銃約のミリタリア
セイ
プロローグ
荒野に建つ無骨な砦の上、僕は溢れ出る緊張を解すため、大きく深呼吸をした。
しかし、周辺のほとんどの空気が乾燥し、土煙が舞う場所での行動だ。
「…うぇっ、ゴホッ!」
結果は、気管にゴミが入りこみ大きく咳き込むだけだった。
だがまあ、ほんの少しだけ気が紛れただけマシだろうと思うことにした。
「準備はどうだ?」
ふと後ろから女性の声がした。
その、意識していないのに人を威圧してしまうような声色に心当たりがあった僕は、後ろを振り返らずに答える。
「装備は万全です。…ただ、心の準備がちょっと…。」
「防衛軍の怪物の一角が何を言ってるんだか。」
「前々から思ってましたけど、なんでいつの間に僕も貴方と同じ怪物認定されてるんですか。貴方の方がよっぽどバケモノで…」
「喝、入れてやろうか?」
「あ、全力で遠慮します。」
女はクックックッと歪に笑うと、僕の隣に立ち、戦況を見渡した。
眼前には、綺麗に整列された完全武装の防衛隊員たち。
その総数は千を容易に超える。
国中からかき集められた選りすぐりの精鋭たち。しかし、それほどの力を持った彼らの目に楽観はない。
あるのは少しの緊張と恐怖、そして…
「そろそろか。」
女がそういった瞬間だった。
『────────!!!!!』
遠い、遠い彼方から、大地を揺らすほどの衝撃が襲ってきた。
「くっ……!」
「………。」
思わずよろめきそうになるのを、鍛え上げた足腰と気合いで踏ん張る。
そして、僕はその衝撃の原因を目にした。
〘それ〙を認識した途端、先程まであった緊張と恐怖という負の感情が、霧が晴れるように消え去った。
「心の準備は出来たか?」
「...はい。」
女の言葉に、僕は短く答えた。
緊張も恐怖も無くなった僕の心に、燃え上がるような感情が沸き起こる。
この感情の名前は、なんというのだろう。
あいつならば、いつも僕の知らない言葉を教えてくれたあいつならば、すぐに答えを言ってくれたでだろう疑問。
だがこれは、これだけは、自分の脳ではなく心で、魂で理解出来た。
この感情の名は、決意だ。
魂の奥から湧き上がる、信念を伴った決意だ。
「…ふふっ。」
僕は、自らの考えにすこし恥ずかしさを感じて照れくさくなり、そっと笑った。
そのまま、腰から大事な、大事な拳銃を取り出すと、そのまま敵へと突きつけた。
天空を覆うほどの、巨大な飛行船へと。
大切な、大切な友人へと、その銃口を突きつけた。
その日こそが、世界の行く末を懸けた戦いの始まりだった。
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