第16話 人の光。

リアンが優しくジェイドの頭を撫でながら質問をする。

リアンは自分と間違ったエルムを知りたかった。


「エルムさんってどなたですか?」

「…」


「私と似ているんですか?」

「…」

ジェイドはもっと嫌がるかと思ったが素直に頭を撫でられ続けていて。

なんとも言えない顔をしている。

そして返答がなくてもリアンは優しく頭を撫でる。


「エルムは俺の妹だ…」

しばらくしてジェイドが口を開く。


「妹さん…」

「亜人共に殺されたんだ」


「私に似ているんですか?」

「わからない…でも君がセレストと話している姿は似ている気がした」


「そうですか。エルムさんはジェイド様を何とお呼びするんですか?」

「え?」


「私みたいに兄様と呼びますか?」

「いや…、エルムは俺を兄さんと呼んでくれていた。

あの日…、亜人共に殺される…最後の時まで俺を兄さんと呼び続けて…いた!」

またそう話して涙を流すジェイド。

傷だらけの顔で涙を流すと悲壮感が凄い。


ジェイドが泣き止むまでリアンは頭を撫で続ける。

少ししてジェイドが鼻声で話し始める。


「だからではないが…」

「え?」


「君を助けられて良かったよ」

「…君、ではなくリアンとお呼びくださいジェイド様」


「え?」

「もう一度私を助けられて良かったと仰ってください」


「え?…リアンを助けられて良かったよ」

「私の目を見て仰ってください。ジェイド様はエルムさん達とも目を逸らすんですか?」


「だが俺は酷…」

「まだ言うんですか?私には勇者としか見えません。はい。言って!」

リアンの圧に負けたジェイドがリアンの目を見る。



「…リアンを助けられて良かったよ」

今度はジェイドもリアンの目を見てキチンと言う。


本当に助けられて良かった。

セレストには自分のような気持ちを味わって貰いたくない。

ジェイドはそう思っていた。



「兄さん、助けてくれてありがとう」

突然微笑んだリアンがジェイドに向かって言う。

その言葉でジェイドの目に涙が溜まっていく。


「え?あ…ぁぁ…あああ。助けた。俺は助けられたんだな」

「そうよ兄さん。だから苦しまないで。まずは自分に優しくなって。誰も兄さんを恨んでなんて居ないから!」

リアンは必死になってエルムなら何と言うかを考えてながら口を開いた。

間違っていても良い。

とにかくジェイドの心を癒したかった。

それだけだった。


しばらく泣いていたジェイドはリアンに連れ添われてベッドに入る。

4年ぶりのベッドは暖かく柔らかく、安らいだ気持ちになった。


「ジェイド様、お休みなさい」

「リアン、ありがとう」

ジェイドが穏やかな声でリアンの名を呼ぶ。


「いえ、当然のことをしたまでです。

私こそ命を助けて貰って何と感謝を告げて良いものか。眠るまで手を握らせていただきます。寝たらおいとましますのでご安心ください」

「ああ…あり…がと…」


余程疲れていたのだろう。

ジェイドはあっという間に眠ってしまった。


「あら?」

だが立ち上がろうとしたリアンが少しだけ困った声を出す。



翌朝、寝所に居ないリアンを不審がったセレストがもしやと思いジェイドの部屋に入る。

そしてベッドの横で座るリアンを見つけて足早に近寄る。


「リアン!」

「しー。兄様、お静かに」

リアンが迷惑そうにセレスとを睨む。


「だが姫が一晩中…?これはどう言う状況だ?」

ここまで言ったところでセレストは状況に気付いてリアンに聞く。


「ジェイド様は4年間も孤独の中で責めを受けて人恋しいのでしょう。

眠るまでと手を繋いで差し上げたら寝た後も離されませんでした。

それに不思議、本当に日の出と共に傷が消えましたのよ?

整ったお顔立ち、これだけ整っていると夜の姿が気になってしまうのも納得ですわ」

そう言ってリアンが感慨深くジェイドの顔を見る。

今のジェイドは傷1つない顔をして穏やかな寝息を立てている。


「そ…そうか…」

「兄様、一つお願いがあります」

何もなかったことにホッとしたセレストに向かってリアンがお願いと言う。


「願い?何だ?」

「ジェイド様の親友になってください。もっと…わざとらしいまでにスキンシップもお持ちください」


「何?」

「ジェイド様の心の傷を埋められるのは人の温もりです。

人の闇が傷つけた体を癒せるのは人の光です」

リアンが確信めいた気持ちでセレストに言う。


そう、人の闇は人の光で晴らすしかないのだった。

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