閑話: 深夜2
ボクの問いかけに、2人は困惑していた。ちらちらと目を合わせて何かを相談しているような顔をする。
(目と目で通じ合っている)
心の中でちょっと笑った。なんだか可愛い。そして、あまり言いたくないのもよくわかった。
「なんでそんなこと聞きたいの?」
カールに問われる。当然の質問だろう。
「2人が王族と縁があるなんて聞いていないから」
ボクは答えた。カールとロイドのことを、よく考えたらボクたちはあまり知らない。学園の先生になる前に何をやっていたのか聞いたこともなかった。
「話すようなことでもないだろう?」
カールは苦く笑う。
(確かに)
ボクは納得した。生徒にそういう話をする必要性は全く無い。だが、ここで引き下がっては疑問は疑問のまま終わってしまうだろう。それは嫌だった。
「でもこれからは週末ごとに王宮に通うことになりそうだから、知らないのは困る」
食い下がる。それっぽい言い訳を口にした。だがそれは本当にただの言い訳だ。本音を言えば興味本位に他ならない。
(だって、気になる)
心の中で呟いた。何も知らず、地雷を踏むのも怖い。知らないより知っておいた方が安心だ。
「それなんだけど、王女との間に何があったの?」
ロイドに問われた。
(そっちも気になるよね)
ボクはうんうんと納得する。ここはギブアンドテイクでいくのがいいのではないかと思った。
「ボクも話すから、その前に2人のことを話して」
ボクはお願いする。意識して、可愛い顔でにっこり笑った。
「にゃあ」
だめ押しとばかりに可愛く鳴く。
「くっ……。可愛ければ全て許されると思っているな?」
ロイドは悔しそうな顔をした。
(思っている)
心の中で答える。
「にゃあ」
ボクはうんと頷いた。
ロイドは困った顔をする。
「大した昔話じゃないよ……」
微妙に笑いながら、ロイドは昔話を始めた。
ロイドとカールは学園を卒業後、王宮で働くことになった。
ロイドは魔法師師団。
カールは近衛師団。
それぞれ就職する。貴族は嫡男と次男以外は家を継ぐ可能性はとても低い。だが、乳幼児の死亡率は高く、万が一のことを考えて多く生む。貴族にとって、血が絶えることは何より避けなければいけない事態だ。必然的に兄弟は多くなる。そして無事に嫡男が成長した場合、三男以降は自活の道を探さなければいけなかった。貴族というのもなかなか厳しい。その三男以降の就職先として人気なのが王宮だ。
カールの親に引き取られたロイドは、最初から王宮で魔法師師団に入ることを目標としていた。そしてそんなロイドが心配なカールも同じく王宮に就職することを目指す。嫡男であったが跡継ぎは弟に譲った。自分は近衛師団に入る。勤務は別でも、同じ王宮で働いているなら顔を合わせる機会もあった。魔法師と近衛なら、一緒の仕事に出ることもある。
だがカールが着任したのは王宮の中でも後宮に近い場所だった。数年後、生まれたばかりの王子の護衛に回される。それはあえて年の若い騎士が選ばれていた。護衛という名目ではあるが、遊び相手も兼ねている。カールは真面目なので、その仕事を精一杯務めた。物心ついた王子はカールのことを実の兄のように慕うようになる。遊び相手としてもカールを気に入った。
カールにぎゅっと抱きしめられるのを好む。
貴族は乳母に育てられるのが普通だ。王族も例外ではない。王子は乳母の手で育てられていた。乳母は王子と一定の距離を取るように命じられている。近づきすぎるのは禁止されていた。
そのため、王子は人肌の温かさを知らなかった。カールに抱きしめられて、初めて知る。王子はカールに温もりを求めた。カールは王子の求めに応じ、よく抱っこするようになった。王子はカールの腕の中で昼寝をするのが習慣になる。カールにべったりになった。
そんな王子をカールも可愛く思う。もともと面倒見のいい長男だ。慕ってくれる小さな子供が愛しくないわけがない。カールは王子に愛情を注いだ。
王子とカールは蜜月のような時間を過ごす。しかし、そんな日々は唐突に終わった。カールの配属が変わることになる。
辞令が下りて、王女の護衛になった。
そこにはなんらかの圧力があったらしい。それがどこからの圧力なのかは実はカール本人にもわかっていない。
王女が弟に意地悪したくてカールを取り上げたという噂もあった。だが、カール本人は自分を王子から引き離したのは国王か王妃だと思っている。
王子はカールに懐きすぎた。
国王夫妻がそのことに危機感を抱いたとしても不思議ではない。
しかし、王子は姉がカールを取り上げたという噂を信じたようだ。王子と姉の仲はそれで悪くなる。
「思ったより、複雑」
ボクは呟いた。
カールは苦く笑う。
(でも、恋愛感情ではないらしい)
ロイドが否定したのはそういうことかと納得した。王子の本心はどうかはわからないが、2人がそういう関係でなかったことは確からしい。
ロイドは自分のことも話してくれた。
ロイドは魔法師師団に入ったのは、まだ前妻の王妃が生きていた頃だ。当時は唯一の跡取りであった王女に魔法を教えることになる。当時の王女は聡明で素直だった。そんな王女にロイドはいろいろと教えたらしい。いい師弟関係が出来ていたようだ。だがその後、王女の人生はいろいろ変わる。継承権が王子のものとはっきり決まってからは、ロイドが魔法を王女に教える事は出来なくなった。ロイドの所属もそれに伴って、ちょっと変わる。
その変わった後のことは詳しくロイドは語ろうとはしなかった。聞いてはいけないのだなとボクも察する。その事については聞かなかった。
「じゃあ、王女様とは何もないの?」
それだけ、確認する。
「ないよ」
ロイドは答えた。少し間があった気がするが、気のせいだということにしようと思う。関係性がだいたい見えたので、これ以上突き詰めるつもりはない。
そしてボクも王女との話をした。
彼女がもう意地悪な王女という役柄に疲れていることを話す。そのイメージを変える切っ掛けに協力することにしたことを打ち明けた。
「ネコにメロメロな王女様なんて、怖くないでしょう?」
ボクは笑う。
「確かに、怖くないね」
カールが同意した。
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