第4章.振り子は止まらない
1話.UP!
洞窟のアジトにキトゥンは仲間を呼び集めた。
これから大事な話があるという。
「次のお宝はコイツだ!!」
自信たっぷりそう言って、彼女は一枚の紙を仲間達に回し見させた。
そこには手書きの“絵”が描かれていた。
ただ、私にはちょっと良く分からない絵だった。
例えるなら、とんがり帽のつばが無い形。
どうやら他の皆も良く分からない様子だ。
首を傾げたり隣とヒソヒソ相談し合ったりしてる。
「なんだ、これ? タケノコ狩りでもすんのかよぉw」
キースがひと際大きな声で、少しその絵を嘲笑う様にして聞いた。
「アホーーッ!!」
ボカッ!!
キトゥンの遠慮無いゲンコツがヒットする。
「痛ぇーーっ!」
「どっからどう見たってあれにしか見えないだろう? “竜の爪”だよ竜の爪! オレって絵の才能に溢れてるなぁー」
シーン……
一同、絶句した。
「(コホン)とにかくだ! 次の獲物はこいつ。オレ達はこれから暗黒大陸にあると言う噂の“竜の渓谷”に向かう! 難易度は文句なしのSだ。命の保証は出来ない。だから……」
暗黒大陸か……今の私にはピッタリじゃない!
何せあっちは異教の民が住む土地。
エウロペを離れ、追手から逃げるのに最適だ。
しかも、カイマンも飲んだ事の無いという竜涎香ワインにも出会えるかも~!
その上、伝説の生き物“ドラゴン”と巡り会えるだなんてまるで夢みたいな話だ。
それにしても、キトゥンはいつになく真剣だ。
その並みならぬ様子に皆、唾を飲み込み、黙って彼女の言葉を待っていた。
「だから……ここがお前達の分岐点だ! 今までお前ら、オレのチームで本当に良くやってくれた、ほんと感謝している。でも、今回だけは、一緒に来てくれって頭下げても言えねぇ。強制はしねぇし来てくれとも頼まねぇ、例えついて来なくても何も言わねぇ、てめえの命は一回きりだ! よーく考えて自分で決めるんだ!」
「ちょっと待ってくれ、頭ぁ。そいつにゃ一体どれ程の価値があるんだ? 俺達が命がけで手に入れる程のもんなのかよ。それが聞けなきゃ決めらんねーなー」
キースが問う。
最もだ。良い事聞くじゃない、こいつ。
「そうだな、じゃあスティープもいる事だしオレ達の組織についておさらいしながら今回の依頼について説明するか。オレたちの組織名は『ユーサルペイシャンヌ』、略して
強欲で理不尽な金持ちだけを襲い、その金品を貧しい家庭に配り渡るという。セビーヤ近辺でも報告が上がっており父やアルル兄も警戒していた。
彼らの標的は、多くの庶民から評判が悪く、例え事件が起きたとしてもUPの所業は街の皆からは「よくやった!」と歓声が上がるほどだ。
まさか彼女達がその一味だったなんて……。
ただ、盗賊とは違うわよね?
これなら神様もお赦しになって下さるかしら。
「仕事の依頼はオレたちの長、“団長”が受けてくる。それでオレたちに指示を出すってわけだ。今回は珍しく依頼主の名も告げられた。それがポルトゥールの元王族マヌエル公だ!」
「けっ! それじゃあ何か? その金持ちの道楽の為に命かけろってーのか? これまで金持ちターゲットに義賊ぶってたのが聞いて呆れらぁっ!!」
キースが威勢よく啖呵を切った。
何人かの仲間達は珍しく、キースの言葉に首を縦に振っている。
「まぁ落ち着け! よく考えてもみろ、何のコネも無く元王族から突然オレたちの所に依頼が来ると思うか? オレはこれまでの仕事も実は全部マヌエル公の依頼だったと睨んでる」
「マジか?! 冗談だろ。大体なんでその元王族が義賊ぶった依頼するメリットあんだ? それにもしそれがそいつの依頼ってバレたらヤベーんじゃねぇの?」
「まあな、だからこれまでの仕事は依頼主が誰なのか秘密にしたんだろ。けどもう隠す必要も無くなってきたのさ」
一旦話を切り、樽の水を手で掬いながら飲むキトゥン。
それにしても、こういう時、上下関係とか気にせず自分の考えをスッと言えるキースの性格って便利よねー。
私はキースに感心して聞いていた。
「ところでな、竜の爪には不思議な力が備わっているって話だ。知ってるか? なんでも士気を高めたり、戦闘能力を高める事が出来るらしい」
竜の爪――しばしば歴史でその名は登場する。
その爪を切り分けた小片をペンダントにして身に付けたり、粉状にして飲むとその者に不思議な力が備わると専ら噂されているものだ。
それってなんだか……“闘気”のことかしらね?
