補足となる文書
人型兵器「EA」誕生の経緯
ヒトの姿を模した全長数mから十数mの人型兵器。「ノーマル」と「イレギュラー」の二種類に大別され、特に後者は現代の戦場において、一個の独立した戦闘ユニットとしては無類の強さを誇る少数精鋭の兵科である。だがEAについて正確に理解するためには、それを生み出した歴史的背景を知る必要がある。 「技術革新は戦争の姿を連鎖的に変化させる」とは、旧アメリカ合衆国¹第52代大統領トーマス・ウィリアムズの言葉である。第一次世界大戦の時代における機関銃と戦車などがまさしくその代表例と言えよう。機関銃は戦列歩兵や騎馬兵を無用の長物とすると同時に塹壕だらけの戦場をを生み出し、それを突破するために戦車という新たな兵器が登場した。
先の戦争、正確には極東戦争における旧中華人民共和国³軍と多国籍軍⁴との戦いの最中で、全ての発端となる事件が起こった。旧中国軍が南シナ海に造った完全自律型の工廠と軍事基地を兼ねた巨大な人工島で、島の施設の全てを司るAIが軍の自らの意思で軍の制御から離れた。多国籍軍側の資料によれば人工島要塞の制御AIと中国本土の軍司令部が暗号通信を交わした数十分後、本土沿岸部からの弾道ミサイルと潜水艦発射弾道ミサイルが断続的に降り注いだ。ミサイルの中には核弾頭のそれも含まれており、人工島は跡形も無く完全に消滅した。
終戦から約1年後、「人類文明存続を目的とした複数分野の先進技術の包括的な制限に関する国際条約」、通称ハノーファー条約が結ばれた。この国際条約がある一定以上の複雑性を持つ高度な電子・量子計算機の研究・製造・使用を禁止したため、コンピューターの技術水準は世界全体で2020年代前後のレベルまで後退したとするのが専門家の一般的な見解である。
ハノーファー条約の制限を受けなかった技術分野ももちろんある。EAに使用される疑似細胞装甲やモジュール融合炉、疑似細胞アクチュエーターなどの各種技術は戦後の技術進歩の結晶と言えよう。しかしハノーファー条約の制約によって退化したコンピューターには、進化したこれらの技術を搭載した兵器ユニットの制御など不可能であった。
だからEAには人間が乗っている。否、乗らなければならない。EAを動かすのは鉄と半導体でできたCPUではなく、人体という名の制御系なのである。
人体を精巧に模した大型機械に生身の人間が搭乗し、身体感覚を搭乗機体とシンクロさせる。すなわち頭の天辺から脚の爪先までの「私の体は今ここにある。私の体はこういう形をしている。私の体は今この状態にある」という、総合的な感覚をそのまま人型機械のサイズに
だが賢明な読者諸氏は疑問に思うだろう。何故人型でなければならないのだと。
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