さがしもの
FN
さがしもの
少年は、親も困ってしまうほどにその性格がひねくれていました。そしてその性格に一番困っていたのは少年でした。
少年の親は共働きで、祖父母の家に預けられることがよくありました。
祖父母の家には本がたくさんありました。祖母はよくお気に入りの籐椅子を縁側まで持っていき本を読んでいました。日当たりの良い縁側で幾つかの四季を祖母と過ごしました。
成長して家に一人でいられるようになった今でも、本をよく読みました。図鑑、小説、絵本、漫画、知らない人のエッセイだとか、とにかく色々。
その色々のために少年は同年代の他の子よりも少しだけ、大人びていました。
学校では話しかけられることはほとんどなく、お弁当も一人で食べていました
一番困るのは少年がその環境を受け入れられたことです。受け入れられはできるのでしたが、それでもやっぱり一人は寂しいものでした。
体育の時間ペアを作る時、お昼休みの教室、移動教室、その端々に寂しさを感じました。
それでも少年は一人の楽しみ方を知っていたので、1人でもいれましたが、やはり寂しいのでした。
そのくせして、他の人が関わってくることが少しだけ苦手でした。
どれだけ優しい言葉をもらっても、自分で優しくない言葉に変えてしまう。それが少年の悩みでした。
その日、少年は2回話しかけられました。
1回目は授業で隣の席の子と話し合う時、その子の言ってくれた。
「少年くんはいつもどんなことしているの?想像つかなくて」
という言葉です。少年は、こういう言葉が純粋に疑問に思った言葉なのかどうか分からなくなってしまうのです。ただの世間話なのか、黙ったままの空気が嫌なのか。
少年は、人に話してもいいような少年を話します。決して嘘をつかずに、自分が親しみやすいように。
それで仲良くなれた事はないのですが。
2回目は少年が本を読んでいる時に同じクラスの男子の
「どんな本読んでるの」
と言われたことです。少年は反射的に本を隠してしまいました。特にやましいような本を読んでいるわけでもないのに。
それでもグッと近づいできて本を取られてしまいました。そして
「ふーん、小難しい本を読んでんだな」
と言われました。少年はまたやってしまったと思いました。
ああ、揶揄われてしまうと、そう思いました。
そんな日の帰り道、少年は駅までのバスに乗っていました。
少年は必ずバスの一番後ろに座っていました。見られることが少なくて済むからです。背中に人がいないというのが一番安心しました。
でもここでするのは後悔でした。変な風に思われないかなとか、少年に話しかけてきてくれたのはいい子ちゃんぶっているのかとか、今日も何も無かったなとかです。
もちろんSNSを開きながらです。
バスの中のみんなもそうしていました。スマートフォンを開いて首を下に倒していました。
各々今日あったことを書いているのでしょう。少年は書いているわけではありませんでしたが、見ることに没頭するようになり、いつからかバスの中ではSNSを見ることが常となっていました。
数分首を下に倒していました。
少年は首が痛くなってきたことに気づきました。少しでも和らげようと思い、首を回そうと顔を上げた時です。
バスの中を見渡しました。
夕日が綺麗でした。空の端は水溜りにガソリンが垂れてしまったみたいな色で、ほとんど夕焼け色の空に藍色が被りかけていました。
バスのちょうど前方から斜陽が入ってきていて、バスの中には片手を胸の下あたりまで持ち上げ、首を少し倒した人たちの影でいっぱいになりました。
着ている服の違いとか、もちろん性別だって一目で分かるくらいみんな違っているのに、影に写すとみんな同じでした。
その中でも一つだけ違う影がありました。運転手の影でした。
影からその姿を追うと、運転手は手を振っていました。誰に手を振っているんだろうと思って外を見ると、小さい女の子が母親らしき人と一緒に手を振っているのが見えました。
もちろんバスは走っているので一瞬のことでした。
それでも少年の瞳にはその景色がしばらく焼き付いて離れませんでした。手を振る運転手と子供の影とその子供の花の咲いたような笑顔です。無邪気に両手を頭上で振る笑顔です。
バスに視線を戻すと、先ほどと変わらずに影がバスの中いっぱいに伸びていて、みんな首を下に向けています。
少年は少しだけ姿勢をよくすると、運転手を一瞬見た後に「夕日が綺麗だな」と思いました。
さがしもの FN @goto39713
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