ゲーム内の関係をリアルに持ち出すのはNG
灰秋
第1話 高校二年生、フィジカルは弱い
これなら他人と比べて秀でているものはと聞かれたなら、即答でゲームと答えてしまう。それ以外を聞かれてしまったら口を閉ざす他に選択肢が無くなる自分がいた。
ゲームは良い。日々の疲れを癒せるわけでは無いが、疲れを忘れるようにすることくらいは出来る。
『敵そっち行きましたよ師匠!』
「了解。あ、そっちの敵アーマー削ったぞ」
『あーごめんなさい全員ミリだと思います!』
「一人くらい落としてくれよ! ……だぁ危ねぇ!」
現在、今や数年の付き合いであるゲーム友達とアペというバトルロイヤルFPSを二人でプレイしていた。
コイツとは長いことゲームを一緒にしているのだが、知らないことの方が多い。知っていることといえば声からして男であり、よく俺がゲームをしている時間帯と被っているので恐らく同じ学生だろうということだ。
踏み込んだところであれば、同じ県民だということをたまたま知ったことくらいだろうか。
『さっすが師匠! いやーでも今のはオレでも対処できたんですよ? でも師匠に花を持たせるっていうのは弟子の役目であって……』
「ふーん。じゃあ次は俺がやられようかな。いつも自分をセーブしてたらストレスでしょ」
『いや……あの、すいません。嘘です。今のはオレの立ち回りが悪かったです。はい』
「分かればよろしい」
因みに、さっきから俺の事を”師匠”と呼んでいるがコイツを弟子にとった覚えはない。ただ、ちょっと俺が先にゲームを始めて、ちょっとコイツよりも上手かったからいろいろと教えたのが事の始まりだ。
コイツからも尊敬なんて感じないし、あだ名みたいなものだと思っている。
ただ、リアルでは何も出来ない何もしない俺にとって。
コイツとの時間が何よりも居心地がよく、何よりも自分をさらけ出せる場所であった。
ネットの友達……それも、顔も何もかも知らない相手が親友なんて、笑えるだろ?
***
「おにぃ起きろー!」
昨日から徹夜していたこともあり、微妙な時間で寝ようか寝まいかとベッドでうだうだとしていたら急に妹の
当然光に慣れていない俺の目は大ダメージを受けてしまうので、咄嗟に毛布を顔まで被せる。
「あーもー何すんだよー。太陽は兄ちゃんの天敵だっていつも言ってるだろー」
「ねぇおにぃ。今日は何の日かわかってる?」
「んー…。おねんねの日?」
「ちーがーうー! 今日はおにぃの楽しみにしてたゲームの発売日でしょ! 早くそれ見たいの!」
あーそっか。今日が発売日か。
自分がのめり込んだRPGゲームの続編だったので、期待していたし実際楽しかった。
……うん、実際にプレイしてみて楽しかった。
「ごめん、もうクリアしちゃった」
「……え?」
0時から遊べるダウンロード版だったので、徹夜で全て終わらせてしまった。
全てとは言っても、物語を終わらせただけなのでレベルカンストとかやり込み要素とかいうのには全く触れていない。
だからクリアだけでいったら世界の中でもかなり早い方なんじゃないだろうか。
もしかしたら世界一位? とか考えてニヤニヤとしていたら、明華が口を開いた。
「おにぃの馬鹿ぁぁ!」
ほとんど寝ていない頭に、その響く大きな罵声は殺人的なもののように感じる。
そしてこれが高校二年になりたての俺、
***
ほぼ朝までゲームしてちょっと布団に入ったら妹に無理やり起こされた体は、いろいろと言うことを聞いてくれない。
まず体がだるい。何をするにしてもいつもより動作が遅れてしまい、醤油を取ろうとして落としかけたのはまじで危なかった。
そして瞼が勝手に落ちてくる。それを許してしまえば数秒で寝る自信が今の俺にはあった。そんなことをしたら遅刻確定なので必死に睡魔と戦うのだが、もう勝てる気がしないので休んでも良いだろうか。
しかも今日は全校集会だけという日程なので尚やる気が出ない。
「……話聞くだけの集会なんて行く意味あるのかよ」
「いいじゃない。もし可愛い子がいたら唾つけときなさいよ」
一人だと思って呟いたのが、母さんに聞かれていてビクッと体が震える。
今日が新入生と初めて顔を合わせる日なのだが、それにしてもなんて発言だ。
