創作活動について思った事を書くだけ。

納人拓也

特に役には立たない創作活動のアレコレソレ。

レビュー企画のところに置いてたやつ。

第1話 好きなシリーズ物が映画で炎上した話

※拓也がレビューしてる作品は架空作品です。どこかで見たような話だと思っても、それが何の作品なのか書き込むのはご遠慮ください。架空の作品です。この作品に出て来る内容は現実のお話、団体、または人物と一切関係がありません。関係あるように見えるかもしれませんが関係ありません。



「止めておいた方がいい」


 その日、友人である納人のうと 啓馬けいまは普段の軽い調子から外れ、随分と真剣な表情でそう言った。


 俺の名前は静井しずい 拓也たくや、そこそこ良い年齢のおっさんだ。一応、作家を目指して黙々と書き続けて、最近はレビューもやってぼちぼち好評を貰った。そのせいで裏で叩かれてる可能性や、誰かに背中を刺される可能性がある以外はそこら辺に居るおっさんだ。

 今日も今日とて「自分は楽しいけどこれ面白いのか……?」と軽くノイローゼ気味になりながらも、色々とアイディアを捻り出している。


 さて、そんな俺の楽しみの1つに映画がある。とは言ってもなんでも見る訳でもなく、ふらふらと映画館に出かけてはランダムで見たり、友人から勧められた映画を見る感じだ。レンタルビデオ店の端から端まで制覇するような、根っからの映画ジャンキーという訳でもない。

 だがしかし、そんな俺が待ち望んでいた映画がある。主人公たちが成長している作品で、その作品はアニメ自体に思い入れが物凄くある、という訳ではないが当時は大好きな作品でゲームもそこそこ集めプレイして、原作の漫画版は最近全カラー復刻版も出て来て、俺の人生においてバイブルと言っても過言ではないほど好きだった。なので、俺は早速見に行く予定を立てていた。

 そして冒頭の話に戻るが様子を見た友人の啓馬は、何やら言い難そうにした後で待ったをかけたのだ。


「拓也、言い難いんだけど……あの作品、炎上してるぞ」

「えっ」

 俺は信じられない気持ちで啓馬の言葉を聞いていた。シリーズ物の炎上……それはつまり、ファンの怒髪天どはつてんいてしまった作品という事だ。ファンにとっては最も恐ろしく、また悲しい事と言える。

「えぇ……そりゃあ、シリーズアニメ最新作はラストがクソ微妙なオチだったけど、映画は原作寄りじゃねぇの……?」

「まず相手がヤバイ。どう考えてもボス枠にしちゃいけない奴がボスに来た」

「誰?」

「お前が好きな番外編映画の〇〇〇(作品名)の主役、しかも終盤の姿」

「はっ?」

「主役」

「あ、あの……×××××(声優名)がやってる?」

「そう」

「マジ……?」

「この時点でお前にとっては滅茶苦茶辛い作品になるのが予測できるんだよ」


 その主役は臆病で戦いが苦手ながら『生まれてはいけない存在』として逃げ惑いつつ、最後は友人のために立ち上がる決意をした奴だった。成長した彼のラストは正直泣けて「この作品がこんな短く収まってていいのか」と子供だった俺は号泣した覚えがある。正直これもシリーズ化して欲しかった。

 そのくらい思い入れがあるのだ。そんな彼が相手というだけで当然、動揺は隠せない。待ってくれよ、最新ゲームだと報われないラストで精神ぶん殴られて、その次のハードで出た作品で救済あったから救われた気分になってたのに……敵役に?

「で、でもあのシリーズ味方が裏切ったり暴走するのありがちだし……」

「馬鹿野郎! 目を覚ませよ拓也! 今まで過去作キャラをボス的な立ち位置や訳ありな敵にした作品が上手くいったケースは物凄く稀だ!!」

「ぐっ……! 思い当たる節が結構ある……!!」


 スターシステムは扱いを1つ間違えてしまえば、旧作のファンからマシンガンに撃たれてしまう事は確実だ。最悪ファンからアンチへ転落した奴が出て来て、下手すると周りの人間や友人関係にヒビが入る事すらある。

 それくらい、過去作が名作であればあるほど扱いは慎重にならなければ、誰をも死に至らしめるような、調合を間違えた劇薬が出来上がる。だが悲しいかな、名前を出せば売れる事もあって心無い過去作、シリーズ物の安売りをしてしまう事は珍しくないのだ。


「アニメ作品のシナリオが微妙で、ゲーム作品のシナリオが良いのどう考えてもスタッフの選び方が間違ってんだよな……アニメ最新作もゲームで好きだったキャラが逆輸入されて、ワクワクしてたらアニメで泣くだけのお邪魔キャラになって後半はただただ脱力するしかなかったし……」

「その時点でアニメ制作陣がたぶん映画にいってるんだが、その映画の作画はアニメ以下らしいぞ」

「……いや、俺はまだ諦めない」

「拓也お前……まさかこんだけ言っても行く気なのか……?」

 啓馬が俺を見る目は「信じられない」という視線、そしてその中には友人として心配してくれているような、そんな感情が混ざっている事は分かっていた。だが、直接見ないで感想を語るなんてしたくない。

