勘違いから始まる英雄譚

ろん

最低等級ハンターロイド

「おい、ロイド!何してんだ!早く来い!

 全く、なんでこんな雑魚を連れて行かなきゃ行けないんだ。」

「ダンさんすいません!すぐ行きます!」

そう言って俺は走ってダンさん達を追いかける。


 今、俺はファスト王国の首都トレンス近郊に在るダンジョンに潜っている、荷物持ちの仕事だ。

 ダンさん達ハンターは基本6人パーティーを組んでダンジョンに潜る、パーティーは仲が良い者たちで組むも良し、ハンターズギルドで紹介を受けて組む場合だってある。

 俺もハンターではある…

 今回俺はダンさん達のパーティーにギルドの紹介で参加させて貰っている。

「ギルドの頼みとは言え、なんでこんな奴を連れてかなけりゃいけねーんだ」

 ダンさんがそう言ってこっちを見てきた

「あはは…、ありがとうございます」

 俺は愛想笑いをしながら返すとダンさんは舌打ちをしながら前に視線を戻した。

 酷い言われ様だがこれにはちゃんとした理由がある、それは俺が最低等級のハンターだからだ。


 ハンター等級はギルドが定めた等級であり下からアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリルと上がっていく。

 ハンターズギルドの仕事は多岐に渡り、村や町の近くに出没する魔獣退治からダンジョン探索、一つの町を拠点に活動する者も居れば国中を転々とするハンターも居る。

 ハンター達の収入源はギルドが発行するクエストや魔獣の素材、ダンジョンから発見される宝をギルドが鑑定をし、それに応じた報酬が支払われる。


話を戻すが最低等級である俺は中々パーティーを組めず街の中で出来る仕事で日々暮らしている。なぜそんな俺がダンジョンに潜ってるかと言うと、受付嬢のメルティさんにたまには等級が上がる仕事でもして来い、と言われたからである。

全く良い迷惑だ、俺は日々平和に過ごせればそれで良いのに…まぁ来てしまったものは仕方がない、しっかりと働こう。

そう思った直後に前方でパーティーの斥候の声がした。

「お前ら、止まれ!魔獣のお出ましだ!」

魔獣と聞いてパーティーに緊張が走る。

全員が戦闘態勢に入った所で魔獣の姿が見えた。現れた魔獣は2体、鋭い前歯が武器のビッグラッドというブロンズ等級相当の魔獣であり、ありふれた魔獣でもある。

ダンさん達のパーティーはシルバー等級で、あまり苦戦することなく戦闘を終わらせた。

「おい、ロイド!さっさと魔物の解体を済ませちまえ!」

そうこっちを見ながら言ってきた。

「えっ、でも俺荷物持ちの仕事じゃ…」

「舐めてんのか?ただ荷物運ぶだけで分け前が貰える訳ねぇだろ。」

(えぇ、最初の話と違うんだけど…)

そう思いつつも言われた俺は何も言い返せずに解体を始めた。心の中では不満たらたらである。

なんとか解体を終えて魔物の素材をしまっているとダンさんから声が掛かる。

「おい!まだか!」

「今終わりましたよ。」

「たくっ!たらたらやってんじゃねーよ」

(そう言うなら手伝ってくれれば良いのに)

「あはは、すいません。」

俺は流し気味にそう答えた。


その後も何体か魔獣を倒したダンさん達は20階層にあるセーフティエリアで休憩をしている。

今潜っているダンジョンは全50階層で構成されており、所々で俺たちが今いる様な何故か魔獣が近寄ってこないセーフティエリアが存在する。

ダンジョンのタイプは様々だが今いるダンジョンは洞窟タイプで下に降りていく毎に魔獣がより凶悪になっていく、まぁその分素材報酬も増えて行くんだが…


休憩を終えダンジョン攻略を再開した俺たちは今、25階層にいる。

今日の予定ではこの階層までなのだがパーティーの1人が急に話し出した。

「今日はもう少し進んでみねーか?」

「えっ?ちょっ!今日はこの階層までの…」

「そうだなこの調子ならもう少し行っても良いかもしれねーな」

ダンさんに遮られた…

あんたらは良いだろうけど俺はアイアン等級だぞ!?

「あのぉ、ダンさん?今日はこの階層までのはずじゃ…」

「あ?ロイド、お前は荷物運んでるだけだからなんの問題もねーだろ?文句があるなら一人で戻れば良い、荷物を置いてな」

何言ってんだこいつ、25階層から俺一人で戻れる訳ないだろ!

「分かりました、着いて行きますよ…」

「最初からそう言えば良いんだよ」

結局攻略を続行する事になり、今は30階層を探索している。


魔獣は階層を進む毎に凶悪さも増すと言ったが、何体か魔獣を倒し終えた時そいつは現れた。

「あああ、あいつは!」

パーティーメンバーが慌てるのも無理はない

俺なんて足が震えて動けない、どうしよう…

ダンさんもあり得ないものを見るような目をし逆上したように叫んだ。

「なんでこんな階層で出てきやがる!逃げるにしても生き残れるかどうか…」

最後は力なさげに声が尻窄みになっていく。

「くそ!お前ら、やるぞ!」

「ダン無理だ!逃げないと!」

そうだそうだ!逃げないと死ぬ!なんでやる気になってんだよ!