「俺にそんなことできると思ってんの?」
俺は紳士なので、可愛いからといってやたら滅多に話しかけたりなんかしない。
こういった意味を込めてそう聞くと、母さんはプークスクスと言うのが似合いそうな顔になる。
「思ってたら言わないわよそんなクソ男になる様なこと。あんたが初対面の人に話しかけられるわけないもんねー」
煽ってんのかコラその通りだコラ。
何も言い返せないので、その母さんのこちらを馬鹿にしたような顔にため息だけついて身支度を始める。
可愛い子ねぇ。大抵そういうのは性格ブスだったりしそうなので話しかけた瞬間「うわっキモ。話しかけないで」とか言われそう。そうなった場合精神が崩壊する。
ナンパ師の精神状態はどうなってるんだろうか。絶対誰にも負けない心の持ち主だよな。
その点ゲームは凄い。人と関わらなくて良いんだもん。関わったとしても相手が嫌だったらミュートにすればいい。
ああ。もうゲームしたい。
「んじゃ行ってきやーす」
玄関を出て、とぼとぼと決して速くない歩きで高校に向かう。
歩くのもダルい。でも俺は高校が徒歩で通学できる距離にあるので、そんなこと言ってると電車を使って通っている人とかに怒られそうだ。
もう帰ってゲームしたい。でもそんな事をしたら晩御飯が抜きになる事は目に見えているので仕方なく歩みを進める。
近いはずの学校が気持ちの持ちようからか遠くに見え、思わずため息が出てしまった。
「なーにため息なんてついてんだよ」
「健也か。おはよ」
「ん、おは」
家が近いという理由でたまに登校が一緒になるのがこの
小中高どころか、幼稚園も一緒だったので学校でも話す相手でもあるこいつは、とにかく陽要素が多い。
校則ギリギリのラインを攻めた茶髪に胸元から見える赤Tシャツ。顔も良くて彼女がいるし、クラスでも中心になるほどのコミュニケーションっぷりだ。
対する俺は、寝癖を直さずぼさっとした黒髪に目を光から守る為の眼鏡をしている。因みにお高いやつ。
クラスの中でも隅にいて静かにスマホを触っているし、強めのコミュ障まで持っている。当然彼女なんてものは存在しない。
そんな正反対な存在なのに何が楽しくて俺に構うのだろうか。
正直教室で話しかけてくる時に他の陽キャを連れてくるのはやめてほしい。
「で、何のため息?」
「いやもう帰りたいなって」
「早っ。まだ始まってすらないぞ。しかも今日は一年生との初顔合わせ! 可愛い子には片っ端から声かけるぞー!」
母さん、ここにクズ男がいたよ。
というか彼女がいるのにそれはどうなんだ。もしかして陽キャってみんな皆こうなのか?
いや、ただコレが特殊なだけだと信じよう。
「それに翔が興味ありそうな話があるぞ。……今年の一年生、めちゃくちゃ可愛い子の中にゲームが得意で大好きっていう子ががいるらしいぞ」
「へぇ、そうなんだ」
「……ありゃ? 不発だったか。翔ならゲームの話しときゃ乗ってくると思ったんだけどな」
「生憎可愛い子もゲーム好きもあんまり惹かれん。……ってかどんだけ俺が軽い男だと思ってるんだよ」
「でもゲームが嫌いというよりかはいいだろ?」
「そりゃまぁそうだけどさ……おわっ!」
「わっ!」
健也の方を向いて話していたら、曲がり角から出てきた人影にぶつかってしまった。
ここの交差点は壁があって向こう側が見えないとはいえ、ちゃんとカーブミラーが設置してある。それを見れてなかった。
ぶつかった相手を見ると同じ制服を着た女の子で、顔を見た事がないあたり新入生だろう。片手に携帯ゲーム機を持っているので歩きながらでもしていたのだろうか。
「その、ごめ━━」
「ああごめんなさいごめんなさい! 前方不注意でした!」
「いやこっちも━━」
「ごめんなさい! 師匠からも気をつけるように言われてたのに……ホントごめんなさい!」
「大丈夫だから落ち着━━」
「あれ同じ制服! もしかして先輩ですか!? 私、
「ああうん。俺は━━」
「ではすみません失礼します!」
深くお辞儀をしてからその水瀬と名乗った女の子はそそくさとこの場を離れて高校の方へ向かっていった。
俺今何も喋らしてもらえなかったぞ。え、そんなことある?
