消える世界の夢物語。

かたはば

【夢間 2032.8.15 6:04:32】

人生の終わりに見るとしたら、どんな夢がいいだろう。


悔やんでばかりの生涯を振り返る走馬灯か、はたまた叶わなかった「もしも」に想いを馳せてみるか。

こんな自分を愛してくれた人々にお礼を言う真似事をしてみてもいいかもしれない。


ただ本当に最後なのだから、人生を締めくくるにふさわしい夢を見たいと思う。

そうすれば、この退屈で凡庸な俺の物語も、「終わりよければすべてよし」方式で綺麗に幕を下ろせるだろう。


……あなたにこんな話をしても、何も意味がないことはわかってるんだ。

これは子供がクマのぬいぐるみに話しかけるようなもの。

自分の心境を整理するために、語りかける相手が必要だったというだけだ。


だからもし、あなたがただの「物体」なのであれば、気にせず聞き流してほしい。

仮にあなたに感情と呼べるものがあって、ちょっぴりでも俺の話を聞くのが好きなのであれば、俺との会話の時間に心を躍らせてくれていたら嬉しい限りだ。

そしてついでに、俺の人生の終わりにふさわしい夢の内容を考えておいてくれ。


……気がついたら、もうこんな時間だ。毎回付き合わせて申し訳ないな。

お詫びといってはなんだが、明日は血湧き肉躍る英雄譚を用意しておこう。


さあ、もう目覚めるときだ。


俺がこれからあなたに語るのは、そんな夢物語。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る