「映画レビュー見て映画を見た気になるのは嫌なんだ。ファンとしてもな」

「……分かった。もう止めないよ拓也……ただ、生きて帰って来てくれよ」

「あぁ、約束だ」

 俺達は熱い握手を交わし、名残惜しく感じながらもそこで別れた。啓馬の背は日射しに照らされ、どこか寂し気に小さく、騒がしくなり始めた街の中へと消えていった。俺はスマホを取り出して、映画館のスケジュールを確認する。昼過ぎ、14時頃……その時間、決戦の幕開けだ。

 決意を固めた俺は、早速ネット予約を入れたのだった。









「で、感想は?」

「ちゃんと前編と中編と後編もチェックしたけど約束された地雷だったな」

「目が死んでるぞ拓也」


「オリジナルキャラがひたすら邪魔。しかも作画はカックカクなのにたぶんPV用に映すだろうとこだけ気合入ってて、時々戦闘シーンで20分は超カッコイイ所があるのが逆にはらわたえくり返る思いだった」

「なんかもうお前、死地を乗り越えてきた顔みたいになってるな」


「最初のラスボスとの戦闘シーンだけは元の造形がいいせいか、俺の思い出補正なのか、カッコよく感じて腹立つ。でもラスボスがあっさり退場したの見て出た感想が『序盤の負けイベか』じゃなくて『あぁ、こいつら全編通してキャラを細かく描く気ないな……』だったぞ。それくらい全体的にやる気が感じられない。一般アニメの出来以下でしんどかったな……」

「さすが好きなシリーズだけあって、いつも以上のマシンガントークと辛口評価だな……」


「ファンがどうこう以前の話なんだよ、全体の出来が。意味分からねぇわ、あの口開いたまんま喋る止め絵連打のシーン。突然出て来て、緊迫した場面でもないし、画面に描きこみされてもない。なのにしばらく馬鹿みたいに口開けて空見上げてキャラはセリフ喋ってて、アレ何がしたいんだよ。終盤で見た時に笑っていいのか泣いていいのか分からなくなったわ」

「お前見てると思い出ブレイクされたファンの執念がいかに怖いかがよく分かるよ……じゃあ、褒めどころが全くないのか?」

「いや、全くない訳じゃないんだ」

「あれ、意外だな。ボロクソ叩いて終わりかと思った」


「さっきも言ったが……思い出補正あるかもしれないけど、CGの出来は全体通して良い。全体的に手描きでまとまってる戦闘シーンは頑張ってたし、特に序盤の戦闘シーンは結構好きだぞ。人物以外の作画は比較的に安定してると思う。動いてるところ含めて人物だけがなぜかヤバイ」

「PVだけだとそういう細かいところは伝わらないからな……」

「キャラ多いから分けて話を描くのは良いと思うぞ? でもオリキャラがどうしても中心になってる上に、ストーリーも全編『これ3人がシナリオ別々に話書いてきたのか?』と思うくらい前と後ろが繋がってない。ただ1作ずつ見れば決死の覚悟で仲間を助ける中編はそこだけちゃんと苦悩も葛藤も描いてて、昔見た思い出が蘇った事もあって少し泣いた」

「あ、泣けるところはちゃんとあったんだな」


「ただ後編には記憶喪失って代償はあったけど、いきなり無かった事になって完全復活したせいで、急激に冷めていったんだけどな。あの決死のシーンなんだったんだよ。このシリーズ、あぁいう蘇りやるの一番慎重な作品だったはずなんだが」

「作品もお前も持ち上げて落とすタイプだったな……」

「中編の出来が良いせいで『後編になったら化けるかもしれない』と淡い期待を持った俺の心を返せ」

「アレだな、アニメのシナリオでたまに良いシナリオ作家が書いた話を、元々居た構成が台無しにする構図だな」


「もう作品の中心に居るオリキャラがヒステリックにわめく我儘なシーン続いて、よく作品の批判にある『主人公たちの進行方向にひたすら立ち塞がって邪魔なヒロイン』の典型でイライラが止まらなかったな。こいつのせいで周りが巻き込まれていくのもあって、余計に。成長するならまだいいのに終始『止めて!』って泣くだけ。このヒロイン以外にも仲間の1人がヒステリックな奴になってて、思春期だとしても、前作品で色々と困難乗り越えたはずなのになんで今更ヒステリー起こしてるのか分からない」

「あー……思い出と噛み合わないタイプの作品になっちゃったやつか……」

「前作のラスボスをかませにして復活させたり、強キャラの仲間達あっさり全滅させて放置したり、色々と言いたい事は腐るほどあるんだが……語れば語るほど、このシリーズのゲームを買う意欲が失せる気がするから止めとく。アニメ微妙でもゲームは楽しかったりするからな、このシリーズ」

