第4話 ダメダメな二代目②



 帰り道でテーレマコスは海水に手を浸しながらアテナ様に祈りを捧げ、自分の屋敷に戻ります。すると既に不埒者達がいつもの如く欲しいままに振舞っているのを見つけました。つくづく舐められてますね、こいつは。



 テーレマコスは使用人のエウリュクレイアに旅立ちを告げ、母には決して知らせないようかたく言いつけました。



 それはいいんですが、一体どうやってスパルタまで行くつもりなんでしょうねこいつ。無計画にも程があります。



 その間にアテナ様はテーレマコスに姿を変え、浜辺の人達を説いて船出を約束させ、準備を整えました。夕方になり不埒な求婚者達が寝静まった頃、再びメントールの姿になりテーレマコスを船に導くのです。



 結局はアテナ様のおかげ……と言うか完全にアテナ様が働いているだけですね。


 そして駄目な二代目テーレマコスはアテナ様と共に乗船し、夜陰に紛れて一路ピュロスへと向かうのでした。 



 翌朝一行はピュロスへと到着しました。丁度そこではポセイドンに生贄の牛を捧げて屠っているところ。テーレマコスが近付くとネストールの子ペイシストラトスが気付き、招いて手厚くもてなしてから身の上話を聞きました。


 テーレマコスが素性を話し、父の行方を問うとネストールはトロイア戦争を思い起こして懐かしむのです。



「オデュッセウスの行方は分からへん。せや、長い間諸国を放浪して最近帰国したスパルタの王・メネラーオスを訪ねるのがええやろ」



 とアドバイスし、その夜は泊めてやるのでした。


 翌日、ネストールは駿馬二頭をで仕立てた車を用立ててやり、ペイシストラトスを案内役につけて送り出しました。二日後スパルタに到着した二人の若者はメネラーオスの宮殿に到着するのです。


 あれ? 船に乗り込んだアテナ様は……? 細かい事を気にしたら駄目なんでしょうね。神様ですし。


 メネラーオス王はこの時、息子と娘の二組の婚礼をまとめてあげ、宴会の最中でしたが快く会ってくれました。



 しかし王は自分も昔ほど幸せではないとボヤき、往時を偲んで四方山話に花を咲かせるのでした。そしてトロイア戦争に話が及びオデュッセウスの名が出てきた時、テーレマコスは涙を流したのです。



 メネラーオスが訝しんでいると妻のヘレネーがやって来て「この人……オデュッセウスさんにそっくりなんちゃう?」と気付き、メネラーオス王も同意しました。



 ペイシストラトスが友人の素性を明かし訪問に用向きを伝えると大いに喜ぶのでした。と言うか素性も分からない若造と会ってたんですね、この王様は。懐が広いのか不用心なのか……。



 と言うかヘレネーもしれっと元鞘のようです。大戦争の元凶のくせに。この悪女の罪はどうなるんでしょうね……。


 兎も角メネラーオス王はオデュッセウスの知略と武勲を大いに語り、彼の消息について知る限りの情報を与えるのでした。



「ワシがかつて放浪の途中、なんやかんやでエジプト近くのバーロス島に二十日間引き留められた時の事や。ニンフのエイドテエーの手引きで海の老神プローテウスに会い話を聞いた。オデュッセウスは仲間とはぐれ、一人でニンフ・カリュプソーの島に引き止められ泣いて暮らしてるとの事や」



 メネラーオス王は直ちに出立しようとするテーレマコスを尚も引き止め、黄金の飲み口がついた銀造りの酒杯を送り別れの宴を設けました。



 すぐに行かせてやれば良さそうなものを……。単に飲み相手が欲しいだけなんじゃ……?


 一方の不埒者達はテーレマコスが出帆したのを知ると、帰途を待ち伏せて葬ってしまおうと画策しました。無能VSクズという凄い構図です。



 母・ペーネロペイアはこれを知るとアテナ様に我が子の無事を祈るのです。アテナ様はそれを聞き届け、彼女の妹の姿で夢に現れて「テーレマコスは神々の保護下にあるさかい心配は要らへんで」と落ち着かせてやるのでした。明らかにオデュッセウスの為でしかないのですが、結果的には無能な二代目も神の保護下ですね。



 そうとは知らない不埒者達は、ある小島の陰に隠れてテーレマコスの帰還を待ち続けるのでした。




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