第14話

ルーシアの国につくと、辺りは騒然としていた。


「どうしたんですか?」

翔(かける)が通りすがりの人に聞くと、答えがあった。

「ミスティ王国から送られた猫が、死にそうなんだ」

「何だって!? 」

レイシアが慌てて問いただした。


「俺は何も知らねえよ、冒険者なら冒険者の館で聞いてこいよ」

通りすがりの人はそう言って、去って行った。

レイシアは呆然と立ち尽くしていた。

「レイシアさん、猫一匹で何でそんな大騒ぎになるんですか? 」

翔はレイシアに訊ねた。


「ミスティ王国の猫だぞ? ミスティ王国に買われている猫は一匹で王宮一つ買えるほど高級で珍しいんだ。」

レイシアはそう言いながら、冒険者の館を探し始めた。

「へぇ」

翔はよく分からなかったが、その猫が死にそうだということは大事なのだとぼんやり思った。

二人は街の中央付近で冒険者の館を見つけた。

やはり、古い建物で冒険者たちがあふれていた。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」

ここの館の主は、若い女性で名前はアニスと言った。

「アニスさん、ミスティ王国から送られた猫が死にそうって本当ですか? 」

レイシアが真面目な顔で訊ねた。

「ああ、本当だよ」


アニスはそう言うと、手前においてあったチラシを見せた。

「猫、毒殺容疑者を捕まえたら5万ギル」

レイシアはため息をついた。


「もしかして、ミシェルの仕業かも知れない」

翔はレイシアの様子を見守った。

「今は、ミスティ王国から苦情が届いている状況ね」

アニスはそう言ってから、チラシを元の場所に戻した。

「猫を使って、ルーシア王国に難癖をつけようとしているのか」

レイシアは首を振ってもう一度ため息をついた。


「あなた、ミスティ王国のレイシア王女じゃない? 」

アニスが思いついたように言った。

「はい、そうですが・・・・・・ 」

レイシアは気まずそうに答えた。

「国、追い出されちゃったらしいね」

そう言ってアニスはレイシアに水を出した。


「この件も、ミシェル王女の陰謀? 戦争を仕掛けたいだけだって話もでてるけど」

アニスはそう言って、興味深そうにレイシアのことをじっと見た。

レイシアは力なくうなだれた。

翔はその一方で、依頼の一覧を眺めていた。


「レイシアさん、コカトリスの卵収集って依頼が良いんじゃ無いですか? 」

翔がそう言うとレイシアは手で会話を遮った。

「翔、悪い、今大事な話をしていたんだ」


「あら、お目が高いわね」

アニスは翔にそう言った。

「これなら何とかなりそうだ」

翔はそう言って、チラシを手に取った。


「猫の具合は? 」

レイシアはアニスに聞いた。

「毒は中和剤で緩和されて、大分落ち着いたらしいわよ」

「死にはしなかったんだ、よかった」

レイシアは安堵のため息をついた。


「猫ってそんなにすごいの? 」

翔は無邪気にレイシアに質問すると、代わりにアニスが答えた。

「ミスティ王国でしか繁殖しない、とっても珍しいオッドアイの美しい猫よ」

そう言って、アニスは続けた。

「ミスティ王国で結婚式があって、そのお祝いで送られたんですって」


「とりあえず、生きてて良かった」

アニスがレイシアの言葉に反応した。

「でも、ミスティ王国のミシェル王女の怒りはすごいみたいよ」

「ポーズだろう」

レイシアはそう言って、水を飲み干した。


「レイシアさん、コカトリスの卵取りに行きましょうよ」

翔が言う。

「ああ、翔、悪かったな。 そうだな、この依頼を受けようか」

レイシアは答えた。

「一応言っておくけど、この国は今、ミスティ王国のこと、悪く受け止めてるから」

アニスは申し訳なさそうに言った。

「今は、レイシア王女って秘密にしておいた方が良いと思うわ」

「ああ、ありがとう、アニスさん」

そういってレイシアは頭を下げた。


翔とレイシアは、コカトリスの卵を取りに、街を後にした。

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