第3話 頑張る息子

 

 息子は、幼い頃から要領が悪かった。


 よく泣いたし、よく転び、よく幼稚園の教室から抜け出して、よく母に叱られた。


 得意なことの方が少なく、しかしよくおしゃべりをしてくれる明るい子だった。


 小学校に入っても落ち着かない性格は変わらず、明るくて元気はいいけれど、明るくて元気がいいだけで、勉強はできないし、運動も苦手だった。絵も下手だったし、歌もリコーダーも音外れ。


 通知表には「集中力がありません」と毎年書かれたし、「もう少し頑張りましょう」の評価がずらりと並んだ。


 それでも母は息子を心配していなかった。

 忘れ物も多くて怒ったし、宿題をしなくて怒ったし、テストもひどい点数だったが、心配はしていなかった。


 なぜなら息子は毎日笑って学校に行っていたから。

 それは母にとって安心のバロメーターだった。



 しかし、息子が中学生になると、息子の表情が一変した。

 暗く、落ち窪んだ目をしていた。

 

 家でもあまり話さなくなった。

 学校から帰ると部屋に籠ることが多くなった。


 なのに、母は日常の忙しさにかまけて、息子を心配してやれなかった。心配してやらなかった。


 息子はそれでも毎日学校へ行っていた。

 母はその事実に安心しきっていたのだ。


 息子の精一杯の強がりに、気がついてやれなかったのだ。


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