第10話 アイドル執事の何でもない日常

真夜中。

四人の共有スペースで間接照明の僅かな明かりが灯っている。その横に腰掛けるのは普段結っている髪をおろし、寝衣の上にカーディガンを羽織ったフユだった。眼鏡をかけ本を読む姿、落ちてきた横髪を耳にかける仕草、組み直す長い脚、世の女性が見ればきっとその美しい姿に甘い溜息を漏らすだろう。


「どうしたの、フユ。眠れないの?」


そこに現れたのは、愛らしい桃色の寝衣に、ショールを羽織ったハルだった。

緩く編み込まれた桃色の髪がトロけるような艶めきを放っている。彼を知らない男性が見れば欲情に駆られるであろう大変愛らしい姿だが、寝起きなので声はいつにも増して低い。


「ああ、少し夢を見てな」


そう言って眉間を揉む表情を見るに、きっといい夢ではなかったのだろう。


「お茶でも飲む?」


けれど、それを察していてもハルは何も聞かない。ただただいつものように美味しいお茶のお誘いをするだけ。


「ああ、頼む」


お湯が沸き、ポットに注ぐと茶葉が踊り、心安らぐ香りが鼻腔をくすぐる。ハルは目を閉じてその香りを楽しんでいる。

その時カチャリと扉が開かれた。


先にポンポンの付いた三角帽子を被って、少し大きめの寝衣を着たアキだった。帽子からはみ出たくるくると好きな方向に飛び出るふわふわな癖っ毛が愛らしい。そんなアキは眠たい目を擦って寝ぼけ眼で二人を交互に見つめている。


「アキもお茶飲む?」


 首を傾げながら優しい眼差しでアキに問い掛けるハルは本当に可愛い。声も少しずつ寝起きの低さを失ってきたようだ。


「〜うん」


アキはまだ目を擦りながら、共有スペースのキッチンへ行くと棚をガサゴソと触り始めた。


「どうしたの?」

「この辺にチョコレートとナッツ仕舞ってて。お茶請けにだそうかなと思って〜」

「そうなんだ。ありがーーー

「よんだッ!?」


ハルの言葉を遮って勢いよく部屋から飛び出てきたのは動きやすそうな寝衣を着たナツだった。

目を擦って少し眠たそうではあるけれど、声と気持ちは元気いっぱいだ。新緑色の髪までも元気いっぱいにあっちこっち跳ねている。


「呼んでない」


ナツの方を向くこともなくチョコレートとナッツをお皿へと盛りつけていくアキ。


「あ、俺アレ食べたい!なんかプルプルしてて甘いやつ!」

「ジェリーね、そっちの保冷箱に入ってるよ。取って」


冷たい言い方をしつつも、アキはナツの要望に応えて言葉を返している。ちゃんとお皿だって4人分。

4人にとって4人揃うことが当たり前なのだ。ずっと4人で過ごしてきた。だから4人じゃないなんてあり得ない。


そんな何でもない日常

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