。


ガシッ!


 なに??


「何の企みじゃ? ロギー」


 俺は完全に手首を掴まれ更に捻られて動けない状態だった。


「わ、わりぃ……悪意はねぇ、離してくれ!」


 漸く手首を離してくれた、おぉー痛え。しかし……、


「何で判った?」


「お主なぁー、欲望と言う名の雑念がメラメラしておったぞ。それでは渓谷に住む女性なら皆警戒するわ」


 

 相手がこちらの行動パターンを先読みするなんて初めての経験だ!

 こいつは良い修行になる。


「サンキュー、ローズアンナ! お陰で、この修行で何か掴めそうだぜ!」

「……大丈夫か? お主」


 大丈夫って俺の手首の事か?

 こんなもんは大したことはねぇ。


 俺は手当たり次第に女の子に声をかけてはトライした。


「よ! アリサ!」(ドゴッ!)

「レイファ元気か?」(バコッ!)

「おーいノーダ!」(ガスッ!)

「お!カイヤ(は止めておこう)」←「なぜ逃げる?」(ボカスカ!)

 

 や、ヤバい……俺の体が持たない。

 しかしこいつは想像以上に神経を使う難しいミッションだぜ!


 こうして俺はミッションを達成すべく来る日も来る日もチャレンジし続けた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 ロギーは気付いていなかった。

 それを修行だと本人は本気でやっているが、やってる事は只のエロ。 

 そして実はそれが彼の深層心理に本当に“エロ”を目覚めさせていた事を。


 そんな様子を心配してたのはルビスである。

 実は彼の行動をひっそりと離れから見ていたのだ。

 彼女は彼の行動を、“ひょっとしてあの日の事が原因では……”と感じていた。

 しかし初めての、そして唯一の友達が、真面目に「修行だ!」と言ってやってる事を鵜呑みにしていたのだ。


 後にロギーはルビスを除く渓谷内の女性全員の胸を触り且つ、相手の攻撃を全て躱すという“偉業”を達成する。

 彼がこの“修業”の中で磨き上げたもの、それは“闘気”であった。

 

 そもそも竜や竜人の血には、体に闘気を備える性質がある。

 しかしそれを更に増幅したり、使いこなすには鍛錬が欠かせない。

 ロギーはこの“胸タッチ”を通してエキスパートの域に達したのであった。


 そしてもうひとつ、彼はすっかり女性の体に触る事が快感になっていた。

 そう、変態の域もエキスパートに達していたのである。


 恐るべきエロの力。

 

 一方、ルビスはロギーの監視を強化したいという思いから【遠隔透視テレコスコープ】という恩寵カリシュの能力を会得する。

 その能力で監視を続けていたのだが、ロギーは偉業を達成後、更なる相手を求め渓谷からいつの間にか姿を消した。

 それ以来、ルビスはその能力で彼を視る事が出来なくなっていた。


 ルビスは、渓谷の女性達とも知り合い、対ロギー包囲網の監視役となった。

 彼女達と連絡のやり取りをする為に【遠隔会話テレコトーク】を会得し、多くの竜人女性達とコンタクトを取る様にもなった。


 しかし初めての大事な友達であるロギーをその道に導くきっかけを作り、またそれを止められなかった事に責任を感じていた。

 また、ロギーが居なくなったのは全ての渓谷内の竜人女性の反感を買い、自分の能力に拠る包囲網も厳しく居辛くなってしまったのだと勘違いをして、結局ロギーに対する贖罪の気持ちから、また渓谷内を一人、旅する事にしたのである。

 それ以来、ルビスは誰とも連絡を取っていない。



 時は過ぎ……


「ハックシュン!……少し冷えてきたかしら? ジェネシスドラゴンも居なくなって、ここも寂しくなる……。そう言えばアイツ今頃、どこで何してるのかしらね?」


 ハデス達の戦いも終わり、西の山でまた独り。

 旅にでも出ようかしら、そんな事を考えていたルビスであった。


 ふとロギーの事を頭に描くとぼんやりと景色が浮かび上がる。


 周りにはたくさんの人がいた。

 すると、映像は瞬足の動きで「壱、弐、参……」などと数えながら、そこに居合わせた女性の胸やお尻を順番に触り回っている。


「肆!」


ボゴッ!


「あ……」


プツン


 四人目の女性に触りかけたところでカウンターアッパーを喰らっていた。

 途端にその映像は途切れてしまう。


「これって……ロギーにかけた【遠隔透視テレコスコープ】? バハムートの結界が解けてまた繋がったのかしら……しっかしまだあんなバカな事し続けてると思うと心配ね。やっぱり私がしっかり見張らなきゃ!」


 ルビスは旅に出る決心がついた。

 


(エピソード_ルビスの友達 終わり)

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