第3話 アイドル執事のお留守番


「はぁ...」


 扉以外の壁は全て分厚い本がびっしり収められている本棚に囲まれた書斎で一人の執事が溜息をついた。


「フユー、暇だよー。」


「ナツ、手を動かせ。アル様が討伐に出ている間にもする事はある。その書類は纏めて、上から二番目の引き出しの中だ。」


 本日アルテミスに仕える筈だった二人だったが、魔物が王都近辺で出没したため急遽主人が討伐に出ることになったのだ。歌で魔物に対抗する術を持っている執事達ではあるが、なんせ執事である。討伐について行く事は出来ない。

 なので主人の代わりに書類の整理でもして健気に帰りを待つしかないのである。



「フユは真面目だなぁ。あ!しりとりしよーぜ!」


「だから、仕事しろって。」


「手を動かしながらでも出来るからいーじゃん!俺からね!じゃあ、ナツのつ!」


 強行突破で始まったしりとり。

フユは、はぁとため息をついた後、手に纏めて持っていた書類を机の上でトントンと整えると、箱に入れながら静かな声で答えるのである。



「月の様に美しいアテナ様」


 書類整理のような細かい作業があまり得意ではなく、アタフタしながらも書類を仕分けしていたナツがポソリと聞こえたフユの返しに満面の笑みを浮かべた。


「ま、ま、まつぼっくり!」


 フユが自分の提案に乗ってくれたことがあまりに嬉しかったのか、少々大きめの声で返したナツの声にフユは一瞬眉を寄せたが咎めはしなかったので大きい声に驚いただけのようだ。

 それにしてもフユのコレはしりとりのルールとしてはどうなのか?


「凛とした佇まいのアル様」


「また、ま!?ま、ま、まくら!」


ナツは細かいことは気にならないらしい。


何はともあれ、軽快に始まった二人のしりとりだったが次々と手際よく書類を整理していたフユは急にその手を止めた。何となく肩が小刻みに震え始めた気がするがしりとりを楽しんでいるナツはそれに気が付いていない。


「来週は討伐の予定はないから、城にいるよって言ってたのに.....」


 震える声で微かに言葉を紡いだフユに違和感を感じたのかナツは声の方へと視線を向けた。そこには明らかにふるふると震えているフユの背中があった。この様子だとしりとりどころではないかもしれない。そもそも、もう単語ではなく、言葉になっている。



「に?に、に、にんにく!」


ナツは気にしなかった。



「国と国民を守る為だと分かっている、分かっているけど!」


「ど?ど、ど、ドーナッツ!」


「ついさっきまで、今日は久しぶりに一緒に過ごせると思って喜んだのに、急に討伐に出ることになるなんて...」


「て?て、て、天草!」


「寂しいよぉぉぉぉぉ。お兄ちゃんんんん。早く帰ってきてぇ。」


「て?え?て、でいいか!て、て、天使!」


「シマウマ」


「また、ま!?ま、ま、魔法士!」


「島」


「また、ま!?!?ま、ま、ま、ま、、、、、、」




 そこへ、アルテミスが討伐に行った為、残された執事達を気遣ってお茶に誘おうと提案したアテナの伝言を伝える為にアキが書斎へと訪れた。

 というか、少し前から来ていてその光景を何とも言えない気持ちでしばらく見つめていたのである。



「二人ともバカじゃない?」


アキはそれしか言葉に出来なかった。




ツッコミは大事。


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