安息日

晴れ時々雨

👃🏻

「金子 1日目」

品名の欄にそう書かれた小包が自分宛に届く。送り主は小林とあるが覚えがない。梱包を解くと分厚いテープで密閉された銀色の缶が現れた。テープを剥ぎ蓋を開ける。中身は空で、ふわと他人の家の匂いがした。

翌日「金子 2日目」が送られてきた。次の次の日もまた。5日目の金子は臭かった。3日目4日目の臭いとは臭いの種類が違う。6日目の金子ではっきりした。金子は腐ってきている。


金子が誰で、或いは何なのか全く判らないがたぶん、信じられないけど、生き物の一種の匂いのことなのだと悟った。

おそらく体毛を有し、食べ物を口から摂取する類いの生き物。しかし今まで接触したことのある犬や猫、鳥類はこんな匂いはしなかったと記憶している。

1日目の金子を甦らせる。鼻腔を一瞬掠める、温まった部屋の匂いの奥の海産物らしき臭気。あれはたぶん海苔だ。それに若干酢のような匂いが含まれている。醤油で甘く煮付けられたかんぴょうの匂い。海苔巻きか。


「7日目の金子」を待った。その日は仕事だったが金子の7日目が気になり、普段より一本早い電車に飛び乗った。

宅配が届くのはいつも夜の8時以降だった。インターホンを聞き逃さぬようテレビをやめ、洗濯を後回しにし、音の立たない食材を静かに口に運ぶ。

9時を回ったが一向に来る気配がない。

どうしたのだ、金子よ。いや小林か。それとも宅配業者か。

私は今すぐに7日目の金子を嗅ぎたかった。


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安息日 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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