癒しの菓子 〜スイーツをいただきます〜

フジセ リツ

蜂蜜入りポップコーン 菊屋株式会社

「この報告書さあ、係長のとこの今出川が書いてるけど、ちゃんと、事実を書いてんの?日付も間違えてるし、もう一度、確認して、堀川係長が書き直してくれる?」


 北山課長は、手元の書類の束を私の胸元に押し付けた。


 ああ、課長は、機嫌が悪そうだ。さっき、所長に呼び出されてたから、きっと、実績について、小言を言われていたに違いない。所長も所長会議で、本社に上がっていたから、年末に向けてハッパをかけられたんだろう。


 堀川は自分のデスクに戻ると、デスクの上の付箋だらけの書類の束を眺めた。

 斜め向かいの今出川のデスクを見ると、当然、今出川はいない。


 今出川の奴は、ウイルス性疾患が蔓延している最中、緊急事態宣言が解除されるや、「ぼくは、家にじっとしてられないし、前から決まってたんで」と、沖縄の海へ行ってしまった。


 今出川が帰って来るのは、ええと、今日が金曜日だから、来週の水曜日か。


 この報告書だって、今出川が面倒から逃げていて、後輩の大宮に押し付けようとしていたところを、沢山の報告書のうち、一つだけでもさせようと書かせたのだ。


 今出川の顔は歪んで、嫌そうな顔をしてたっけ。


 堀川は報告書の束のページをめくると、結局、今出川の報告書だけに、付箋が17枚も貼ってあった。


 いつも、今出川に仕事をさせると、尻拭いをする羽目になって、手間ばっかりかかってしまう。


 こんなものは、早めに終わらせるに限る。今出川を待っていたら余計な時間がかかる。


 パソコンを立ち上げ、キーボードを叩き始めた。


「お先に失礼しまーす」

「お疲れさまー」と返したが、ふと、周りのデスクには誰もいないことに気がついた。


 課長もとうにいないし、大宮も午後6時にはいなかった。デスクで充電していたスマホの画面に目をやると、午後7時を過ぎていた。


 ウイルス性疾患が蔓延してから、終業時刻は、午後8時に完全退社と決まっていた。


 報告書も大体できたし、後は、プリンターで印刷するだけ。


 ただ、疲れた。疲れた。頭がクラクラする。


 印刷をする間、カップを手に取り、冷めたコーヒーをぐいっと一気に飲み干し、プリントアウトした報告書の点検をした。


 誤字もないし、いけそうだ。早く綴じちゃおう。


 堀川は作った報告書を書類の束の今出川の報告書と差し替えて綴じた。

 今出川の付箋だらけの報告書は、今出川のデスクか、大宮のデスクに置いてやろうかと、ふと、考えた。


 いや、いや、今の御時世、すぐ、パワハラ、パワハラと騒ぎ立てられるに違いないし、足を引っ張られるのは、御免だ。


 堀川は今出川の報告書を、そっと、自分のデスクの引き出しに閉まい、守衛に声を掛け、外に出た。


 家路を急いでいた。


 しかし、俺は頭がクラクラしている。今にも、ふらっと倒れてしまいそうだ。


 今、俺には糖分が圧倒的に足りていない。俺に必要なのは、そう、糖分だ!


 今日、俺は家に帰っても一人だ。妻も娘も、実家の家業の手伝いで明日の夕方まで帰ってこない。

 いない。


 そう!今日は、年に数回しか来ない俺の一人パーティ、一人チートデーなのだ!


 堀川は、自宅の最寄り駅で電車を降りると、スーパーへ飛び込み、物色を始める。


 よし、何から攻めようか、フルーツか、デザートか、はたまた、菓子パンもいいな。


 ちょっと寒いが、アイスクリームもいいだろう。アイスをこたつで食べるのはサイコーにいい。

 ひとまず、ここは、糖分摂取をグッと堪えて、惣菜を見るか。うん、このコロッケ、安っぽいところが実にいい。3個100円も実に魅力的だ。そして、ほんのり温かい。いいぞ。


 主食は、うん、普段なら絶対食

 べない、カップ麺だ。カップメーン、カップメーン!

 よし、これだ、これ、天ぷらそば、これは実にいい。カップ麺、いや、カップメーンの天ぷらは安っぽいのがいい。

 後のせ、サクサクはダメ、ほんっとにダメ!だしと天ぷらをジュクジュク、ヒタヒタにしてかぶりつくのが、正解!大正解!


 そして、お待ちかねの糖分、糖分、とう、ブンブン。デザートコーナーは、うーん、ピンとこねー、こねーぞな、もし。

 プリンが全然ないじゃん、ダメだ、こりゃ。


 フルーツは、酸っぱいし、ガツンとした甘さ、かりかりした歯ごたえ、そんなもーんないかしらー、ないかしら?


 あら、菓子コーナーにおっじゃましまっす。かり、かり、かり、かり、かりっかり。そんなもーんないかしら、ないかしらー。


 うん、このポップコーンて何?

 蜂の親子のパッケージ、可愛くって、よ、オホホホ。大きなコーンに、蜜がけっていいじゃない、いいっじゃない!

 高知県の海洋深層水使用って、あらっ、遠いところから、遠路はるばる、いらっしゃいませ、ご主人さま!これで今日は決まりね、帰りましょ。


 堀川は、家に着くや否や、洗面に掛けこみ、マスクを外し、手を洗い、うがいを素早く済ませ、瞬く間に、ジャージに着替え終わり、こたつの台に買い込んだものを鎮座させた。

 その姿は、堀川いわく、100メートルのオリンピック選手に引けを取らないものであった。


 俺は、腹減り、腹減り、腹っ減り。しかし、それ以上にー、ワタシハトウブンヲホッシテイマス。主食の後のデザート?それは王道過ぎます。


 糖分は正義!今日は、俺一人だ、俺の自由だ。誰も俺を止められない。


 糖分は正義!甘さは正義!


 蜂蜜入りポップコーンを眺めます。

 蜂の親子が笑っています。

 私も笑っています。ウフフフフ。

 作っているところはどこでしょか?

 高知県の菊屋ですね。ありがとう。


 早速ですが、いただきます。透明の袋を開きます。


 ピっと、袋を引っ張れば、簡単に開いて、ポップコーンとご対面。


 プーンと甘さが鼻をくすぐります。あら、いい感じ、いいじゃない。


 ポップコーンを一つ手にとって、眺めたるや、ジャイアントコーン。弾けたコーンより大ぶりね。


 口に入れれば、口に広がる甘さが脳を刺激する。


 口当りは、サクッ。甘ーい。


 もう、こうなれば、手づかみ、サクサク合戦よ!コーンを掴んで、サク、サク、サク、歯ごたえが堪らない。


 えーい、掴んで、サク、サク、サク。脳に甘さがガツンとくるわ。サクサクサク、サクサクサク、サクサクサク。


 気づけば、最後の一個、これは大事にゆっくりいただきます。

 パクっ、サクッ、甘ーい。甘さと噛み応え、溶けていくさまをじっくりと味わいました。


 最後にお待ちかね、袋の底の砂糖を口にダイレクトイン!


 ああ、最後のこれが一番、甘いです。うまいです。


 ありがとう、蜂蜜入りポップコーン、ありがとう菊屋さん。






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