マルコ

些事

第1話


マルコは、貧しかった。

それに、実の親も存在しなかった。


各地を転々として来た彼は、

その後、孤児として引き取られた。


だが、彼の扱いはほとんど召使いのようだった。


そこに、愛情はなかったのだ。


しかし、彼は懸命に働いた。

養父母からの愛情はなくとも、健気に働いた。


マルコがやってきた村は貧しく、

そのせいか、人々には、不満や不安の感情が渦巻いていた。


また、この辺境の村は、よそ者としてマルコに強くあたることもあったが、

彼は誠実だった。


村で困っているものがいれば、助けたし、厄介ごとが起これば、率先して引き受けた。


幾度となく、理不尽な目に彼はあった。


それでもマルコは懸命に、誠実に働き、

笑顔を絶やさなかった。


そんなマルコを見ていた村人たちも、

次第に彼の寛大さに触れ、その存在を認めていき、養父母もそれを認めざるおえなくなった。



そんなある日、

村に悪魔が現れた。



悪魔は唐突に皆を集めて、


この村で、いちばん清らかで純心で温かな心を持ったものを捧げれば、

私の力で村を豊かにしよう。

しかし、村でいちばん清らかでなかったものを捧げれば、私はこの村全ての魂をいただく。


夜が明けるまでに結論を出すように言うと、悪魔は一度姿を消した。


突然現れた悪魔の提案に、

人々は困惑したが、その誘いを断ろうといえるものはいなかった。

実際、何か手を打たなければならないほど、村はより貧しくなっていたのだ。


人々は話し合った。


純心なのは赤子ではないのか?

そこで村でいちばん小さな子を持つ親を皆が一斉に見つめた。


しかし、母親は、

この子は虫を見つけては殺して遊ぶような酷い子なのです。清らかな心は持っていないと否定した。

子を持つ親たちは同じくと、次々に自分達の子を生贄に捧げることを断った。


ならばと、年長者の者たちをあげる者もいたが、純心さや温かな心を持つ者とは誰も言えなかった。


すると、誰かが声を上げた。


『…マルコだ。』


皆はその名を聞いて、ぶつぶつとうわ言のようにその名を呟き始めた。


そうだ…。マルコだ…。

彼は、あの時助けてくれた…。

あいつは、よく働く…。

酷いことをしたのに、笑顔を絶やさなかった…。


皆は次々に、マルコの素晴らしさを語った。評決を取る前に、マルコの養父母に確認を取ったが、養父母も彼を、

村いちばんの働き者だと胸を張って答えた。




夜が明ける前、薄暗い中、

マルコは村人に呼び出された。



そして、待ち望んだように、悪魔が再び現れた。



この村いちばんの清らかで純心で温かな心を持つ者は…。




マルコである。




村人は皆口を揃えて答え、マルコを悪魔の前に差し出した。




悪魔は笑顔で応えた。




悪魔は契約に応じなければ、魂を得る事が出来ない。






…本当に貴方の仰る通りです。

何と人間は愚かか。

それにしても、恐ろしい限りですよ。

まさか、私を呼び出しておいて、

皆を喰わせる為に、最も良い者になろうとなさるとは。

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マルコ 些事 @sajidaiji

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