第2話 アイドル執事のとある休日


「ねぇねぇ、はーちゃん」

「どうしたの?アキ」


今日は執事達の休日。滅多に4人揃って休みになる事はないが、主人がたまにはと休みをくれたのだ。


「このケーキ何か見栄えが良くなくて。はーちゃん彩りとか決めるの上手だしなんかいい案ある?」

「うーん。そうだね..」


ハルは顎に手を当てて首を傾げ机の上に置かれたアキ特製のシンプルなケーキを見つめている。その姿は可憐な乙女で、彼を男だと知らない人から見れば男装をした女の子と間違えてしまうだろう。ただ、絶対男の子だし、声は割と低めである。


「そうだ。最近、食用の花が綺麗に咲いたんだよ。良かったらその子達を使ってみる?とても綺麗だと思うよ?」

「はーちゃんすごい!食べれる花なんてあるの?見てみたい!」


 アキはくるくるクセのある紫色の髪をフワフワと揺らし丸い大きな瞳をキラキラとさせている。


「ふふ。じゃあ、今から行こうか?」


 誘われるまま4人共有の部屋を出ようとした時、その部屋に並ぶ四つの扉のうちの一つが勢いよく開いた。


「なーいっっっ!!!!」


 勢いよく開いた扉からは血相を変えたナツが飛び出してきた。何か慌てている様子にハルとアキはお互い目を合わせて首を傾げている。


「なっちゃんうるさい。何がないの?それにちゃんと服着なよダラしない」


 アキは相変わらず主人の前以外は口が悪い猫被りのプロである。因みに主人といってもアテナだけで、アルテミスの前では四人でいる時と態度が変わらないので、"俺、尊敬されてないのかなぁ"と不満を漏らしていた。

...そんなアルテミスのことを思い出しハルは蕩けるように微笑んだ。その顔を見た男性はきっとハルに一目惚れしてしまうであろう美しさだが、間違っても彼は男である。...男である!!


「姫の髪解いた櫛がないんだよぉ!俺、あの姫の匂いがする櫛で髪を解かないと1日が始まらないんだ!!あ!ハル!ハルなら持ってるんじゃないか?姫の髪整えてる櫛!!」

「ナツ、流石に主人専用のモノを僕たちが勝手に使えないよ」


 ハルは苦笑しながらそう答えた。


「そうだよなぁ。ほんとどこ行ったんだろう。姫の匂いを櫛に付けたくて髪を結う練習したのに!!!」

「なっちゃん気持ち悪い」

「は!アキは知らないか?俺の櫛?!」

「知らないよ!ちょ、揺すらないで!酔う!酔っちゃうよ!!」


 ナツに肩を思いっきり掴まれ前後にグラグラと揺らされてアキが目を回している。


「う、気持ち悪い.....なっちゃんとりあえず上に服着てよ...見苦しい...うげぇ」


何やかんや言いつつもナツの世話を焼いているアキは意外とオカン属性なのである。


 両手両膝を床に突き必死にグワングワンする頭の中が落ち着くのを待っているアキの背中をハルがそっと撫でている間に、それもそうだとナツは服を取りに自室に戻っていった。


「なっちゃんのあの性癖っていつから始まったんだろう...」

「さぁ、気が付いたらああなってたしね。でも嗅覚が鋭いってどんな感じなんだろうね。匂いが強いものに関しては辛そうな時もあるし、便利そうだけど不便でもあるんだろうなぁ。でも...離れていてもアル様の香りをずっと感じられるなら...はぁ..悪くはないかも知れない....」

「しまった!はーちゃんのスイッチが!!!」





「何だ、騒がしいな」


四人共有の部屋に設けられた洗面室から身なりをきっちり整えたフユが出てきた。休日でもきっちり整えている生真面目さんである。

切れ長の目付きで低く静かに話すのでよく怯えられる時もあるけれど、別に怒っているわけでもなく只々、これが通常のテンションなのである。


 そんなフユの手元にアキとハルの二人の視線が止まった。


「「あ!」」


「姫のにおいがするーーー!!!!!」


再び、バンッとナツの部屋の扉が勢いよく開いた。それを見たフユが思いっきり顔を顰めている。


「ナツ、うるさいぞ。もっと静かに開けれないのか」

「あ、ごめ..って違う!それ!その櫛俺の!!!もしかして、使った?使ったよね?それからフユの匂いもするもん!俺と姫だけの匂いだったのに!!!」

「なぜ、この櫛からおねっ...姫様の匂いがするんだ」

「それで姫の髪結ったことがあるからだよ!どうしてくれるんだよ!俺の宝物ー!!」

「、、、洗面台に置きっぱなしにしたお前がいけない。それより、これはおねっ..姫様の髪を解いたモノなんだな?」

「ぐすん...ああ」


フユは手に持っていた櫛をクンクンと匂い始めた。けれど、嗅覚が特別鋭いナツだからこそ分かる匂いで、一般的な嗅覚しか持ち得ないフユには、先ほど自分が使った整髪剤の香りが微かに分かる程度である。


 匂いを確認する事を諦めたのか鼻の位置から勢いよく落下した腕がブラブラと力なく揺れている。フユは下を俯いたっきり何も言わない。


「は!いけない!なっちゃん!はーちゃん!ふーちゃんのスイッチが!!!!!」

「「はっ!!!」



「お...お...お兄ちゃんとおねぇちゃんに会いに行く!!!!!!休みなんかいらない!寂しい!寂しい!寂しい!!!!!!!!!」


今にも部屋を飛び出そうとするフユを必死で押さえ込む三人。




そんなくだらない四人の休日であった。

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