眼鏡Resistance

海月ゆき

序 誰が為の鈴

 ――ぎい、


 風に煽られて、二本の縄が揺れる。縄に重みを与えているものは――首吊り死体。

 雄弁な沈黙の気配が場に満ちる。



「終わっちまったな」


 ぎい、と縄を揺らしながら、片方の死体が口火を切った。ロ元は黙したままだ。


「おいおい。まだ逝くには早いだろう。返事く

らいしたらどうだ?」


 薄い沈黙の後、もうひとつの死体が面倒そうな声を上げた。


「私は君と違って、静かに逝きたいだけだ」

「そうかい」


 阿々としながら、ぎい、と縄を揺らす。豪快な男だ。


「なあ。もし来世っつうのがあるとしたら、だが」

「らしくないことを言う」

「うるせぇ。――その時まだ戦が続いていたら」


言わんとすることは分かっているとでもいうように、冷静な声は淀みなく続ける。


「また供に閧を挙げるか。……それも良かろう」


 また軽い沈黙が降りた。首にかかった縄が、ぎい、と満足げに軋んで音を立てる。


「もう逝くぜ」

「ああ。またな」



 途端に風が止む。後には音の鳴らない鈴が二つ、垂れ下がっているだけだ。


 赤をたらふく吸い込んだ凄惨極まるその場所から少し離れた所。群がる野次馬に紛れて二つの鈴を見つめる少年がいた。表情は分からない。

 だが服を押さえる手が微かに震え、耐え忍ぶように息を詰めていた。



 ――誰が為に、鈴が鳴る。

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