第3話 起床
「うーん。」
「あっ、起きたみたい。」
「大丈夫?」
男は真っすぐと前を見ていた。どこか上の空な様子で、何かを感じ取っていた。
「俺は・・・ダンジョンマスターなのか。」
「やった、うまくいったみたい。」
(俺は、どうやらダンジョンマスターとして召喚されてきたらしい。もともとの名前はサトウ・・・のような感じだった気がする。ダンジョンマスターって、あれだよな?なんか洞窟作って冒険者誘い込んで倒してレベルアップみたいな、まるでアリジゴクじゃないか。)
「何をやればいいか、私たちにはわかんないから、全部お任せするねー。」
「うんうん。」
「安心したら疲れちゃった。寝る。」
(俺はそんなことはしないぞ!隠れて、隠れて、適当にこの世界を謳歌するぞ!どうやらこの三人組は、ダンジョンがどういう場所なのか詳しいことはよく知らないらしいし、何とかなるだろう。それにしても、こいつら、どう見ても子どもにしか見えないが、俺の頭が言っている。こいつらはダンジョンコアなんだと、つまり、俺の心臓なんだと。)
「私も眠くなっちゃった。」
「私もー。おやすみー。」
「ぐぅぐぅ。」
(やっぱり子どもにしか見えない。さて、これからどうするべきなのか。そもそも、このダンジョンはどうやって運営すればいいのか、くぅ、肝心な情報が頭に靄がかかってわからん。)
「とりあえず、入り口を隠すか。そうすれば見つからないはず。」
(出来立てのダンジョンは冒険者にとって絶好の狩場らしい。俺の頭が教えてくれた。だが、何を狩りに来るのか、そこまでは靄がかかってわからなかった。まったく、実に中途半端だ。)
男はダンジョンの外へ出るため、扉を開けて通路を進んだ。
(なんか安心感があるな。やっぱり、俺がダンジョンマスターだからなんだろうか。)
「あー。」
(声も結構響くな。歌うと楽しそうだ。)
男は歩き続けていたが、出口まであと少しのところで歩みを止めてしまった。
「ゼェ、ゼェ、ふぅ。」
(それにしても、出口までが遠い。俺って、スタミナなさすぎ。十キロは歩いたんじゃないか?)
男が召喚された部屋から出口まではおよそ五キロの距離がある。出口まではあと二百メートルほどだが、男は立ち上がろうとしなかった。
(正直、十キロ程度でこんなに疲れるとは思わなかった。もしかして、召喚の影響だったりするのか?)
「俺は、俺は負けんぞ。あがいてやる。」
再び立ち上がった。もう歩みに迷いはない。
そして、地上へと。
(なんてことだ。)
ダンジョンの出入り口はまるで広場のようになっていた。そこだけ草の丈が短くなっていた。生えているのは草ばかりではなく、所々で花も咲いていた。少し歩いたところには小さな泉があって、水面に森の木々が反射していた。
「綺麗だ・・・」
男は今年で19歳である。これまでの人生で様々なところを見て回り、それなりに美しい場所にも行っていた。だが、今日見た景色よりも綺麗な場所は、見たことがなかった。
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