服部社長
翌朝,雄二は早起きして,初めての出勤の支度をした。内定をもらったのは,小さな広告会社だった。雄二は,広告業界についての知識は乏しく,自信がなかったが,内定をもらったからには,頑張ろうと意気込んでいた。
会社に到着すると,面接をしてくれた人がすぐに出迎えてくれた。山崎さんという中年男性だ。会社は,女性社長が法学部で身に付けた法律の知識を活かし,自分で立ち上げたものらしいが,採否の判断も含め,人事のことは,全部山崎さんに任せているそうだ。
「では,早速,社長に挨拶をしてもらいますね。大きな会社は,下っ端の人と社長が交わることはあまりないと思いますが,うちは,小さなところなので,下っ端への指示や指導も,ほとんど社長自身が行います。」
山崎さんが雄二を案内しながら,説明した。
「社長に気に入られた方が仕事がスムーズに行くということですよね?」
雄二が確認した。
「まあ,そういうことです…嫌われると,大変ですよ。」
山崎さんが苦笑いをした。
「では,こちらです。」
山崎さんがそういうと,社長室のドアを開けた。
雄二は,社長の顔を見て,唖然とした。昨夜,うっかり「綺麗だ。」と弘樹と話しているのを聞かれてしまって,怒鳴られた女性だった。
女性社長も,二人が部屋に入って来ると,すぐに挨拶をしようと立ち上がったが,雄二の顔を見ると,目を丸くし,驚いた表情をした。
「先日は,大変失礼致しました。」
雄二が自分から先に謝った方が印象がいいと思い,慌てて頭を下げた。
「え?お知り合いでしたか?」
山崎さんが女性社長と雄二の顔を見比べて,尋ねた。
「いいえ。」
女性社長が気を取り直して,雄二がドギマギしている隙に,山崎さんの疑問を否定した。
「服部社長,今日からお世話になる岡田雄二です。」
山崎さんは,社長の態度から,それ以上追求しない方がいいことを察し,雄二を紹介した。
「よろしくお願いします。」
服部社長が氷のように冷たい声で,雄二に頭を軽く下げ,挨拶をした。
「こちらこそ,よろしくお願い致します。」
雄二が頭をこれ以上下がらないくらい,頭を深く下げて,お辞儀をした。
「山崎さん,失礼ですが,何故この方を?」
服部社長が雄二の様子を一瞥してから,山崎さんに注目を向けて,尋ねた。
「え?…新しい風を吹かせてくれそうな方だと思ったからです。」
山崎さんが虚をつかれて,少し戸惑いながら,答えた。
「そうですか…。」
服部社長は,腑に落ちない様子だった。
「何か,不満な点でも?」
山崎さんが社長の様子の異変に困惑し,訊いた。
「いいえ。」
服部社長がまた冷たく答えた。
「あの…一生懸命頑張りますので…!!」
雄二が社長の機嫌を取ろうと,もう一度深くお辞儀をした。
「はい,頑張ってください。不真面目な言動は,許しませんので。」
服部社長がよそよそしい態度を崩さずに,言ってから,また山崎さんの方を向き直った。
「早速,働いてもらいましょう。」
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