7つの魔弾と元引き籠りの拳銃王

大田シンヤ

第1話引き籠りでニートなダメ男


「ダアアァアア!! クソクソクソクソクソォ!! バッカ野郎、テメェそんな所にいるんじゃねぇよ!? 射線上で弾がエネミーに当たらないだろうがっ」

 

 どこにでもある一軒家。その二階の隅っこにある部屋で男が怒鳴り声を上げながら、パソコンに嚙り付いていた。

 太陽が雲一つない青空で輝いているというのに、外に出ない!!という意思の表れか、カーテンは隙間なく閉め切っており、その部屋は薄暗く、何日も空気を入れ替えていないせいで、空気は湿っぽい。


 そんなことを気にせずに男は、コントローラーを握りしめ、パソコンの画面に映し出されているもう一人の自分アバターを操作し、爆破物でエネミーを爆散させる。

 気に入らないことがあれば爆散させる。大抵の者が考えそうなことだ。この男もまた、フレンドが思い通りに動かないことに苛立ちを感じ、オンラインで知り合ったフレンドごとエネミーを叩きのめしたのだ。


 怒りの声がヘッドフォンの向こうから聞こえる。その声は甲高くまだ相手が年端も行かない子供であることが分かる。

 馬鹿、アホ、社会人失格のニート野郎etcなどなど様々な罵倒が聞こえてくる。それに腹を立てた男は、舌打ちを打つとコントローラーで捜査を開始。フレンドの死体の上でタップダンスを踊り、リスボーンした瞬間に死ぬように爆弾を設置。その後、再びタップダンスで煽り行為を行う。


 しばらくして時間が経ったのだろう。フレンドが起き上がるとすぐさま爆弾を起爆させて、再びフレンドを地獄送りにする。

 響く笑い声、半分泣き叫ぶような怒りの声。それを永遠と繰り返しながら少しでも気分を紛らわさせる。


 そして、相手が諦めたのだろう。通信が切れたという文字と共にフレンドのアバターが動かなくなる。その文字を確認した後、男もログアウト作業に入った。


「ふぅ……何が特定してやるだよ。やれるもんならやってみやがれ」


 通信の最後に聞こえた脅し文句。そんなことをしたならこちらも警察に通報してやればいいと言う単純な思考で男はパソコンを背にして部屋にあるテレビの電源を付ける。

 時刻は十三時。朝からずっとゲームをしていたため、昼を食べ忘れた男はそれを見て、部屋の扉を開ける。するとそこには、既に冷たくなってしまった昼食が置かれていた。

 これも男にとってはいつも通りのことだ。


 さて、そろそろこの男のことを紹介しよう。

 この男の名前は、竹島裕司たけしまゆうじ。年齢は三十二歳。そして、もうわかる通りニートである。この男は社会で虐めにあった訳でも、体に障害を持っているという訳でもない。至って健康な男だ。

 では何故、ニートになったのか……それはとてもくだらない話である。


 小・中・高、そして大学は問題なく出ることができた。しかし、それは将来の夢のために必要――などではなく単純に大学に行った方がまだ遊べる、といった理由だ。大学を出た後は適当な会社へと就職をしてしばらくは働いていたものの、やりたいこともなく具体的な目標など一度も立てたことなどない男が適当に選んだ仕事をやり続けるというのは無理があった。

 入社二年目にして退職をし、親には転職先を探す。アルバイトをしながら生活する。などと言いながら、一度も実行せずに早十年。親の脛をかじり続ける生活を送っているのだった。


『本日の天気は――』『わぁ~。凄い!! ドンドン水を吸っていきますねぇこのスポンジ』『ですからね、今の野党は~』『いざ、尋常に勝負!!』『本日で昏睡状態にいる患者は141――』


 少し遅めの昼食を食べながら、チャンネルを切り替え続ける。ニュースにテレビショッピング、評論家の政治に対するバラエティ番組、ドラマ、そしてまたニュース。平日の昼間に見たいものが出てくるはずもなくチャンネルを一蹴したところで男はテレビの電源を落とす。