「どうせ逃げたって追いつかれて殺されるぞ!」

そう言いダンさんは剣を構える。

それを皮切りにパーティーメンバーも戦闘態勢をとった、俺はどこに隠れようか必死に探しているが良さげな場所が見付からずに右往左往している。

結局いい場所が見付からなくて弓士の後ろを陣取った。

少し落ち着いた所でそいつに目を向ける。 魔獣の名前はバラガルム、頭部には2本の捻れた角に口には鋭い牙、四足歩行の足には鋭い爪が生えており軽い一振りでも身体が簡単に引き裂かれそうだ。本来は中層で出てくる魔獣ではないのだ、なんせこのバラガルムはゴールド等級の冒険者パーティーが居ないと対処も儘ならない様な奴だ。

今まで死なない様にのらりくらりハンター業をやってきたが今度こそ死んだな…

田舎の父ちゃん母ちゃん、碌に親孝行しないまま先に逝く事を許してください。


そんなアホな事を考えてたら戦闘が始まっていた。

バラガルムの咆哮で嫌でも現実に引き戻される、一応俺も剣だけは抜いておこう。

今はダンさんが剣で切り掛かっているが躱されるか爪や牙で弾かれてしまって、全くダメージを与えられていない、隙を突いて弓士や斥候も応戦している。盾士も仲間を庇い攻撃を受けている所為か盾は凹み身体のあちこちに傷が見て取れた。

シンバー等級パーティーがここまで手も足も出ないなんて、これがゴールド等級相当の魔獣…

すでにダンさんはボロボロで盾士は盾を破壊されて剣だけで攻撃を往なすか躱してはいるが長くは持たないだろう。

そう思っていたらダンさんが鋭爪に弾かれ俺がいる方に吹っ飛ばされてきた。

やばいやばいやばい!ダンさんが殺されたらパーティーメンバーも殺されて最後は俺も…

よし、逃げよう!

そう思い、俺は剣を持ったまま走り出した、そんな俺を見たバラガルムは1番弱そうで背を向けてる奴から、とでも思ったのか何故か俺を追いかけてきた。

「なんでだよぉぉぉぉ!」

逃げ込めそうな横穴を見つけた俺はそこに向かい全力で駆けた、横穴まで後数歩と言う所で俺は足を滑らせた。

あっ…ちびった…

時間がゆっくり進んでる様な感覚がして、嫌になるほど滞空時間が長い、俺は自分の死を感じて目を瞑った。


…いつまで経っても後頭部を強打した痛みしか来ない、その代わりに手には鈍い感触が伝わってくる、俺はゆっくりと目を開いた。

そこにはバラガルムの頭に刺さっている剣が映った。俺は慌てて起き上がり剣を引き抜いて後退る。


「おい、ロイドお前…」

ダンさんが鬼の形相でこっちを見ながら話しかけてくる。

「いや、これはたまたま…」

「ありがとう!本当に助かった!」

「へっ?いや、だからたまたまで」

「なに言ってやがる!お前が俺を助けてくれたじゃねぇか!わざわざこいつを惹きつけてまで、俺は吹っ飛ばされた時もう終わったかと思っちまったぜ!」

偶然だと言う事を説明したいのに全然喋らせてくれない…

「まぁ、その話は置いておいてバラガルムの解体やっちゃいますね!」

もういいか、感謝してるんだし、俺は話を変えようとバラガルムを解体する事にした。


流石にパーティー全員が動ける状態ではなかった為、少し休憩してから戻る事になったのだが休憩中もダンさんはしつこくどうやって倒したのかを聞いてくる。

「しかし凄かったな!途中まで後ろ向いてたのに気付いたらあいつの頭に剣が刺さっててよ、全く見えなかったぜ!最初は逃げてる様にしか見えなかったんだが」

全くもってその通りだよ…

「あははは…自分でもびっくりしてますよ」


「まぁそれにしても本当に助かった!ロイド、お前が居なかったら今頃俺たち全員あいつの腹ん中だったろうからな!」


「それに関しては俺も死ぬんだって、あいつを見た時に思いましたよ」

「なーに言ってんだ!あんだけ鮮やかに倒して置いて良く言ってやがる!」

そう言いながらダンさんは俺の背中をバシバシ叩いてくる。

さっきぶつけた後頭部に響くから本当に辞めて貰いたい、今すぐに。

「そ、そろそろ戻りませんか?もう外は結構いい時間じゃないですかね」

もうこの話を辞めたい俺はそう言ってダンさんに促してみた。

「それもそうか、おうお前らもう行けそうか?」

ダンさんはパーティーに確認を取り始めた。いけそうだと判断をし、ダンジョンから戻る為の準備を終え出発したのだった。


道中は数体の魔獣と戦闘を行った程度で問題なく一階層に戻って来れた、そして漸くダンジョンから外に出る事ができ、安堵のため息が出た。

(今日一日で10歳分くらい老けた気がする…)

そんな事を考えながらロイドはトレンスの街の帰路についた。

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