「おっと、マヌエル公は戦争でもおっぱじめようってのか? けどポルトゥールは今や共和制。元王族の権力なんて残っちゃねえだろ?」
「それが最近、王政復古の声が高まりつつあるのさ。例の探検書『レコーデ レスト』の出版以来、各国は更なる利益を求めて海洋貿易に力を入れ始めた。当然、商船を狙う海賊や私掠船も出始めた。それでポルトゥールの商船団はどうしたと思う?」
「そりゃー護衛船でも付けんだろーが、普通」
「そうだ。しかし各商船を率いるのはあの“腐れ貴族”。欲が渦巻いて数少ない公共の護衛船の奪い合いになり、まとまりがつかない。そんな状況に多くの庶民が“これはいかん!”と感じ始めたそうだ」
「しょーもねぇーなぁ」
「あぁ、金持ちの身勝手に付き合ってらんなくなったのさ。だから庶民は、やっぱりこの国をしっかりまとめる人物が必要って考えるようになった」
「それで元王族に、もう一度戻ってきて下さいってか」
「だが事はそう簡単じゃない。せっかく手に入れた利権を失いたくないわけだからな、あの“腐れ貴族”どもは!」
「ははーん……読めてきたぜぇ。金持ちの腐れ貴族とマヌエル公を立てたい庶民との対立ってわけか」
成る程、確かにそれならマヌエル公が秘密裏にUPを使って腐れ貴族達へ襲撃をかけるのも合点がいく。
「そこへな、マヌエル公の娘カスティーリャとエスパニル国王息子のアラゴンの結婚話が持ち上がったのさ」
「おいおいおい、そりゃースゴイ話だな! って事は何、ポルトゥールはエスパニルと合併しちゃうってわけ?」
「そういう見通しが出てきたって事さ。しかも! そうなりゃマヌエル公の依頼をこれまで受けてきたオレ達はひょっとすると……」
「ひょっとするじゃねぇかっ!! 王国直属の何かになっちゃう? なっちゃうってか! よーしやっちゃうよー俺、本気出しちゃうよー!」
これは凄い話になってきた。
確かに、王政が復帰しそのタイミングでエスパニル王子との結婚に運べばこれはもう統一国家の誕生だ。エウロペ随一の強大な国家になる事だろう。
「とにかく、その話がうまくいく為にもこの“竜の爪”が必要ってわけ。もちろんオレら組織の出世もかかってる。それだけ責任重大な任務だって事は話しておく」
「やるぜやるぜやるぜー! おい、お前らももちろん、やるんだろ?! まぁやんなくたっていいや、その分俺が手柄を上げるチャンスが上がるんだしなー!」
どうしてキースには、こう言うところがあるのだろう。
単なる向こう見ずなバカな性格からくるのか、それとも実は先見性に富んだギャンブラー性からか……いや、それは無い、自分に賭けて大損したバカだし。
その挑発的な態度と意見にさすがに堪りかねたのか、他の仲間たちからも次々と声が飛び交った。
「言ってくれるなバカ野郎! てめぇなんかにそんな大きな手柄を渡してやるかよ」
「そうよ! こんな奴に舐められちゃ、一生俺のプライドが傷付いて立ち直れねぇや」
「行きますぜ、キトゥンさん! 俺達の絆はそんなに“やわ”じゃねぇ! 」
最初はキースへの罵倒だったのが、いつしか、皆の心は一つにまとまっていた。
ひょっとして彼は……、キースはこうなる事を狙って言ったのだろうか?
キースは大声で言った。
「キトゥンの頭ぁ! その竜の爪、俺達で絶対手に入れてやりましょうぜーっ!」
「「「おぉーーーっ!!」」」
「お前ら……ありがとう」
うつむくキトゥンの目から光るものが垂れ落ちた。
袖で素早く拭き取ると顔を上げて元気よく
「いよーしっ! それじゃあこれからオレたちは “暗黒大陸”へ向かう!まずは約束の街で<ミスティ>姉貴と合流だ!」
(続く)
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