水の龍神と風の龍神

目の前の靄が晴れると,龍が2頭,雲の上に座っているのが見えた。体重が重いはずなのに,龍も,自分も,軽々と雲の上に乗り,立っていた。風太は,自分が雲の上に立てているのが不思議で,たまらなかった。


「あなたたちは,どの龍神ですか?」

風太が自ら龍に話しかけた。


「私は,風の龍神じゃよ。風を吹かせ,嵐を起こすことが出来るんじゃ。風向きや風量を調節することで,天気も,操れる訳じゃ。」

銀色の龍が先に答えた。


「私は,水の龍神よ。雨を降らせ,海の満ち潮を制御するの。川を氾濫させたり,津波を起こしたりするようなことも,出来るわよ。」

水色の綺麗な龍が次に答えた。


「そうですか。どうしてその力を選んだのですか?」

風太が尋ねた。


「貢献できるからじゃ。風を吹かせば、雲に刺激を与え,雲が動けば,天気が変わるんじゃ。そう言う風に,周りに刺激を与えることで,自分にも刺激を与えることが出来るんじゃのう。」

銀色の風の龍神が答えた。


「私も,同じだね。雨を降らせば,土壌に栄養が行き渡り,植物がぐんぐんと伸びるし,海の満ち潮なしでは,存在出来ない生き物がたくさんいるから,その生き物たちの生態系を作り,守っているとさえ,言えるわね。そうして,世の中に貢献し,貢献した分だけ,自分に返ってくるというのは,魅力だね。」

水色の龍神が語った。


「自分に返ってくるとは,どういうことですか?」

風太には,よくわからなかった。


「それは,自分の存在が,今の自然や秩序に守られ,その上に成り立っているのだから,その維持や改善に貢献することで,自分も守られるということだよね。」

水色の龍神が優しく説明してくれた。


「あなたは?あなたには,何が出来る?」

銀色の龍神が風太の目を真っ直ぐに見て,尋ねた。


「僕は…まだわかりません。空が好きですが,どうしたら,それが人に役立てるのか,わかりません。」

風太がはにかんで言った。


「そうか。空が好きなんだ。じゃ,今から,あなたに一つプレゼントをするわね。」

水色の龍神が目を輝かせて,言った。


「私の背中に乗ってね。」

水の龍神が風太の近くまで来て,自分の背中に乗るように合図した。


「なんで?」

風太は,ためらった。龍神との会話には慣れて来たものの,まだ触れるのは抵抗はあった。


「あなたの大好きな空を見せてあげるわよ。一緒に雨を降らせましょう!」

水の龍神が息を弾ませて言った。


風太は,子供の頃の夢を思い出し,ドキドキしながら,龍神の背中によじ登った。周りに不可能だと笑われて来た夢,自分でも無理だと諦めていた夢,その夢が,今叶うのだ!


「しっかり掴まっていてね。」

水の龍神が飛び立つ時に,風太に忠告した。


水の龍神は,雲の上から飛び立ち青い空の中へと駆け上がった。風の龍神も,ついて来た。


風の龍神が雲に息を吹きかけると,雲が動き出し,空がどんどん暗くなる。どこから引 呼び寄せて来たのか,暗い雨雲が近くまで来ると,水の龍神が,空の中を楽しそうに舞い回り始めた。


水の龍神が体をくねらせると,雨雲の中から水の雫が,爆発したかのように,どんどんと漏れ出て,雨となり,地面に向かって落ちていく。水の龍神の体の動きが激しくなればなるほど,雨の降り方も強くなる。


風太は,必死で龍の背中にしがみつき,目の前の光景に感激した。


やっぱり,空が好きだったのだ。やっぱり,こうして,空を飛び,花を摘めば手の中で持ち,近くで見られるように,間近で,大好きな空が見て見たかったのだ。風太は,自分の夢を叶えると同時に,自分の中で自分の夢を再確認出来たのだった。


すると,水の龍神が地面に降り立ち,風太を降ろしてあげた。


「本当に,ありがとう。」

風太は,涙ぐんで言った。


「いえいえ。あなたの感動した顔を見て,私も,元気をもらったよ。こちらこそ,ありがとう。」

水の龍神が頭を下げて言った。


「きっと,あなたは,一番強い龍神ですね。」

風太が勝手に断定した。


「いえいえ,そんなことないよ。だって,雨を降らせ,土に刺激を与えても,植物を生やしたり,花を咲かせたりするのは,土の龍神だから。」

水の龍神が首を横に振りながら,言った。


すると,目の前の景色がまたガラッと変わり始めた。雨を出し切った雲の浮かぶ空と広い草原は,ぐるぐると回り,消えて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る