解答

【問1の答え】買い物【裂雷神】

「これじゃ足りないよ」


 そう、八百屋やおやのおじさんに言われてぼくは首を傾けた。


 なんでだっけ?


 確かお母さんには1500円もらって、今八百屋で買った野菜は1280円だったはず。

 おじさんの顔を見る。困っている。おじさんの手には千円札と100円玉。あれ? 500円玉は?

 ぼくは財布に目を落とした。すっからかんだ。なんにもない。と言うかあの100円玉はぼくのおこづかいなのでは?


 なんで? 目を瞑る。考える。すると頭の端っこの方にあった記憶がポコッと音を立てた。お母さんが作るクリームシチューの表面みたいに、ポコッ、ポコッ、って分厚い泡が弾ける。


 そうだ、ぼくは花子はなこちゃんを助けようとしたんだった。



 ※  ※  ※  ※



 花子ちゃんは言う。


「わたしね。ママが嫌いよ」

「どうして?」

「叩くから。閉じ込めるから。あとね、ご飯を食べさせてくれないから」


 花子ちゃんのお母さんは美人でやさしそうな人だった。大人同士でも仲の悪い人はいなかった。だから花子ちゃんの言うことを誰も信じなかった。でもある日髪の毛を上げて見せてくれた彼女のうなじにあった火傷のあとが、彼女の言うことが本当だってことを教えてくれたんだ。


「神様なんて居ないわ」

「えぇ……」


 ぼくのおじいちゃんは神主さんだからそう言うこと言うのやめてほしい。でも、花子ちゃんがどれだけ辛い目に遭っても助けてくれないのなら、神様は居ないのかな? そんなことも思ったりもした。


「ぼくに任せてよ。今度おじいちゃんが居る神社に行って神様にお願いしてみるよ」

「意味ないわ。居ないんだもの」

「じゃあさ、もしも花子ちゃんが助かったら、ぼくと結婚してよ」


 ぼくが笑顔を向けると、彼女は悲しそうに笑って小さな声で「いいよ」と返してくれた。


 お母さんにおつかいを頼まれて、ぼくは途中にある神社に立ち寄った。おじいちゃんに挨拶をして中に入っていく。

 裂雷神さくいかづちのかみと言うのが、この神社の主祭神しゅさいしんだっておじいちゃんが言っていた。なんかよくわかんないけど強そう。


 賽銭箱にお金を入れて二回礼。二回拍手。手を合わせたまま目を瞑った。


裂雷神さくいかづちのかみさま。花子ちゃんを助けてください。どうかよろしくお願いします。あと、花子ちゃんと家族になりたいんです。あ、でもこれは出来たらいいです)


 目を開けて、一礼。完璧。

 帰ろうとした瞬間。


 ——ピカッ!


 強烈な光と一緒に、大きな音が鳴ってぼくは吹き飛んだ。



 ※  ※  ※  ※



 そうだ。それでそのあとなんだかふらふらしたまま八百屋さんまで来てしまったのだ。おこづかいの100円玉を賽銭箱に入れたつもりだったけど、間違って500円玉を入れちゃったんだ。寄り道をしちゃったから、バチが当たったんだ……。


 結局1100円分しか買えなくて、あんまり好きじゃないトマトを戻したんだよね。帰ったらお母さんから雷が落ちるだろうなあ。

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