「アニメ見ないでゲームだけ買うって楽しみ方、今思うと結構変わってるよな……」


「ゲームは面白いから仕方がない。いやぁ、最新作のゲーム楽しみだなぁ。今までアニメ版ばっかり注目されてたのに漫画版オリジナルのラスボスを完全3D再現! ワクワクが止まらない……パロディの時系列だったとしても、ストーリーはそこそこ期待できそうだし……漫画版のストーリー完全再現してくれねぇかな。3話で切られたOVA版だけじゃ満足できないし……」

「というか、あんだけ映画はボロクソ言ってて、同じ所が監修してるはずのゲームシリーズは買うんだな」

「あぁ、あそこの会社、最近ゲームの方は力入っててハズレが少ないからな。初代の面白さを再現しようとして、ストーリーも仕上げて来てる。まぁ物足りなさはあるけど、それでも考えさせられる話もあるし」

「へぇ、良かったじゃないか!」

「昔はブームになった瞬間に段々と雑な仕上がりになってな……システムとキャラ流用しまくって新しいデザイン全く出さなくなって、それが4作くらい続いてさすがに人が離れていって、つまらない作品を出しても炎上すらしなくなったくらいにはファンが消えてたな」

「あー……」

「デザインはほんとカッコイイんだけどな……最近やっとこさ一新して、リメイクと新シリーズで2作出たんだけど、どっちも俺好みだった」

「普段は辛口なのに好きなシリーズになると途端に色々と甘くなるよなぁ、お前」

「俺だって人間だしな、好きな作品はファンとしては擁護したい気持ちはあるのさ。もちろん、他の名作と比べたら凡作くらいだろうな、っていうのは認識してるんだけどな」

「映画は?」

「一番新しいやつは文句なしの駄作でいい」

「そこは素直なんだな……」

「ファンでも擁護しきれないもんはある」


          *


 そして月日は流れて、あれから1年後。いきなり、その運命の日がやって来てしまった。

「ど、どうするんだ拓也?」

 俺の反応をうかがうような啓馬に、俺はどういう返事をしていいか分からないまま、ただただ買ったばっかりの映画雑誌をおそらく今までにないくらいのしかめっ面をして眺めていた。


 の続編が出たのだ。しかし声優はそのままで作画のデザインを変更し、またしてもシリーズを一新して、オリキャラが消えている代わりに違う過去作キャラを追加。正直言って、微妙な仕上がりではあるが……やはり懐かしさには惹かれる面もある。

「むががっ、ぐぐ……ぎぎぎ……!!」

「某麻雀漫画の悶絶もんぜつシーンみたいな声出し始めたな」

「いや、でも、これは……いやしかし、良作を見逃してしまうのは……!」

「悩んでるなぁ。そこまでならいっそ見ないって選択肢もありなんじゃないのか?」

「……よしっ、決めた」


「まず映画サイトの前評判をチェックしてから決める」


「映画レビュー見て映画見た気になるのは嫌だったんじゃないのか?」

「見るかどうかのチェックだけだから今回は許してくれ」

「まぁ俺も気になるんだけど……あっ、結構評判いいみたいだぞ! 星も3以上あるし、これならそこそこの作品なんじゃないか?」

「前3作品は星が2切ってて全部低評価なのに、90分の新作1本に負けてるってどういう事なんだよ……」

「古傷開いてるじゃねぇか」


「でも凡作くらいならこのシリーズではまだ良作だな」

「凡作で良作扱いになるの悲しすぎないか?」


           *


「俺は思うんだ。何のためにこの世に『駄作』って呼ばれてる作品達があるのか。そしてそれらを見て、創作する側としてどうしたらいいんだろうかって」

「でも、作品見たくらいでそこまで考える奴はあんまり居ないんじゃないかな」

「まぁ、俺は創る側になると難しいのは知ってるからな。ただ、そんな事を考えなくて良いように見ただけで人を楽しませたいなとも思うんだ。だからこそビッグネームで釣ってがっかりさせるやり方は信用を裏切るようで好きじゃない。ファンの惰性に甘えてるというか」

「会社も不景気の影響を受けてきてるんだろうなぁ、っていうのが作品の出来からも伝わってくるの、悲しくなるよな」

「そうだったとしても、他にソシャゲ化した後でグッズで回収するとかやりようはいくらでもあったと思うんだ。もっと人道的なやり方や良作を作った開発元が評価されていってほしいね」

「そうならずに下請けが倒産したり解散したり、そういうニュースは見てるだけでも悲しくなるからな」

「色んな作品に触れて思うのはやっぱり面白いとか感性とか、そこでも人と人である程度ぶつかる事もあるし誰をも唸らせる作品を作るのは難しい事かもしれないけど、せめて色んな人を楽しませられるようにはしたいよなぁ……ぼんやりと思ってるだけで技術的なもんが備わってるとは思えないから、学んでいくしかないが」

「創作って難しいな」

「難しいからこそ名前を残したくて挑む人も多いのかもな」

 

 映画館からの帰り、空を夕暮れを見ながらぼんやりとそんな事を呟いた。

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