セルフィー
王生らてぃ
本文
少女が首を吊っていた。
冬の間は葉もつけずつぼみもない桜の木の太い枝に、くくりつけたマフラー。
しっかり固く結ばれたそれに、しっかり首を固く結んで、ぷらぷらと木枯らしに揺られている様は、ちょっと間抜けに思えてしまうほど現実味がなかった。まるでおもちゃだ。
「初音……?」
わたしの幼馴染が、制服姿で首を吊っていた。
セーラー服のタイが揺れていた。
スカートが揺れていた。
風に揺れていた。
今日はここで待ち合わせをしていたはずなのだが。
初音と一緒に、街に買い物に行こうと思っていたところなのだが。
なんで初音は、わざわざ待ち合わせ場所の桜の木で首を吊っているのだろうか。
カシャ。
わたしはなんとなく、とりあえず、首を吊ってぷらぷらとおもちゃのように揺れている初音の姿を写真に収めた。顔を写さないように、後ろから。長い髪で横顔が隠れて、ほんとうに人形みたいだった。のびきった白い指先が綺麗だった。
初音のスカートのポケットから、ぴろん、ぴろん、とスマホの通知音が鳴る。
それを取り出してみると、友だちや家族と思しき人たちからたくさんのメッセージが届いている。だいたい、「いまどこ?」とか、「だいじょうぶ?」とか、「返事して!」という内容だ。
そしてスマホの待ち受け画面には、わたしと一緒に撮ったツーショットの写真が映し出されていた。
わたしは、その待ち受けの写真に写る初音の笑顔と、今まさに目の前で揺れている初音の顔とを見比べて、なんともやるせない気持ちになった。
そっとスマホを初音のポケットに戻し、それからわたしは初音と一緒に写るようにセルフィーを起動して、画角を調整した。
「はい、チーズ」
カシャ。
今日もいっぱいふたりで写真撮ろうかと思っていたのに、こんな写真になってほしくなかった。わたしはその場から逃げるように立ち去って、家に帰った。それからスマホの中に保存されていた、初音の顔が写った写真をぜんぶ削除した。
残ったのは、首を吊った初音の後ろ姿の写真だけ。
初音の笑顔は、ぜんぶ思い出の中だけでいい。
セルフィー 王生らてぃ @lathi_ikurumi
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