「台風みたいな子だったな。大丈夫か翔」
「大丈夫。今ので精神すり減ったから帰りたいけどね」
「それは本当に大丈夫なのか? ……まあいいや。にしても可愛いかったなあの子」
「ぼんやりとしか顔見てなかったわ」
「出たなコミュ障マン」
不名誉なあだ名だが、その通りなのも確か。俺はこれからコミュ障マンとしてこの街の治安を守っていくよ。
コミュ障過ぎて悪党に近づけないけど。
「ってかお前の角度だったらあの子見えてたよな」
「見えてたけど言ったら面白くないじゃん」
コイツ。
***
ただ座っているだけの集会や担任の話が終わり、多くの生徒が帰っている中。
俺は人混みが苦手なので人がすくまでの少しの間はスマホを見つつ時間を潰し、ただぼーっとしていた。
「へい翔。今から暇?」
「放課後に話しかけてくるなんて珍しいな。悪いけど忙しい」
「忙しいならもっと忙しそうにしやがれ。今から俺ん家でゲームすっぞ」
唐突な誘いの様に思えるが、俺からすればまたかという印象でため息がこぼれる。
健也はいつもこうだ。何の脈絡も無く唐突に遊びの誘いをしてくる。嫌だと言ってもほぼ強制的に参加させようとしてくるのでタチが悪い。
それでも一応俺に気を遣っているのか、誘ってくる時遊ぶのは俺と健也の二人だけ、もしくは俺も知っている奴を含めた少人数という構成になっている。
だから本当にその日が空いていたら俺もその誘いに一度は嫌と言うが付き合うし、結局俺も楽しんで帰る事の方が多い。
「今日は何だよ。言っとくけど夜の七時には予定があるからな」
「了解! じゃあそれまで遊ぼうぜ!」
「だから何すんだよ」
「さぁな。もう一人のやりたい事させようと思ってるし、予定は未定だ」
「あ、もう一人いるのね。誰?」
「水瀬ちゃん」
「……誰?」
「ウッソだろお前。……まあお前はそうやつだったよ。ちゃんと翔も知ってる人だからお楽しみって事で」
ちゃんってことは女子だよな。名前を聞いてなんか覚えがある気がするので本当に俺も知ってる奴だろう。
何だろうな。最近聞いた気がする。
でも女子か。こいつの誘いで楽しくなかった少ない回数のほとんどは女子絡みだ。
大抵俺と遊ぶって事でゲームの協力だったり対戦だったりと、とにかくその日はゲーム三昧になる。それで飽きた女子は健也にゲームつまんないと言って困らせたり、何で俺はそんな強いのとキレられたりした事がある。
そうなれば空気も最悪になるし、俺も手加減しないととか女子の顔色を伺って変に緊張するので楽しめない。
男子もこういう奴はいるのだが、それは女子に比べれば非常に少ない。
基本陽要素が豊富な健也にまとわりつくのはアウトドアな人が男女問わず多い。
そんな男子は俺みたいな影の薄い奴には興味は湧かず、勝手に俺と関わりあってこない。
逆に女子は健也と話している全ての人に興味があるのか、俺をいじったりして関わりを持ってくる。
それで俺の知っている人の範疇に入ってきてしまうのだ。
でも、あんまり女子と遊ぶのは……とか言い出したら照れてんのかよシャイボーイとか絶対煽られるので今まで言ってこなかった。
「んー、そろそろ行こうぜ。多分もう一人は校門で待ってる」
「あれ、クラス違うのか」
「クラスどころか……ってか、待たせちまうのも悪いし早く行こうぜ」
「ん」
健也を前にしながらも弄っていたスマホをカバンに入れ、下駄箱に向かう。
その途中でも健也は何人かから声をかけられていた。毎日そんなので疲れないのだろうか。
「あ、星先輩! このまま行きますか? それとも、一度帰りますか?」
下駄箱で急に健也へ声をかけてきた女子はどこかで見たような顔だった。
でも健也を先輩呼びってことは一年生だよな。俺と接点ある一年生なんて朝の……朝の人だ!
「お、丁度いいや。このまま行こーぜ。一回帰んのめんどくさいし」
「了解しました! あれ、朝にぶつかった方の先輩ですよね。その節は本当にすみません!」
「いやいいよ。あそこはわりと危ない場所だからね。注意出来てなかった俺も悪かったよ」
「そう言ってもらえると助かります……」
健也の言ってた水瀬さんってこの水瀬さんか。確かに朝もそう名乗ってた気がする。あの時は混乱しててあんまり記憶出来てなかったんだよな。
それよりぶつかった方の先輩という呼び方が気になるんだが。
「それはそうと、今日はこの翔も来るけどいい? あとしょうちゃんって呼んであげたら喜ぶよ」
「えっ、しょ……しょうちゃん?」
「馬鹿野郎困ってんじゃねーか。坂口でいい」
「さかちゃん」
「てめーふざけんな」
「ふふ。はい、了解しました。坂口先輩、ですね。勿論オーケーです! ゲームは人数多い方が良いですしね」
「よし、水瀬ちゃんの了解を得たところで早速俺ん家にしゅっぱーつ!」
水瀬さんの控えめなおーという声と共に学校を出る。
はて、水瀬さんが一瞬じーっと俺の方を見ていた気がするが、ただの気のせいだろうか。
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