願い
三浦航
願い
私は今、願いを叶えることができる。
私の目の前に死神が現れた。上下黒いスーツで、どこか生気がない。顔は形容しがたく、明日を迎えることができたなら忘れてしまいそうだ。
死神が現れた理由は、私が寿命を迎えるためらしい。しかし私がまだ20代であることのお詫びのようなものとして、願いを3つまで叶えてくれるということだ。信じられないことが連続すると逆に信じることができてしまった。
1つ目の願いは昔の記憶を辿ることにした。初めてできた、というより最初で最後の彼女との思い出を体験するというのが1つ目の願いだ。
気が付くと今までいた場所と違うところにいた。私は大学3年生の頃に戻っていた。当時の姿の彼女が現れた。状況から察するに、初めて会った日だろう。どうやら死神の能力は本物らしい。私はいらぬちょっかいを出して初対面のイメージは最悪だったということを後から聞いた。私の所属する部活に入ってきた彼女は明るく活発で、その姿に惹かれ話したいと思った結果、ちょっかいを出してしまった。
景色が変わる。その日から数ヶ月後、部活以外で初めて会い、何人かで遊んだ。そこで私のことを見直してくれたらしく、仲良くなれた。
それからも景色が目まぐるしく変わった。初めて電話した日、初めて二人きりで会った日、付き合った日、初めて夜を共にした日、遠距離になった日、ふられた日。
私の就職の関係で彼女とは遠距離になった。そこで私は魔がさして浮気をしてしまった。数ヶ月前、それが彼女にばれてしまい、ふられたのだった。長い間付き合った、本当に大切な人だったのに。
その日を体験し終わると、私は現実に戻っていた。もう満足できた。幸せな気持ちと、罪悪感に苛まれ、もう死んでもいいと思えた。だが願いはあと2つ残っている。
私は彼女が幸せかどうか教えてほしい、それが2つ目の願いだと言った。一度愛した人には幸せでいてほしい。
死神は幸せとはいえないと言った。
願い方が悪かった。何故彼女が幸せでないのか気になった。しかしそれを知らなくても、最後の願いで叶えればいいと思った。
今彼女が望んでいることをしてあげてほしい、これが最後の願いだ、と言った。
わかった、死神が言った瞬間、私は死んだ。
願い 三浦航 @loy267
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