第4話 人狼ゲーム④「ジョーカー参戦」

 しかし、清水が遠慮がちに口をはさんだ。


「旦那様。そのスーパーウルトラなんとかルールとかいうのは確か……」


「スーパーアルティメットエキスパートルールじゃ」


「はあ。それですが、確か七人以上でやるルールだったのではないですか」


「あ、しまった……」


 ここに来て、六郎太の盛大な勘違いであった。


「困ったな。お前たちは六人だからプレイヤーが一人足りんわ」


「お爺様が入れば? 常識的に考えればそうなるでしょう」


「儂はゲームマスターをやりたいんじゃ」


「お爺ちゃんていい歳して横文字好きよね」


「うーむ。数合わせが必要なんじゃが、うちには手が空いてるものがおらんからな……」


 六郎太は首をひねり、壁際に控えていた分家の使用人たちに顔を向けた。


「誰か、ゲームに参加したい者はおらんか?」


 急に話を振られたものの、彼らは困惑するばかりである。


 ゲームとはいえ、実質この国の最高権力者を決める勝負だ。そんな前代未聞、史上最大の戦いに、数合わせとはいえ参加したいなどと考えるのはよほどの能天気だろう。


「はい、はーい」


 そんな能天気なメイドが一人、手を上げた。


「それじゃ、わたしが参加していいですかー?」


 誰あろう、イルカであった。


「ほう。君は確か紅子のところのメイドだったな」


「千堂イルカと申します」


 イルカは一歩前に進み出て、ぺこりと頭を下げた。


「ああ、それいいじゃん。イルカを入れたら面白くなるわよ」


 紅子は賛同するが、当然のように王我が抗議してきた。


「ふざけるな。貴様なんぞ入れたら紅子と結託するに決まっているだろう。そんなことが認められるか」


「イルカはそんな事しないわ。こいつは、本気の勝負となればわたしだって容赦なく蹴落としに来る奴よ」


「そんな保証がどこにある。信じられるわけあるか」


「てゆーか、数合わせで誰か入れるにしても分家の使用人は駄目でしょ。あからさまなズルはしないにしても、絶対忖度ゲームになるし」


「そうですわね。やっぱりお爺様が入る以外ないと思いますわ」


 王我だけでなく、紫凰も美雷も反対意見を示した。


「ありゃりゃ、やっぱり駄目ですかねぇ」


 元々あまり期待していなかったのか、イルカはあっさり引き下がろうとする。


 が、それを引き留めるように天馬が手を上げた。


「俺は賛成だ。他に誰もやりたい者がいないなら、彼女でいいじゃないか」


「だがこいつは紅子の犬だぞ」


「千堂は不正をするような奴じゃない。……いや、勝ちを譲るような奴じゃないと言ったほうが正しいかな」


 天馬はちらりとイルカに目を向けて笑う。


 イルカも、わずかに微笑み返した。


「そもそも空峰家から俺と紫凰の二人が参加しているのだから、炎城寺家から二人出ても問題ないだろう」


「お兄様……?」


 突然炎城寺家のメイドの肩を持ちだした兄に、紫凰が怪訝な目を向ける。


「わたしも賛成です」


 今度はそよぎが手を上げた。


「このゲームにあと一人誰かを入れるなら、イルカさんがいいと思います」


 六郎太が小さくうなずいた。


「ふむ。六人中三人が賛成するならよいだろう。千堂イルカ君、参加を認めよう」


「ひゃっほーーー! ありがとうございます!」


「ただし君が勝ち残ったところで、五輪家の当主にしてやるわけにはいかんぞ」


「あーはい。それはそうでしょうね」


「かわりに何かご褒美を用意しよう。何がよいかな?」


「えーと……じゃあクルーザー! ここに来る時に乗ったクルーザーとか貰えちゃったりしますか?」


「よかろう。では君の所属するチームが勝ったときは、商品としてプレゼントしよう」


「マジですか! わはー! がぜん燃えてきましたよーーーー!」


「なんですの、このやかましいメイドは」


 普段、イルカの五倍はやかましい紫凰が顔をしかめる。


 とはいえ六郎太が許可した以上、イルカの参戦にこれ以上異議を唱えられる者はいなかった。


「ではイルカ君、ゲームに参加するのだから君もテーブルにつきたまえ」


 急遽八つ目の椅子が用意され、イルカはヘラヘラ笑いながら五輪一族のVIPたちと同じテーブルに座った。


 どんな心臓だ……と、他の家の使用人たちが呆れたようにイルカを見ていた。


「一応言っておくがイルカ君、紅子と敵チームになった場合に不正や手心を加えるような真似は許されんぞ」


 六郎太が釘をさす。


「はいはい。それはもちろん心得ております」


「それだけはしないから安心して。ってゆーか、こいつ実際わたしに歯向かったことがあるしね。……あ、なんか思い出したらムカついてきた。ちょっと殴らせなさいよイルカ」


「ぼ、暴力は禁止です! 手を出したら即失格ですよ、お嬢様!」


「…………」


「そう不満そうな顔をするな王我。もしゲーム中の行動で紅子とイルカ君に不審な行為があった場合……たとえば『人狼』になったイルカ君が『村人』の紅子にそれを教えてわざと負けた、と思われる場合は、儂が審判として裁定を下す。それは天馬と紫凰についても同様じゃ」


「分かりましたよ」


 王我はしぶしぶといった体で言った。


「よし。準備にずいぶん時間をくったが、これでやっと始められるの」


 清水が額縁からカードを取り出し、六郎太に渡した。


「これより一人一枚、ランダムに役職カードを配る。カードは自分一人で見て、確認したらすぐに儂が回収する。当然だが他人のカードを覗き見ること、自分のカードを見せる事は厳禁じゃ。よいな」


 六郎太はカードを軽くシャッフルしてから立ち上がり、七人に配っていった。


「まずはイルカ君」


 イルカの前に、一枚のカードが裏向きで置かれた。


「王我……紫凰…………そよぎ」


 それぞれカードが配られる。


 彼らは皆、一瞬だけカードを持ち上げて絵柄を確認し、すぐに裏向きに戻した。


「美雷……天馬……そして紅子」


 最後の一枚が紅子の前に置かれた。


 このカードに書かれた役職で、紅子の所属チームが決まるのだ。


(さーて……なにを引いたかな…………)


 紅子は胸躍らせながらカードを持ち上げ、絵柄を確認する。


 そこに描かれていたのは、巨大な満月を背景に猛り狂う獣の姿。


 ――――『人狼』、だった。

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