忍びであったが、現代に転生してしまい、仕方がないので、スイーツを楽しむこととします。
フジセ リツ
転生してしまった。宇治の甘味を楽しみます。
北風の才造は、宇治橋へ急いでいた。
はずだった。
たしかに、ひとり走っていたのだ。
あと少しで、宇治橋に着くところだった。
すると、突然、空に黒い穴が空いたのだ。黒い穴は渦巻いていた。
才造が凄い風が背中から吹いたと思ったかと思った刹那、才造の体は浮き上がり、真っ黒な穴に吸い込まれてしまった。
才造が真っ暗闇で手足をばたつかせもがいていると、体がすぐまた浮き上がり、体が下に落ちた。
才造はストンと穴から落とされ、地面に尻餅をついた。
ここで才造のことを見て見よう。
才造はまだ若い。今年17になったばかりだ。
身の丈は、現代で言えば、160センチ位か。戦国の世では、背の高い方である。
伊達政宗は160センチで、当時の男性の150センチ代が平均で、徳川家康も150センチ代と言われている。
才造の体つきは、がっしりとしているが、機敏な動きで走り続けられる。
服装は、柿渋の野良着に、顔を手ぬぐいで覆っている。
足下は裾をばたつかせぬよう脚絆を巻き、草履を履いている。
もちろん、草履は切れやすいので、替えの草履は腰紐に巻き付けてある。
才造は忍びの伊賀者だ。
忍びは、刀を背中に背負っているが、昼間は人目につくため、刀は身につけず、野良着の懐に短刀を隠していた。
才造が北風といわれるようになったのは、父の番作が北風の番作と呼ばれていたからだ。番作が「北風の」と呼ばれるようになったかはもうわからない。番作が武田信玄の勢力に殺されたからだ。
才造は上忍から命を受け宇治橋の橋守に明智側の追っ手の兵が溜まっていないか確かねばならなかった。
はずだったのだ。
才造は空を見上げたが、黒い穴はない。
黒い穴はなんだったのか?
明智の罠か?それとも甲賀の者の仕業だろうか?
才造は気を取り直し、素早くあたりを見渡す。
才造は大きな木造りの橋のたもとにへたりこんでいた。
すぐにしゃがんだ姿勢で敵襲に備える。
しかし、武者や忍びの姿はない。
橋の周りには、周りは見かけない老人や老女が元気に歩いている。
橋の真ん中には、車輪のついたものがついたものが行き交っている。
果たしてここはどこなのか?
老人たちはただ歩いている。何かを運んでいるわけではない。
中には、荷物も持たず走っているだけの者もいる。
ただ、歩いたり走ったりすれば体が疲れ、腹が減るばかりではないか。
才造が橋を渡ってきた40すぎの女を見るとふわふわした毛の小さな犬を連れていた。
こんな小さな犬を飼っては、番犬にはならなそうだ。
野盗が来れば、すぐに逃げ出してしまうだろう。
橋の欄干を見る。ひらがなで、うじばしと書いてある。
ここは山城の宇治には違いなかろう。
ただ、なんだかのんびりした空気が流れている。
何かがおかしい。
才造は考える。
右大臣信長さまの配下の明智光秀が京の都で謀反を起こし、信長さまが討たれ、ご嫡男の信忠さまも討たれてしまった。家康さまは本当に駿河へ戻れるのかな。
織田信長が本能寺で明智光秀に討たれた時、徳川家康は、僅かな取り巻きを連れ、大坂にいた。織田信長から、招かれ、これまでの家康の協力に報いるため、接待を受け、大坂まで足を伸ばし、大坂の町を満喫していたのだ。
徳川家康らしくないことだが、完全に気が緩みまくっていた。
徳川さまの御家来衆から分かれ、休む間もなく、走り通しだった。
街道脇の地蔵の前で、脚を止めた。
汗が体中から吹き出し、野良着はびしょびしょ。汗も吸わない。
日が落ちた。
右足の草鞋の紐が切れそうになっていた。
もうすぐ、宇治橋だ。
橋に着く前には、草鞋を変えねばならぬだろう。
駆けながら、ほおを伝った汗を手で拭っていた。
その時だ。
あの橋に吸い込まれたのは。
忍びであったが、現代に転生してしまい、仕方がないので、スイーツを楽しむこととします。 フジセ リツ @sfz
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