「あぁ、くそっ――面白いことねぇかな」


 食器を全て空にすると、椅子へともたれかかり、気だるげに口を開く。

 面白いことなど自分から探しに行かなければ見つからないと言うのに、自分から動こうとせず、ただ幸運が来ること待っているだけの怠け者。

 それがこの男だ。


 食器を戻すことすらめんどくさいと感じつつも喉に渇きを覚えて、炭酸水を取りに行くついでに返しにいこうとようやく立ち上がる。


 この家に住んでいるのは竹島の他にも二人いる。父の竹島雄三たけしまゆうぞう、母の竹島典子たけしまのりこだ。

 引きこもってしまった当初は、父である竹島雄三との喧嘩も絶えなかったが、今ではもう見放され、何も言われない。唯一母である竹島典子だけが息子を心配して、説得を心掛けているが、それも上手くいっていない。


「…………ごちそうさま」

「お粗末様でした」


 階段を降り、キッチンに食器を返すとリビングにいた母から返事が返ってくる。


「どうだった?」

「ん、ボチボチ」

「そう…………そうだ、この前、従妹の千代ちゃんの所がアルバイト募集してるって聞いたんだよ。行ってみない?」

「やだよ。あそこ、ただの駄菓子屋じゃん。こっちは勉強とかいろいろやることもあるのに、子供の相手何てしてられないよ」

「そっか……でも」

「あぁもう!! うるさいなぁ、やらないって言ってるだろ!!」


 落ち込んだように顔を伏せる母の姿を見て舌打ちを打ちそうになる。

 何度目かも分からないアルバイトの話。いつものように母親を怒鳴りつけて、見えないようにうんざりとした表情を作って早足でその場を去る。

 階段を駆け上り、自分の部屋の中へと入り、素早く扉を閉めて鍵をかける。丁度その時になって冷蔵庫の中にある炭酸水を取ってくるのを忘れた竹島は大きくため息をついた。


 苛立ちながら椅子に勢いよく座り込む。忘れたのならば取りに行けばいいだけなのだが、それができない。行くならば、両親がいない方が良い。そうして方が誰の顔も見ずに済むからだ。

 そうすれば、仕事を探せだのいつまでこのままでいるつもりだだのと言われないで済む。やりたくもないことを押し付けられたくはない。やりたいことは自分で見つける。ただ、今自分がやりたくないことが見つからないだけなのだ。

 そう言い訳して、もう一度パソコンへと向き直る。


 苛立ちを収めるためには自分の好きなことをするべきだ。こんな面白いことが何一つとしてない世の中よりも、自分の思い通りになる世界がこの電子の中にはある。こんな醜い容姿で女性に見ただけで嫌われることのない自分を創り出せる。

 そう、最近ではeスポーツ何てものもある。それで、金を稼げばいいんじゃないかと自分の頭に浮かんだ提案に太鼓判を押しながら称賛する。


 パソコンの画面が切り替わる。そこに映るのは最近はやりのRPGゲームだ。先程のキチガイとやっていたFPSゲームとは違い、ファンタジー要素のあるゲーム。

 ゲームの名は『マジックパレット』

 とある惑星に不時着した飛行船に乗っていた主人公を物語としたゲーム。迷宮を攻略したり、魔物を討伐したり、村を作ったりと開拓要素もあるゲームで色々と気に入っていた。

 自分だけの世界を作れる。望んだものを手に入れられる世界。


「はぁ……いいなぁ。こんな世界に行ってみたいよ」


 はやりの転生モノの小説なんて現実にはあり得ないと分かっているというのにありもしないことを望む。自身の分身であるアバターそのものになれたら、物語の主人公になれたら面白いのにと、妄想を膨らませる。

 そうして画面を操作していくうちに右上にあるメールボックスに一通の通知があることに気付く。


「あぁ? 何だコレ? 何かのイベントか?」


 そこにあった文章に眉を顰め、意味が分からずに首を傾げる。

 いつもの運営からの連絡かと思い、開けたメールにはこうあった。


『拝啓 竹島裕司様 刺激的な世界へ行ってみませんか?』


 短い文章だ。そして、意味が分からない。

 何故、自分の名前が出ているのか、もしかするとメールアドレスから突き止めたのかと冷や汗を流してしまう。


「何なんだよ。これは……」


 恐怖が三割、困惑が三割、そして、興味が四割。

 何故こんなものが送られてきたのか、一体刺激的な世界とは何なのか。その先がとてつもなく気になった。

 自然にマウスを操作し、Yesのボタンへと矢印キーを動かしていく。そして――


『ありがとうございます! それでは、苦労なされるでしょうが頑張ってください!!』

「は?」


 またもや意味の分からない文面が出現する。

 唯の悪戯か、そう片付けそうになった時、猛烈な眠気に襲われた。


「――ふぐぇ?」


 その日から、男の人生が変わる。

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